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第5話『初めての指令』

 作戦室。それはアジトの中に必ず設置された指揮系統の中枢。

 各アジトとの連絡は勿論、作戦実行の際には行動隊長たる怪人の居室となる。そして、偉大なる総統からの指令を拝する厳粛な場所でもあった。


 下級の戦闘員たちは、俺たちに道を譲り廊下で脇に立った。

 黒づくめの統一された衣装。頭の先からつま先まで黒一色。目と口だけが、まるで冗談の様に覗いている。

 組織の戦闘員に個性は必要とされない。それ故の統一。

 そして、役に立たないと判断されれば処分される。それは俺たちも同じだが。




 異形の列が奇怪な影を揺らめかせ、静かな行進を行う。

 やがてその行進は、このアジトにある一室に到着した。


 薄暗い壇上には二つの影が。


「ようやく集まったか」


 自然と後ろの扉が閉まり、影の一つがぼそりとつぶやいた。


 まさか総統自ら!?


 全員が思わず身構えたが、声の質が違った。おそらくは、今回の作戦の行動隊長だろう。

 やがて壇上の更に上へ掲げられた、組織のエンブレムが赤く明滅を始め、総統が声のみで語り出す。

 当然だが、敵対する組織も多い。

 用心深い総統に直接会った事のある者は、この場に一人も存在しない筈だ。

 重々しい響きに、皆が首を垂れて聞き入った。


「現時点を持って、我が組織は日本政府に対し、一大攻勢を仕掛ける事とする」


 その言葉は、この場に居る全員の胸に熱い燃料を注ぎ込んだ。

 が、次にはたちどころに冷え込む事になる。


「お前たちは、裏切り者との闘いに敗れた、言わば役立たずの失敗作。負け犬のガラクタだ。だが、偉大なる組織は、そんなゴミ同然のお前たちに役目を与える事とした。喜ぶが良い」


「「「「「そ、そんな……」」」」」


 総統の余りの言葉に、皆が意気消沈する中、俺も組織に見限られた絶望感に打ちひしがれた。己の存在の全否定。だが、一筋の光明も示されたのだ。


「お前たちには、囮となる事を命ず。裏切り者や他の組織を引き付け、本作戦から目を反らさせるのだ。やり方は問わん。好きにするが良い」


 ざわざわと揺れ動いた皆の動きが、その言葉に鎮まり返る。

 言われたままに作戦を実行するでなく、自分で何かを考える。それは、脳改造を受けた怪人たちにとって、すべてを自分で考えて行動するという、これまでにはありえない事だった。


 やがて、総統の気配も消えた。


「……ふ……ゴミ共が……」


 壇上の男が、そう呟いて奥へ。

 かくして壇上には影が一つだけ残った。細く小柄なシルエット。

 俺はそれに見覚えがあった。

 それはゆっくりと前に進み出、部屋の照明が灯された。

 残った影は、やはりオーガスタ博士その人だった。


 博士は総統の言葉など気にするでもなく、満足そうに目の前の俺たちを見下ろし、不敵に微笑んだ。実に楽しそうに。


 ああ、博士らしい。


 俺は不可思議な感慨をもって、その光景を受け入れた。



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