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第12話『俺の代わりはいくらでもいる』


 警備の者の目をかい潜り、俺は難無く建物へと辿り着いた。

 高い位置にある明り取りの小窓まで這い上がると、そこを破って屋内に入り込んだ。

 その向こう、殺風景な廊下が左右に伸びている。外の警備に対して、実にシンプルな……


 俺はくり抜いた厚さ十センチ程ある窓ガラスの残骸を、ほんの一かけら。


 シュバ!!


 床に落ちるや、一瞬火花が散った。


「高電圧の床。一歩踏み込めば黒こげか……」


 前後の壁面は恐らく耐圧コンクリート。


「残るは天井……」


 俺は四肢にある鋭い棘を、そっと喰い込ませ、ゆっくりと体重を預けていく。

 壁面のコンクリートに比べれば柔らかな素材だが、十分に俺の体重を支えてくれそうだ。


 これだけの警備だ。

 この中心に生活エリアがある筈。

 それは上か、下か。


「……地下だな……」


 この生活感の無いエリア。どことなく、俺たちのアジトを連想させた。

 ところどころに設置された監視カメラに注意しつつ、天井を這いずり回った俺は、非常階段らしき入り口を発見する。

 開閉センサーを難なく外してごまかすと、俺は上下に伸びるそこそこ大きな非常階段へと脚を踏み入れた。個人の家に設置するレベルでは無い。階段は監視カメラで見られている。俺はすでに、ここに侵入する段階でカメラに写っている筈だ。

 更に、他の階に侵入する際には、扉の向こう側にある開閉センサーに感知されるだろう。


 どの道、行くしかない。


 俺はリュックから、プラスチック爆弾を取り出すと、ひとまずここに一つ、遠隔操作の出来る信管をかませ、見つかり辛そうな場所へ設置した。



 階段は地下二階まで続いていた。


 扉は呆気なく開き、出迎えも無い。


 その向こうには、赤いじゅうたんが敷かれた廊下が続いていた。まるでホテルの様な内装。絵画やいかにも高そうな調度品が等間隔に並べられ、明らかに上と違っている。

 そして、扉も多い。

 その内の一つ、突き当りの扉が僅かに開き、中から明かりが覗いていた。まるで誘っているかの様に。


 こんな所で、もしあの裏切り者に遭遇したら、生きて帰る事は出来ないだろう。

 だが、そうであったとしても、囮の役目は十分に果たした事になる。


 それに、俺の代わりはいくらでもいる。


 俺は覚悟を決め、その扉の向こうへと脚を踏み入れた。



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