てん!
てんてん!
ててんてん!
てん!
てんてん!
ててんてん!
そこかしこから太鼓の音が、まるで呼応するかの様に鳴り響いた。
人族で言うならば10代前後だろうか。それくらいの小さな影が、さっと草むらを揺らしては、すぐに姿が見えなくなる。
すると、そこへ気の立った一頭の猪が、鼻息も荒く飛び込むのだが、それをあざ笑う様に、また少し離れた位置で太鼓が鳴った。
対照的に、幾つもの鋭い
小さな手が、小さな弓を構え、小さく息を吐いた。
でん!!
一際高く、一つの太鼓が打ち鳴らされるや、それまでの太鼓の音はぴたりと止む。と入れ替わりに、風を切る音が一陣の嵐の如く鳴り響いた。
カラカラと乾いた音を発て、外れ、分厚い獣皮で跳ね返され散らばり、突き立つ数本が怒号を呼ぶ。
わっと歓声を上げ藪から飛び出す影めがけ、のたうつ巨体が突っ込むと、それらは三々五々に逃げ惑う。不幸な者は、軽々数メートルは吹き飛ばされた。
「わぁ~、やってるやってるぅ~!」
アーリアにはそれが、遠目で小人族の類に思えた。
「山小人じゃないよね~、こういうのって」
山の小人族は、どちらかと言うと、ずんぐりむっくりでがっしりしてる。山の中で穴を掘って暮らしてる者が大部分で、人里に出てくるとしたら交易か戦争ぐらい。後は酒場でやたら大きな声で騒ぎながら飲んだくれてるかだ。
どちらかと言うと、丘小人の方が多く見かけられた。連中は、いたるところで生活してて、ぱっと見、人間の子供と見間違いそうになる事もある。それくらい、ほっそりした者も居るという事で、後は酒場でやたら陽気にのんだくれている事も多い。
遊び半分、時には必死に、猪と格闘している2~30もの姿は、時に滑稽で、実に見物である。
「おおっ! いけいけ!」
のたうつ巨体は土煙をあげ、急加速で走り出しては、逃げ遅れた小人をその牙に引っ掛けては弾き飛ばす。
その悲鳴と怒声が聞こえて来る。
「ううっ! あ、危ないっ! そこそこっ!」
思わず立ち上がった。
またも悲鳴!
手に汗握る瞬間の連続!
「あっ、ああ……あああああ……」
誰かが宙を舞う度に、まるで自分の事の様にわななき、うめく。
そして、どうにも、もっと近くで見たくなり、衝動的にアーリアは丘を駆け下っていた。
小人達の包囲は、散々に追い掛け回され、ぐにゃぐにゃにたわんでしまっていた。
それでも何人かは諦めずに、回り込んでは矢を射掛けた。
当たれば良い方。刺されば皮一枚でも大歓声だ。
「ホーク! 右へ回り込んでけん制しろ!」
「オッケー! ボス!」
ダッと藪中から飛び出す若い小人は、続け様に矢を二連射。かく乱する様、大回りに走り出した。
そんな様に、にやりと口元を歪めつつ、岩陰で石弓の巻き上げ機をぐりぐり回す。
他の連中も、この走りにやんややんやの大騒ぎ。中には一緒になって走り出す者も居る。そんな様に、ますます興奮した猪は、潅木をなぎ倒して止まっては再び一直線に走り出す。
はしっこく、視界の隅で石弓を構えた姿を認めると、ホークは最後の一っ走りとばかりに、その前を駈けた。
「うおおおおおっ!!」
真後ろに迫る気配を、背中でびんびんに感じながら、思い切って真横にダイブ!
掠める様に、赤茶けた塊が突っ走って行く。その眼前に、石弓を構えた小人がすっくと立ち上がった。
狙うは猪の真正面。
引き金を引くと同時に、弦が跳ね、装てんされていた矢を真っ直ぐに弾き出す。
そして、吸い込まれる様に、矢はその巨体に消えた。
咄嗟に、横に転がる射手。次の瞬間には、そこへ獣の巨体が転がり込んだ。