水底の宴は続く。
くるくる踊り過ぎて、ついつい目眩がして、へたへたっと座り込んでしまった。
「あらら~、これはちょっと~……」
力が入らなくて、これは大変。
そんなアーリアに差し出されたのは、さっきアウリーリンが手にしていたボウル状の白い物だった。
「ありがと~……」
「ありがとう」
ややお疲れの、にっこり。
まだまだ余裕のにっこり。
ちょ~っと使い方、違う気がするけど、今は細かい事なんかど~でもいいかも。
手に取ってよくよく眺めると、それは正に薄紫の筋が縦に走る白い花弁。それも人の頭程の!
(あれ? これって……)
大きさに関してはもう驚かない。気になったのは、この何となくどこかで見た様な優美なライン。もちろん、こんな巨大サイズの花なんか、今まで見た事も無いのだけれど。
(これって……)
目を細めてじいっと眺める。
「アーリア……アーリア……」
アウリーリンは両方の手のひらを口元へ運び、飲む様な仕草をしてみせた。
「飲む? 飲めって事?」
こっちもそんな仕草をして見せると、正にその通りと言った表情で頷くアウリーリン。
言われて見れば、花弁の中にはその中央に黄色い突起状のものがあり、そこから放射状に黄色い筋が伸びている。そして、その辺りには、何やらねっとりとした感じの透明な液体が、光の加減で何となく分かる。
(水の中でも、お花だから……)
さっきの、魚貝類の分泌する粘液とはまた違う気がする。いや、そうであってほしい!!
そっと鼻を近づけてみるけど、そんなに花!って自己主張の強い感じはしない。
そんな花弁が、ぐいっと持ち上げられ、不意にアーリアの顔に密着する。
「ぶっ!?」
「アーリア、アーリア、のむ、のめ、のむ、のめ~♪」
笑顔のアウリーリンが、そっと、そっと、花弁の片側を持ち上げていく。なんとも可愛らしい節で音頭をとると、それまで他の事に興じていたお方達が、わっと集まって、どころか犇いてやって来るじゃないっ!
「「「「「アーリア、アーリア、のむ、のめ、のむ、のめ~♪」」」」」
こ、これって……
「「「「「アーリア、アーリア、のむ、のめ、のむ、のめ~♪」」」」」
ちょ、ちょっと待……
「「「「「アーリア、アーリア、のむ、のめ、のむ、のめ~♪」」」」」
あ、あ~れぇ~~~~~~……
「「「「「アーリア、アーリア、のむ、のめ、のむ、のめ~♪」」」」」
ぐび……ぐびぐびっと、口元に押し寄せた、冷ややかな粘液を、鼻から飲まされるのを観念して、一気に……
飲んじゃった……
正体不明の粘液、飲んじゃった……
ぺろ~んと飲んじゃった……
冷たくて……甘くて……な~んとも、い~香り~~~~♪
頭の裏側まで、ひょあ~っと染み渡るみたいぃ~~~~~~~~~~
余りの多幸感に思考停止。のけぞって後方五体投地状態かも。
やんややんやの大合唱に応えて、花弁を高々と掲げてから、それを一気に口に頬張ってみせた。
「V!」
「「「「「おお~っ!!」」」」」
お腹をさすると、ぽこんと膨らんでる。まるで、妊婦さんみたい。そういえば、そんな話もあった様な……
そんな事を思い出しながらぼ~っとしてたら、急にお腹の辺りから、全身に向かってぎょぎょぎょわわわっと何かが移動を始めた!
動いてる!
動いてる!
何かが体中を駆け巡ってる!!
「あっはぁ~ん♪」
願わくば出るところが出て、出なくていいところが引っ込んでくれます様に~!
そんな願いは叶わなかった。
でも、気が付けば、全身のだるさは抜けて、力がみなぎって来る様だ。
今なら、あそこで跳ね回ってるシーホースを素手でひねる事が出来そうなくらい!
嘘です。
出来ません。
たぶん~……
そんなこんなで、どうやらみんなでそっとしておいてくれてるみたい。ほわほわ~んと漂っていたら、見上げている水面の向こうにお日様が。
今日も、良いお天気みたいで、青空が広がっている。青空……青空だったっけ……?
お日様は、私の見ている前で、ずんずんずんずん動いていく。そして、水面の向こうに隠れたら、その向こうの空は少し暗くなった感じ。
ちょっと意外だった。
お月様が出たのに、水面の向こうは明るいまま。あれれ? お月様って、今、半月だったっけ?
そして、半月が水面の向こうに隠れたら、その反対側からまたお日様らしき輝きが……
(えっと……)
なんか聞いた事がある様な……
一応、このアーリアさんは吟遊詩人見習いな訳で。
こんな話を聞いた事がある。
海の中のお城へ行って、宴会やって帰って来たら、何百年も過ぎてたって話を……
ぞぞぞっと、血の気が引きました。