「そうよ!それなのにあのバカは……!ハルベルトは確かに王家特有の色味とは違うけれどあの賢妃と名高かった憧れの前王太后様にそっくりな自慢の息子なのに!だいたい自分の兄を馬鹿にした女に鼻の下を伸ばすだなんて信じられないわ!!あの子はハルベルトの婚約が破談となったあの場にもいたくせに何を見ていたのかしら?まさかハルベルトよりオスカーの方がいいと暴れたあの王女の言葉で調子に乗ったとでも言うの?!」
怒りで興奮したカトリーナ王妃の息が荒くなる。リディアはそれを見て未だ変わらぬ親友の姿に目を細めた。
「ところで、結局のところ本命は男爵令嬢でその王女は愛人か2番目?として囲っているということでいいのかしら?公爵家に婿入りする予定だった第三王子がお偉くなったものね。まさか男爵家に婿入りして隣国の王女を愛人に侍らすなんて構図が実現するとでも本気で思っているのなら……うちの愛娘も馬鹿にされたものだわ」
どうやらすでにオスカーの女性関係は調べ済みのようだが、それはすべてにおいてカトリーナ王妃の逆鱗に触れていた。もちろんリディアの逆鱗にも。泥沼もいいところである。
「それで、調査結果はどうなりましたの?」
「わたくし直属の影を使ったからすぐに調べられたわ。どうやらほとんどの授業をサボってその男爵令嬢と人気の無い場所に行っているようよ。移動するときはべったりと腕を絡ませて自慢気な顔で歩いていたみたいだわ。日替わりで隣国の王女とも同じことを繰り返し、男爵令嬢と隣国の王女の方は交代でセレーネちゃんに嫌がらせもしていたみたい。まぁ、セレーネちゃんは全く相手にしていなかったようだけれど」
「確かにあの子なら冷静に対処しそうですわね。もしかしたら人物の判別はしていないかもしれないけれど……一応王族を婚約者に持つとなったからには責任と覚悟が必要だとは理解していましたから。それで、とりあえずその男爵令嬢は男爵の身分でありながら公爵令嬢を陥れようとしたのだしもちろん罰して下さいますわよね?」
「ええ、もちろん衛兵を手配済みよ。決して逃さないわ。エルドラ国の方にも連絡をして返事待ちだけれど、セレーネちゃんを害した罪で倭国にもエルドラ国へ圧力をかけてくれるようお願いしたのでそちらは任せていいと思うわ」
補足として、倭国はシラユキ皇女の親友であり
「なによりも……シラユキちゃんが今年は“オハナミ”っていう倭国の伝統行事を催してくれるって言っていたのよ。こっちに根付いた“サクラ”は倭国より咲く季節がズレていたから数年かけて統計をとって1番見頃の時期の割り出しをしたばかりなのに!なんでもこの“サクラ”の花を愛でながら“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”なる甘味を食してみんなで楽しむものだと教えてもらって、とっても楽しみにしていたの。ただ“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”はあまり日持ちしないし倭国から持ってくるとなると日数がかかるから、是非
ちなみに倭国からこの国に馬車でこようとすると1日や2日で着くような距離ではない。あまり保存の効かない食べ物を運ぶには適していないのだが、
シラユキ皇女のことも大好きなカトリーナ王妃は未来の義娘とのふれあいをとても楽しみにしていて、ハッキリ言って実の息子たちよりシラユキ皇女とセレーネの方が好きらしい。だからこそ、そのセレーネを傷付け怒らせたオスカーを許せないでいたのだ。決して“オハナミ”の開催が中止になりそうだからと怒っている訳ではない……と思いたい。
「そうね、それについてはセレーネに話をしておくわ。あの子もシラユキ皇女には会いたいでしょうし」
「ほんとに?!」
喜ぶカトリーナ王妃を見て、リディアはクスッと微笑む。いつもは凛とした態度で姿勢正しくしている王妃が自分の前では幼い少女のように表情を変える様子を見て懐かしんでいた。無邪気なところは少女時代から変わっていない。リディアは昔からカトリーナが大好きだった。そんなカトリーナの息子だからこそオスカーの婿入りを受け入れていたのだが、この酷い裏切りだけは決して許す気はなかった。
「さて、では本題に入りましょうか。王妃様……ご決断を」
「ええ、罪を犯した者へは罰を……。この国では、
その日、この国の女帝会議が行われたことを関係者である男たちは知らない。