闘った
闘っていた
ただひたすらに
いつ果てる事も無く
赤く巨大な複眼
漆黒のボディ
固く強靭な四肢
打ち合う度に火花が散った
誰だ
こいつは
何だ
こいつは
俺は
誰だ
目を見開いた俺は、妙な色彩の溶液の中に浮かんでいた。
そして、黒い瞳と目が合った。
ギラギラとした、闇の様な黒が、俺の奥底まで覗き込んでいる様だった。
がらんどうな俺の中を。まさぐられる様な感覚。
こいつは……誰だ?
あぶくの様に、俺の中から沸き起こるそれは、感情を伴わない冷徹なもの。
青白くカサカサとした肌。目の下に黒いクマがある。
その眼光に、凶悪なまでの無遠慮な狂気を感じた。そして、その狂気がゆっくりと、俺の中を滞留する。
俺は自然と手を伸ばそうと。
だが、四肢はだらんと垂れ、力が入らず、僅かに揺れて透明な容器をキイと掻いた。
「ぼが……」
口にはめられた何かが、俺の喉を圧迫し、声を潰す。
そんな俺を、瞳の主は鼻で笑った。
「ふん。ようやく目が覚めたか」
女だ。
声の主は女だった。
容器越しのくぐもった響きは、愉悦に満ちていた。