土煙を上げてもんどりうった猪の巨体は、二転三転してようやく止まった。
一瞬の沈黙は認識に必要な時間。
ただ、大地は風をまとい、唸りをあげた。
「や……やったぜ……」
天をあおぐ様に硬直した四肢。それがパタリと下りた。
「やったぜぇーっ!!」
「ひゃっはぁっ!!」
「うおおおおおおおっ!!!」
「ざまぁっ!!」
「お、俺の矢、俺の矢、当たった……」
叫びながら弾ける様に駈けだした小人達は、小山の様に大きな獲物に押し寄せた。
まだ、びくびくと最後の生を匂わす獣の野生に、先陣切って駆け込んだ者が慌てて立ち止まるが、後ろから飛び込んで来る肉弾に突き飛ばされ、血まみれの肉塊に押し付けられる。その上を、仲間を踏み台によじ登り、高らかに勝どきを上げた。
ぶもおおおおおおおっ!!!
木っ端の如く吹っ飛ぶ小人達。
最初の一声をあげようかと同時に、全身を激しく揺さぶって猪が立ち上がった。
が、その頭に、正確無比の連射をかます小人がいた。
右の眼球に至近距離から3発。
しなやかなその手さばきは、ほんの一呼吸のそれであった。
「ふう……」
軽く息を漏らし、茶褐色の額を伝い落ちる汗をぬぐう。
若い丘小人のホークは、まだ荒い呼吸に肩を揺らしながら、ぬぐった手の甲についた返り血を舐め、つばを吐いた。
度肝を抜かれた小人達が沈黙する中、険しい表情のホークの肩をぽんと叩く者がいた。
「ご苦労……」
「ボス……」
パイプと酒で焼けた渋い声。ボスと呼ばれた壮年の小人は、肩にクロスボウを担ぎ、ゆっくりと猪に歩み寄り、その頭を蹴り飛ばした。
ぐったりとした反応に、ようやく小人達は呪縛を解かれ、始めはおそるおそる、そして熱狂的に叫び、跳ね、踊り回って歓喜のほとばしりに身を任せた。
気が付いたら、どのタイミングか自分でも忘れてしまったが、アーリアもその熱気の渦に飛び込んで、絶叫し、手に手を取り合って踊りまくった。
そして、その熱気が徐々に冷めた頃には、まったく見知らぬ小人達の真っ只中に、ぽつんと一人。
「え……え~っと……」
手をつないでいた相手からも変な目で見られ、そっと手を引っ込めた。
「あんた……誰?」
さあ、誰でしょう?