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第13話 運命の王子様②

 悔しい、悔しい、悔しい!




 前世の記憶を思い出すまでのあたしはお金持ちの男を選んで声をかけてはあたしの虜にしていった。たぶん、無意識に前世の恋人である王子様の生まれ変わりを探していたのだと思う。なぜお金持ち限定なのかって?そんなの、王子様だったんだから例え今王子じゃなくても絶対お金持ちに生まれ変わってるに決まってるからだ。元王子が貧乏人なんてありえない!




 でもどいつもあたしの王子様じゃなかった。だって、あたしに少し貢いだらすぐ破産するんだもの。ちょっと高級な宝石やドレス、美術品を買っただけでそんなになるなんて所詮偽物だ。まぁ、全部気に入ら無かったから売っちゃったけどその後で返してくれとか訴えてくるなんて……もっと心の豊かな人たちだと思ってたのに心底がっかりした。騙されたってことよね。




 あたしってなんて可哀想な女なのだろうか……悲劇のヒロインって、まさにあたしの事だわ。




 でも、記憶を思い出してからのあたしはオスカーだけ。オスカーを振り向かせるためにそれはもう頑張ったんだから。今までの経験で培ったものを全て使って、ウブだけど魅力的で思わず既成事実が作りたくなる女を完璧に演じて見せた。




 あたしは完璧だった。それこそ今までの中で1番魅力的な女だったはずだ。




 それなのに、オスカーはあたしの体に指先すら触れてこない。あたしがどんなに胸を押し付けても少し顔をしかめてから作り笑いを浮かべるだけ。いったい何がいけないのだろうか?




 しばらくしてから隣国から来たという女が現れた。あんまり見たことない毛色の女がだったけれどオスカーの事が好きらしく、セレーネを毛嫌いしてる。なんでも隣国の王女らしいが王族だというわりには品が無くやたらオスカーにすり寄ってばかりの下品な女だった。隣国の事はよく知らないけど、いくら王女でもこんな女がオスカーに好かれるはずがない。でもあたしは馬鹿じゃないから、せいぜいあたしの引き立て役になってもらおうと思ったのだ。こんなのを見た後ならあたしの素晴らしさがよりわかるはずである。




 だから下品な女がオスカーにまとわりついてる間にセレーネに嫌がらせをしてやった。セレーネが王子の婚約者の立場を使ってあたしに酷い事をしたと公衆の面前で訴えてやったのだ。全部、記憶の中で前世のあたしが悪役令嬢にしてやった事だからまるで本当にあった事のようにリアルに口からスラスラと出てきたのに自分でも驚いたくらいだ。みんな複雑な顔で聞いていたしこれならセレーネの立場は悪くなるはずである。どうやら他の令嬢たちもに一丸となってセレーネを口撃してくれているみたいだし、このままあたしをいじめた罪で断罪されればいいのよ!前世のあたしの恨みごとうけるがいいわ!




 下品な女もあたしと交互にセレーネに嫌がらせをしているようだけど、目の前で転んで足を引っかけられたと訴えるなんて古臭い手だなと思った。でもセレーネが戸惑っていたと聞いたし、案外効果があったのだろうか?まぁ、この国に来たばかりでまだ慣れていない隣国の王女をわざといじめる公爵令嬢なんていかにも悪役令嬢らしいし、この噂をもっと広めてやろう。上手く行けばセレーネのせいで隣国との仲が悪くなるかもしれない。そうしたら隣国や王家からもセレーネが訴えられるかもしれないと考えたのだ。いくら公爵令嬢だからってそうなれば破滅するはずである。これも全部、前世から今世まであたしの邪魔をした天罰よ!うふふ、いい気味だわ!






 そんな日々が続いた。




 オスカーは相変わらずあたしには指一本触れてこないし、飽きもせずにセレーネの話を延々とするだけ。どうやら隣国の王女も同じで、ふたりきりになったりくっついて歩いているようだけどオスカーからその女に触れることは無いらしい。きっとあたしのように延々にセレーネの話を聞かされているのだろう。




 あり得ないとは思うけれど、もしかして男色だったりとかしないわよね?それか特殊な性癖でもあるのかしら。それとも、まさか本当はセレーネを好きだとか……いや、それはないか。もしも本当にセレーネが好きならば他人にあんな悪口を吹聴したりしないはずだ。だって好きな人の容姿をあんな風に貶めるなんて聞いたことがない。




 きっとオスカーはまだ精神がお子様なのだろう。それならば、これからあたしがリードして大人の世界を教えてあげればいいだけだ。




 それからは、隣国の王女とはまずはセレーネを陥れて蹴落とすまではお互いの邪魔はしないという暗黙の了解でうまく付き合っていた。どちらが先にオスカーのお手付きになるかの競争もしてたが、。あんな女に負ける気はなかった。




 あたしは今日も流行りの香水をたっぷり全身に浴びるように振りかける。この香水は女のフェロモンを倍増させると娼婦の間で人気らしい。父親の愛人は人気No.1の有名な娼婦だった女なので情報に間違いはないだろう。化粧もいつもよりバッチリだ。下着だっていつ脱がされてもいいように準備万端である。いい女っていうのは気を抜かないものなのだと、父の愛人が母には内緒で教えてくれたのだ。お母様が知ったら怒り狂うだろうけど、今のあたしが求めてるのはお説教じゃなくて男を落とすテクニックなんだから秘密は守らないといけない。




 鏡にうつった自分を見てうっとりとする。あぁ、今日もあたしはなんて美しいのかしら。これはもはや男爵令嬢というよりはこの世の女神よ!




 さぁ、今日こそオスカーを手に入れて見せるわ。そろそろオスカーもあたしの美しさに気づくはずだもの。








 いつものように学園に行くが、そこにいたのはオスカーではなく衛兵だった。あたしはなぜか衛兵たちに囲まれていたのだ。




 衛兵は厳つい顔をした男たちだったが、あたしを見て眉をしかめたり鼻を摘まんでいる者までいた。




「これが本当に貴族令嬢なのか」「こんな下品な女、下町の娼婦にもいないぞ」「なんだ、この鼻が曲がりそうな匂いは……臭いにもほどがある」




 男たちが口々になにか言っているが、下品な女とは誰の事だろう?もしかして、あの隣国の王女でもその辺にいるのだろうか。そう思っていたらあたしの腕を掴んできたのだ。なんて無礼なやつらなんだろうか!




「ちょっと!あたしに軽々しく触れないでよ!あたしを誰だと思ってるの?!」




 あたしは、この国の王子であるオスカーの妻になる女なのよ!




 そう叫ぶ前に猿轡をされ手足を拘束された。




 あたしは心の中で願った。あぁ、オスカー助けて!あたしの運命の王子様!と。








 しかしどんなに願っても、オスカー王子様はあたしを助けてくれなかった。




 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。どうやらあたしは公爵令嬢を陥れようとした罪で投獄されたらしい。また公爵令嬢のせいで……。




 暗く冷たい牢獄であたしは前世と同じように断罪されようとしていたのだった……。



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