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第15話『総統の言う事は絶対』


「バカぁ~!!」


 いきなり頬を鞭で打たれた。


 ここは作戦室。俺は無事にアジトへ戻ると、報告に出頭したのだが。果て? 跡でも付けられたか?


「あたしは殺せと命じた筈だ!! それが何だ!!? 提携!!? ふっざけんじゃねえーーーー!!!」


 ああ、そっち。


 バシシと二度も打たれた。だが、科学者の非力だ。顔の皮がえぐれ、血が吹き出るも、それは万能再生細胞のおかげで、即座に止まる。


 髪を振り乱し、壇上から半ば降りかけた位置で、オーガスタ博士は肩で息をする。


 運動不足だな。


 研究室にこもってばかりいないで、少しは外で散歩でもしろ、と言いたいところだが、それは火に油だろう。俺は冷静な男だ。脳改造を受けた俺には、同情や憐憫、そう言った下らない感情は一切ない。


「少しは運動しないと太りますよ、博士」

「うきいいいいいいいい!!!」


 バシシバシバシ!!!


 俺は即座に皮膚を硬化させ耐えきった。振り回した鞭が博士の手からすっぽ抜けてカラカラと床に転がり、博士自身もひいひいと階段部でへたり込んでしまった。完全に運動不足だな。


「博士。今度、一緒にトレーニングしますか?」

「う、うるさい……」


 声を出すのもやっとでは無いか。やれやれだ。

 すると、唐突に作戦室の灯りが明滅し、壇上のエンブレムから総統のお声が流れ出した。

 俺は姿勢を正して、聞き入った。

 何という甘美な響き。渋カッコイイとはこの事だろう。俺はすっかり心酔する。


「そこまでだ、オーガスタ博士。無駄な事は止めろ」

「そうです」


 俺はこくりこくりと頷いた。


「くっ……ですが総統! あの銭亀という男は危険です! 即、始末するべきです!」

「それを判断するのは、私だ。お前では無い」


 あ、これはないわ~。博士は顔を真っ青にして、唇をぐっと噛みしめている。

 這いつくばってわなわなと震える背中は、まるで産まれたての小鹿の様だ。

 そして、総統は更なる残酷な言葉を投げつけた。何か流石にもやっと来るな。


「組織に一個人の感情は無用だ。お前は指示された事だけやっておれば良い。判ったな?」

「ぐぐぐ……」

「判ったな!?」


 総統は大事な事なので、二回言った。凄い圧だ。総統の言う事は絶対。


「わ……かり……ました……」

「よろしい」


 博士はしぶしぶと頷くしか無い。逆らえば処分される。これが我が組織の掟だ。


「ところで、廃棄品第三号。いや、怪人紅サソリ男よ」

「それは私の事で?」


 俺は再生怪人。廃棄品第三号が俺の正式な呼称だ。総統は、それを改めてみせた。

 俺の中に湧き上がる多幸感。直接声をかけていただけるという事は、大変名誉な事なのだ。脳改造された俺には、その様に脳を操作されている。

 すかさず跪いて、お言葉の続きを拝聴した。


「そうだ。今回の件は実に興味深い。組織にとって大変な貢献となるやも知れん」


 これは予想外の展開だ。廃棄品である俺が、行動隊長の地位に!?


「お前が持ち帰った映像を見た。相手は素晴らしく高度な技術を持っている様だ。そして、奴らが目にした我が組織のサンプルがお前だ。今のままでは、我々の技術力を低く見積もられる可能性がある。それは今後の交渉によろしくない。そこで組織は、お前を廃棄ナンバーから仮の行動隊長に昇格させ、再強化手術を行う事とした。喜ぶが良い」

「ははあっ!! 喜んで!!」


 俺の全身を歓喜の震えが駆け巡る。

 正に瓢箪から駒。棚からぼたもちだ。

 これは使い捨ての囮任務から、解放されるという事だ。


「あくまで仮だ。だが、その地位は博士と同等とする」


 博士はビクッと肩を打ち震わせ、唖然とした表情で俺を見上げて来た。

 これからは同等。この様に、一方的に殴打される事も無くなるのだ。

 俺は冷めた目で、この哀れな女を見下ろした。博士には復活させて貰った恩義がある。だが、それは脳改造を受けた俺にとって、ただそれだけの事実だ。特別な感情は、無い。


「これからは、同じ立場となる。よろしく頼む。オーガスタ博士」

「五月蠅い!」


 俺の差し出した手を、博士は払って、とても痛そうに抱え込んだ。そりゃ、硬化してましたから、痛いですよ?

 ふらふらと作戦室から出て行く博士を見送る俺に、総統の新たな命令が下された。


「再強化手術を受けるのだ! 怪人紅サソリ男!」



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