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第2話 公爵令嬢の懇願①

 改めまして、私の名前はセレーネ・カタストロフと申します。先程はお見苦しい場面をお見せしてしまって申し訳ございませんでしたわ。オスカー殿下に代わってお詫びいたします。


 さて、私の事を少し説明いたしましょうか。


 私はカタストロフ公爵家の嫡女として生まれ、今年で15歳になりましたわ。我が家には他に子供がいない事から将来は婿を取って女公爵となることが決まっており、時に厳しく時に柔軟に育てられてきました。


 なにせカタストロフ公爵家は広大な領地を治めているので領地経営がとても大変なのです。おかげで私も後継者として幼い頃より経営学のイロハを叩き込まれてきましたし、それに加え令嬢教育も学びましたがそれは厳しいものでした。公爵令嬢も楽ではありませんね。


 そしてこれは自慢ではないのですが……これでも私、公爵令嬢としてはそれなりに有名でもありますのよ。伯爵家出身である母親譲りの蜂蜜色の髪はいつでも艶やかであるように手入れをしており、倭国でしか手に入らない珍しい花の香油をつけていますのでほんのり甘い香りがすると他の令嬢達からも評判で嫉妬される程です。父親譲りのマリンダークブルーの瞳もミステリアスな輝きで素敵だとよく言われますわ。まぁ、社交辞令だとは思いますが賛辞は素直に受け取る事にしておりますのよ。謙遜もし過ぎると令嬢としての価値が無いと烙印を押されてしまいますから。


 ちなみに現在は学園に通っておりまして成績も上位3位以内には必ず入っております。女公爵となることが決まっていて、さらに三番目とはいえ自国の王子を入婿に迎えるならばその妻となる私も“それなり”の実力を手に入れていなければいけませんもの。でないと、どこの誰にいつ足元をすくわれるかわかりません。それがドロドロとした貴族社会の闇というものですわ。だからこそいくら今は学生とはいえ、油断も隙も見せてはいけないのです。


 それに、オスカー殿下はなんというか……昔から良くも悪くもあの通りの方でしたのでそのぶん私がしっかりしていなければならないと使命感もありました。私の代で公爵家は破綻させるわけにはいきませんもの。でも、今から思い返すと隙が無さ過ぎたせいで可愛げはなかったのかもとは思いますが。


 え、オスカー殿下の学園での成績ですか?……あの方は、見目は良いと思いますけれど中身は好きな事にだけ全力疾走する方なので察してくださいませ。まぁ、王族特有の髪色と瞳の色はとても目立ちますし、わがままなのは私に対してだけですからそれなりに人気はあるようですね。外面がいいったらありません。


 でも中身は残念な方なんです。今日だって、せっかくの休日だったのに突然呼び出されたと思ったらでしたからね……。



 私は死んだ魚のような目のままお父様の部屋に突撃し、すべての事情を話しました。あ、ちゃんと仕事の合間の休憩時間にですわよ?公爵当主として領地の仕事をこなすお父様の邪魔はいたしませんわ。休憩時間を潰してしまうのは申し訳なく思いますが、これはある意味公爵家の一大事……というか、私の一刻を争いますのでご了承下さいませ。








「────と、言う訳でございますわ」


「マジで?」


 お父様……言葉遣いが乱れてますわ、落ち着ついて下さいませ。そんな言葉どこで覚えてきたのです?


 私は深いため息をつきました。お父様は聡明だと思っておりましたのに、もはや言葉遣いどころか顔面まで崩壊しそうな程にショックを受けているようですわ。


「こんなことで嘘をついてどうしますの?私はそんなに暇ではない事はお父様もご存知のはずですわ。ちなみに今まで婚約破棄だと言われた時の理由は全て記録しておりますのよ。アンナ、カモンですわ!」


 アンナとは私専属の侍女の名前ですわ。いつも沈着冷静で私がオスカー殿下に暴言を吐かれている時も取り乱すこと無くオスカー殿下の言葉一句全てを記憶して後から書き記してくれていたのです。なにせ日付はもとより時間から天気、その時の風向きから温度。その場にいた人間の数とそれぞれ個々の名前や個人情報まで正確に記されているので証拠としてはかなりのものになると思います。……その場にいた王家の使用人の個人情報までどうやって調べたのかしら?と謎は残りますが、優秀な侍女ですのよ。


 そう言えば公爵家にやってくる前の職業などは聞いたことがありませんし、年齢も不詳なんですのよね。……まぁ、アンナは昔からなんでもそつなくこなすなら深く追求しない方がいいような気もします。


 私の心情を知ってか知らずか……たぶんわかりつつもいつもの無表情でアンナは分厚い手帳を取り出し今まであの馬鹿王子が発言した言葉を読み上げました。



「まず初めての婚約破棄宣言が7歳の春、◯月△日。晴天でお散歩日和の適温……セレーネお嬢様が一緒に食べようとお持ちしたおやつにチョコチップクッキーが入ってなかったことにご立腹されたご様子で、興奮したように突然その言葉を口になされました」


 そうでしたわ。初めての婚約破棄宣言は7歳の時でした。婚約をした3歳から6歳の時まではそれなりに仲良くしていましたもの。


 ……あの頃の私が愛犬のルドルフを撫でていると「ぼくも」と言うので仕方なく小枝を投げて“取ってこい”を(殿下に)覚えさせ、三回まわってわんと(殿下に)鳴かせ、あと神木だと祀られている大樹に(お尻を木の枝で押して)登らせたら降りれなくなって(殿下が)泣いていましたわね。最初はルドルフより下手でしたけれど根気よくちょうきょ……ゲフンゲフン。根気よく教えたらとっても上手に出来るようになったので「殿下は犬がお好きなのね」と頭を撫でてあげたんです。(殿下は)喜んでおりましたよ?





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