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第12話 運命の王子様①

※男爵令嬢視点


 誰も信じてくれないけど、あたしには前世の記憶がある。


 あたしは遠い国のとても高貴な身分のお姫様で、とある王子様と恋に落ちるのだ。詳しくは思い出せないけど王子様の姿だけはしっかりと覚えていた。


 だがその王子様には婚約者がいた。公爵令嬢で見た目は確かに美人だったけれど、性格がとても酷かったのだ。だって王子様があたしに好意があるとわかるとあたしを睨んできたからだ。


 それに毎回「婚約者のいる殿方にむやみに近づくものじゃない」とか「距離感が近すぎるのは誤解される」などとイヤミを言ってくる。どうせあたしが世界に愛されるお姫様だからって嫉妬してるだけのくせに。きっとこの女がよく物語にいる悪役令嬢ってやつで、あたしがヒロインなんだと思った。


 でも、王子様はあたしを選んでくれはずだった。だってあたしはヒロインなのだから。


 なのに、王子様はあの悪役令嬢と結婚すると言ったのだ。あたしと過ごした蜜月を忘れたかのような冷たい目で「そんな女だとは思わなかった。友好国なんて関係ない、もう顔も見たくない」なんて言い出したのだ。


 あんなにあたしのことを「可愛らしい」と、「これからも仲良くしたい」と言っていたのに……。


 しかも、あたしがあの女の私物を壊したとかドレスをわざと汚しただろうなどと言及された。────そんなの、やられる前にやっただけよ!王子様は知らないのだ。悪役令嬢は必ずヒロインに嫌がらせや酷いことをしてくる存在なのだと。だからあたしは、を先回りしてやっただけなのに……なぜそんなに怒っているのか?



 え、あたしがその悪役令嬢を階段から突き落とした?その女が階段の上であたしを無視したから肩をぶつけてやっただけよ!自分がどんくさいから勝手に落ちただけのくせに、大袈裟に騒いだりして嫌な女!これ見よがしに包帯なんか巻いて王子様の同情を誘ったのね!


 どうせならもっと大怪我すればよかったのに。そうすれば邪魔者がいなくなって王子様とあたしと心置きなく結婚出来たんだから!


 でも王子様はあたしの言葉を聞いてくれず「王子の婚約者である公爵令嬢を殺そうとした罪」であたしを断罪したのだ。あなたは騙されているのよって必死に訴えたのに聞いてもらえなかったのがなによりも悲しかった。


 そして前世のあたしは国外追放となり、なぜかお姫様でもなくなってしまった。そして平民にされて行く先のないまま彷徨い、きっとあの悪役令嬢があたしの幸せを全て奪ったんだ。と、悔しくてしょうがない。と……。もし生まれ変わったら、今度こそ王子様の心を取り戻すんだって誓いながら死んだのだ。






 それが、あたしの前世の記憶だった。最初は夢かと思ったけど今は本当の事だと信じている。その証拠は鏡の中にあった。


 前世の時と同じく淡い紺色の髪と紫色の瞳。それと、誰もが羨む完璧なスタイルに美しいこの顔。これこそがなによりもの証拠だ。だって、元がお姫様でもなければこんなに美しいはずがないのだから。


 ある日突然その記憶を思い出してから、ほんとに驚いた。なんと、その王子様にそっくりなオスカーとあの悪役令嬢にそっくりな女が学園にいたのだ。


 オスカーはこの国の王子様で、あの女はその婚約者。あたしの今の身分はお姫様じゃなくて男爵令嬢だけどそんなの関係なかった。だってオスカーはあたしの運命の人なんだから!


 あたしは今度こそオスカー王子様を手に入れ、前世であたしの幸せを奪った悪役令嬢の生まれ変わりだろうセレーネを不幸にしてやると誓ったのだ。








「オスカー様ぁ、あたしと楽しいことしましょ?」


 自慢じゃないがあたしはかなりスタイルがいい。見た目だって美人だから男どもがよくねっとりとした視線を送ってくるのを知ってる。だから、オスカーもすぐあたしの虜になるはずだった。


「楽しいこと?それをしたら俺はすごいのか?」


「他の男子たちを見ればわかるでしょ?」


 あたしに迫られているオスカーを羨ましそうに見てくる男ども。見せつけるように胸を寄せてやればその視線に興奮が加わる。やっぱりあたしはみんなに愛される存在なんだ。


 オスカーはなんというか、ちょっと鈍感というか馬鹿っぽかった。前世の王子様はもっと賢かった気がするけど、でもその方があたしの言うことを聞いてくれるし気にしない事にした。


 それにどんなに馬鹿でも王子様に変わりはない。まぁ、上にふたりも王子がいるから王様になるのは無理らしいけど、それでも王子の妻なら贅沢三昧に豪遊くらい出来るだろう。それに第二王子は地味なそばかす男だから好みじゃないけど、第一王子はオスカーにそっくりなイケメンだった。オスカーの妻として王宮に入り込み第一王子を籠絡するのも楽しいかもしれない。


 だが、さすがに王妃の座を狙ったりはしない。あたしは馬鹿じゃないからだ。だって王妃の仕事って大変って聞くじゃない?だからこっそり未来の王様の愛人になって、王様とオスカー両方から愛される生活を送るのよ。完璧な計画である。


 しかし、どんなに誘惑してもオスカーがあたしに手を出すことはなかった。


 露出の高い服でこぼれ落ちそうな胸をどんなに強調しても、誰もいない場所でふたりきりになって誘ってもあたしの体に興味を示さない。


 今までのどんな男だって、この体とこの顔で迫って少しウブなふりをすればすぐさまあたしの虜になったのに……オスカーはこのあたしといるのにあの悪役令嬢の話ばかりするのだ。内容だけ聞けば悪役令嬢の見た目を悪く言っている悪口なのに、なぜかオスカーの瞳は楽しそうに輝いていた。なんであたしといるのに、彼の目にはセレーネしかうつってないのか?このあたしが目の前にいるっていうのに!






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