俺は廃棄品第三号。
女がそう呼んだ。
俺はそうなのか、と思った。
俺の中はがらんどうのガラクタが散乱した虚無。そこに『廃棄品第三号』という呼称が燦然と輝いた。
俺は廃棄品第三号。
俺が例のカプセルから出されたのは、一号が出されてからかなり後だった様な気がする。
意識は、時折混濁の中を彷徨い、気付けば両隣のカプセルは空になっていた。
女は自分を、ミス・オーガスタと名乗った。
「私は世界征服を遂行する偉大な組織の究極の科学者! それが私」
カプセルの底から見上げた女は、うっとりと陶酔する声色で自己紹介をした。
もう大分前の事。
その時、俺はそうなのか、と思った。
新しく女のデータが更新されただけの事だ。
俺たち改造人間は、脳を改造されており、組織の命令のままに動くようにされている。
らしい。
怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ、愛、あらゆる感情から解放された究極の存在なのだ。
とか。
唯一残されたものは、組織に対する忠誠心と、その為に働く喜び。そして総統に対する絶対の服従心。
確かにそれは感じる。
早く組織の為に役立ちたい。
言われてみれば、その衝動は覚える。
俺は女に問うた。この頃には、通常の会話が出来るまでには回復していた。
「オーガスタ、俺は何をすれば良い?」
「まずはリハビリね。お前は脳を破壊されたから、まだ身体が十分に対応してないだろう? 安心するといいわ。私の生み出した究極にして完璧な偉大なる万能細胞は、お前の失った機能を取り戻す筈。その内にね」
不敵な笑みで返すオーガスタは、指をパチンと鳴らした。
「お呼びで?」
すぐさま、複数の白衣の男たちが、姿を表す。
頭部をすっぽりと覆った、白いマスクの男たち。
見慣れた連中だ。
先に出された被験者たちが、こいつらに連れ出されるのを、もう何度も見ていた。
「連れていけ」
「はっ!」
男たちは、俺をオーガスタの前から引きずり去り、荷物の様に手押し車に乗せられて運ばれた先は、『再生怪人訓練室』と札が掛けられた、ただっぴろいトレーニングルームだった。
そこには、既に多くの先客が居た。