記憶を失った俺にとって、今回の出陣は初めてのものとなる。
他の奴らは経験者だが、俺は初心者という訳だ。
因みに、再改造というのは、強化手術の事だ。
そうだ。
俺たちの力は、再生されたものの以前とは格段に力が落ちている。
らしい。
元々は歩くのもやっとだった俺にとって、今の俺は格段に強くなっている自覚があった。が、それより遥かに強い俺を、その裏切り者という奴は倒した事になる。
出会ったら、死!!
それは確実だろう。
どれだけ強いんだ、その裏切り者って奴は!?
恐らく、俺の中にある断片的な戦いの記憶が、それなのだろう。
ここは無難に、博士の誘拐を行い、その研究を狙っている素振りを見せるのだ。
そう。
俺は一度死んだ男。
二度同じ轍を踏む程、愚かでは無いつもりだ。
出会ったら、即逃げる。
それは確定事項だ。まぁ、逃がして貰えればの話だが。
そんな考えにふける俺を、他の連中が呼び止めた。
「おい、待て。三号」
「何だ?」
「分かってるだろう?」
二号が血走った眼球をぎょろつかせ、臭い息がかかる程に顔を近付けて来た。黄ばんだ二本の牙が毛むくじゃらの身体からにゅうっと伸びている様は、正に怪人だろう。
年頃の娘なら、これだけで卒倒ものだ。
「全員で力を合わせ、あの裏切り者を潰す! これはまたとないチャンスだ! キイッキッキッキッキッキ!」
人間辞めた化け物に相応しい、いかにもな金切り声だ。
あんまり近くで話しかけて貰いたくない手合いだが、脳改造を受けた俺には大した意味は為さない。
だが、全員にぐるり囲まれると、明確に意思を示すのは流石にはばかられた。
「いや、それは……」
無いな……弱体化した俺たちが束になってかかって、勝てる保証ってあるか?
俺は気の抜けた返事を返さざるを得ない。
それ程に、記憶の中の敵は強い様に思えた。
交錯するだけで火花を散らす腕や脚。打ち砕けなかったタフなボディ。今の俺に何が出来る? 何が通じる? 正面からぶつかり合えば、弱い方が砕け散る。
俺は慎重な男だ。
「手柄を立てれば、俺たち全員が再改造を受けられるかも知れない」
「いや、俺は再改造を受けてから、奴に立ち向かうとしよう」
「何だと!?」
「この臆病者め!!」
全員が色めき立つ。いや、流石にこれは不味い。
どうやら、俺が考え事をしている間に、皆の意見は統一されてしまったらしい。
力づくでかかられたら、俺には抵抗する術が無い。それ程に、数体は俺より遥かにパワーがあり、それぞれに有する特殊能力は、弱体化したと言えそれは俺も同じ事。一体一体が手ごわい相手だ。それが全員ともなると、無理な話。
だが、脳改造を受けた俺は、焦るという事を知らない男だ。常に冷静。計算高く立ち回る事が可能なのだ。
俺は一人一人の目を見据え、ゆっくりと首を左右に振った。
「お前たち。もし全滅してしまったら、誰が囮の役を引き受ける?」
「ぐぐ……」
頭の出来が悪いパワータイプの十一号が言葉につまると、全員に動揺が走る。どうやら、こいつがパワーにものを言わせ、全員を従えたのだろう。予想通りだ。
爬虫類の細胞を取り込んだ為か、頭に血が回らないのかも知れない。俺は常々、こいつの事をそう思っていた。そして、大概に単純なのだ。恐らくは素体となった人間が、脳筋だったのではなかろうか?
「冷静になれ。お前たちの気持ちは判る。俺も同じだ。だが、俺たちの何体かは、確実に囮を実行する。これは、本作戦とやらを援護する為には必要な事だ。もし、俺たちが一度期に全滅する様では、その責を博士が取らされるだろう。そうなってしまえば、もう再生処置を受ける事すら叶わないかも知れない」
「「「「「う~む……」」」」」
しめしめ。どうやら全員が考え込んでくれた。俺の思うつぼという奴だ。
「脳を破壊された俺は、まだ戦闘に自信が無い。それよりは、陽動に専念したい。判るだろう?」