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第12話『狩』


 てん!


 てんてん!


 ててんてん!


 てん!


 てんてん!


 ててんてん!


 そこかしこから太鼓の音が、まるで呼応するかの様に鳴り響いた。

 人族で言うならば10代前後だろうか。それくらいの小さな影が、さっと草むらを揺らしては、すぐに姿が見えなくなる。

 すると、そこへ気の立った一頭の猪が、鼻息も荒く飛び込むのだが、それをあざ笑う様に、また少し離れた位置で太鼓が鳴った。


 対照的に、幾つもの鋭いやじりが、静かに草と草の間を縫う様に、ゆっくりゆっくりと突き進む。

 小さな手が、小さな弓を構え、小さく息を吐いた。


 でん!!


 一際高く、一つの太鼓が打ち鳴らされるや、それまでの太鼓の音はぴたりと止む。と入れ替わりに、風を切る音が一陣の嵐の如く鳴り響いた。

 カラカラと乾いた音を発て、外れ、分厚い獣皮で跳ね返され散らばり、突き立つ数本が怒号を呼ぶ。

 わっと歓声を上げ藪から飛び出す影めがけ、のたうつ巨体が突っ込むと、それらは三々五々に逃げ惑う。不幸な者は、軽々数メートルは吹き飛ばされた。



「わぁ~、やってるやってるぅ~!」


 アーリアにはそれが、遠目で小人族の類に思えた。


「山小人じゃないよね~、こういうのって」


 山の小人族は、どちらかと言うと、ずんぐりむっくりでがっしりしてる。山の中で穴を掘って暮らしてる者が大部分で、人里に出てくるとしたら交易か戦争ぐらい。後は酒場でやたら大きな声で騒ぎながら飲んだくれてるかだ。

 どちらかと言うと、丘小人の方が多く見かけられた。連中は、いたるところで生活してて、ぱっと見、人間の子供と見間違いそうになる事もある。それくらい、ほっそりした者も居るという事で、後は酒場でやたら陽気にのんだくれている事も多い。



 遊び半分、時には必死に、猪と格闘している2~30もの姿は、時に滑稽で、実に見物である。


「おおっ! いけいけ!」


 のたうつ巨体は土煙をあげ、急加速で走り出しては、逃げ遅れた小人をその牙に引っ掛けては弾き飛ばす。

 その悲鳴と怒声が聞こえて来る。


「ううっ! あ、危ないっ! そこそこっ!」


 思わず立ち上がった。

 またも悲鳴!

 手に汗握る瞬間の連続!


「あっ、ああ……あああああ……」


 誰かが宙を舞う度に、まるで自分の事の様にわななき、うめく。

 そして、どうにも、もっと近くで見たくなり、衝動的にアーリアは丘を駆け下っていた。




 小人達の包囲は、散々に追い掛け回され、ぐにゃぐにゃにたわんでしまっていた。

 それでも何人かは諦めずに、回り込んでは矢を射掛けた。

 当たれば良い方。刺されば皮一枚でも大歓声だ。


「ホーク! 右へ回り込んでけん制しろ!」

「オッケー! ボス!」


 ダッと藪中から飛び出す若い小人は、続け様に矢を二連射。かく乱する様、大回りに走り出した。

 そんな様に、にやりと口元を歪めつつ、岩陰で石弓の巻き上げ機をぐりぐり回す。

 他の連中も、この走りにやんややんやの大騒ぎ。中には一緒になって走り出す者も居る。そんな様に、ますます興奮した猪は、潅木をなぎ倒して止まっては再び一直線に走り出す。


 はしっこく、視界の隅で石弓を構えた姿を認めると、ホークは最後の一っ走りとばかりに、その前を駈けた。


「うおおおおおっ!!」


 真後ろに迫る気配を、背中でびんびんに感じながら、思い切って真横にダイブ!

 掠める様に、赤茶けた塊が突っ走って行く。その眼前に、石弓を構えた小人がすっくと立ち上がった。


 狙うは猪の真正面。

 引き金を引くと同時に、弦が跳ね、装てんされていた矢を真っ直ぐに弾き出す。

 そして、吸い込まれる様に、矢はその巨体に消えた。

 咄嗟に、横に転がる射手。次の瞬間には、そこへ獣の巨体が転がり込んだ。




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