おどろおどろしい極彩色の培養液に包まれ、俺は再びカプセルの中の住人となった。
再改造が成功したのか失敗したのか、まだ判らない。
今は白い覆面の、組織の科学者たちに囲まれている。
あれから何日が過ぎたのだろう? カプセルの中に居ると、時間の経過が判らなくなる。だが、それも苦痛では無い。脳改造を受けた俺には、何日だろうと同じ姿勢でいる事など何の問題も無いのだ。
そんな俺に、時折声をかけて来る。他愛もない話が多いが、今日は少し違った。
どうやら何か良い事があったらしい。どうしても話したくてたまらないという感じだ。
俺は逃げも隠れも出来ない身。ただ聞かされるだけだ。
「あんた、運が良かったな」
何の事だろうと、ぷかぷか浮いた身の俺は、そいつを凝視する。
「お前の仲間たちは、全滅したらしいぞ」
ん~? 俺に仲間など居ない筈だが、と思ったものの廃棄品ナンバーの再生怪人たちは、仲間と言えば仲間だろう。
首を巡らせて、正面から見据えると、その研究員は楽しそうに話して聞かせてくれた。
「例の裏切り者を全員で襲撃したらしい。そして返り討ちにあったという事だ。バカな奴らだ。この分では、あの女も処分されるかもしれない」
「ああ、あいつか。生意気な奴だったよなあ」
「バカはお前たちだ!」
一人が二人に。更に後ろからもう一人がタブレットを手に、そいつらの頭を小突いた。
「廃棄品どもの再再生に稟議が降りたとさ! ほら、とっとと十二体分、培養カプセルを準備するぞ! ほら、熱処理からだ!」
「うげっ!? 十二!?」
「当たり前だ! 熱処理の後は、次亜塩素酸で消毒! タンクの液量チェックを怠るな! お前はあの女の万能再生細胞とやらを解凍! 残量確認! 急げ! 俺は純水のPHと微生物チェックに行く!」
急に慌ただしく動き出した科学者たち。俺はただぼんやりとそれを見送っていた。
しばらくすると、他のカプセルが熱湯での洗浄が始まり、処置室は白い湯気がもうもうと立ち込みだし、俺のカプセルの表面も水滴に覆われ、外の様子が見えなくなって行く。
そして、その中を手押し車に乗せられた、怪人たちの残骸が次々と運び込まれて来る。
これが再生出来るのかと目を疑う様なバラバラ死体の数々。これだけあると、手足を取り違えてくっつけたりしないのだろうか?
いや、それ以前に俺の忠告どうなった?
全滅って事は、全員でかかったって事だよな?
何体かは囮に残す筈じゃ無かったのか?
確か、一号と二号は初期型でスペックが低いから、囮にするとかしないとか言って無かったのか!?
……結局、欲をかいて口うるさい俺だけハブにして、全員で示し合わせてかかったと言う事か……
それも良いだろう。結果さえ出せれば。結果さえ出せればな……
まぁ、今の俺には手も足も出ない。
変わらずぷかぷか浮いていると、行き交う科学者の間を、オーガスタ博士の小柄な身体がうろちょろし出した。
相変わらず髪はぼさぼさ、目の下にクマを作っているが、そのよれよれ度が幾分か増している様だ。ヒステリックになんか叫んでるが、俺には聞こえなーい。あー、聞こえない。
あ、転んだ。びたーんと前から行った。
がばっと跳ね起きて、鼻血を押さえてる。
あ~、邪魔者扱いだ。
俺はカプセルの内壁に手を置き、少し乗り出す様にして生暖かい視線で、そんな博士を眺めていた。