行くあての無い旅路。それでも、目的が無い訳じゃない。
アーリアが川底の世界から戻った先は、まったくの見知らぬ荒野だった。
「参ったなぁ~……取り合えず!」
ぐるり見渡すが、建物らしき影も煙も見えない。
「取り合えず、あそこを目指しますか!」
ぐるっと腕を回し、真っ先に目に付いた丘陵地を指差した。そこからなら、更に周囲を見渡せそうだ。
日はまだ高い。
アウリーリンが連れ出してくれた場所なんだから、そんなに困る様な場所じゃないだろう。そうたかをくくっていた。
上を向いて歩こ~♪
腕を振って歩こ~♪
足を上げて歩こ~♪
歌を歌って歩こ~♪
歩き出すと、即行で歌が口からこぼれた。
軽く汗をかく程度の歩幅で、藪草を押し分け、くねくね走る獣道を歩き、小さな流れをまたいだ。
流れの先には泉があり、そこで喉を潤すと再び歩く。
風はまだ温かいが、乾いていた。
一陣の風が吹く度に、汗がすっと引く感じがある。それが清々しい。
「あれ?」
ふと立ち止まると、改めて周囲を見渡した。
何かが聞こえた様な……
目を瞑り、感覚を集中する。
聞こえる……何かのリズムが……至極単調な……
風が僅かな振動を運ぶ。
駈けた。
アーリアはその気配へと駈けた。丘向こうへと駈けた。
息せき切って駈け上がると、その向こうをさっと見渡し、目と耳で探す。
「いた!」
遠く藪を走る、幾筋もの影。
太鼓の音を響かせ、もどかしいくらいにゆっくりと動いている。それだけここから離れている訳だが、ゴブリン鬼の類だったら厄介だ。
幸いこれだけ離れていれば、こちらが気付かれる事もそうないと思えた。
「いたけど……」
そっと身を屈めた。
どうしよう……