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君の痴態が忘れられないんだ。
雅鳳飛恋
現実世界ラブコメ
2024年08月12日
公開日
274,229文字
連載中
現役高校生ライトノベル作家の黛実親は、幼馴染に用があり映画研究部の部室へ赴くが、その場で衝撃的な光景を目撃してしまい呆然と立ち竦む。
なんと視線の先では、学園のアイドルの一人に数えられている同級生の久世紫苑が自慰に耽っていたのだ。

一番恥ずかしい姿を目撃されてしまった紫苑は、表情を変えることなく魅入られている実親に声を掛ける。
問い掛けに対して実親が「何故そんなことを……?」と尋ねると、彼女は「その方が背徳感があって興奮するから?」と答えた。
これが二人の出会いだった。

幻想的とも思える耽美な情景が脳裏に焼き付いてしまった実親は悶々としながら帰路に着く。
そして父と夕食を共にしていると、彼の口から再婚話を聞かされる。

詳しく話を聞くと再婚相手の女性には娘が二人いると判明。
しかも一人は実親と同い年らしい。

実親は同い年の女子という単語に、学校で衝撃的な出会いを果たした紫苑の顔が脳裏に浮かび余計に悶々としてしまう。

そして脳裏に焼き付いた痴態に苛まれながら過ごすこと五日。
遂に相手の家族と対面する日がやってきた。

するとそこいたのは――

これは辛い過去を抱えた少年と、家庭環境の所為で苦労している少女を中心に紡がれる物語である。

第1話 出会い

 二〇二二年五月上旬。

 本格的な夏はまだ先だが、日差しが強まり最高気温が三十度を超す日もある季節。

 蒸し暑い日もあれば肌寒い日もある。波のある気温の変化に翻弄される日々だ。


 初夏の訪れを知らせるかのように冬枯れしていた木々が芽吹き、瑞々しい若葉が風に揺られる。

 新緑の輝きが目立つようになり、いよいよ夏が到来すると人々に印象付かせていた。


 五月病に悩まされる人も多い時期だが、そんなことは関係ないとばかりに活気に溢れている場所がある。

 その場所は町田市に所在する立誠りっせい高校だ。

 現在は放課後で既に下校している生徒も多く、残っているのは部活中の生徒や自習をしている生徒が殆どだ。


 立誠高校に通うまゆずみ実親さねちかは幼馴染に頼み事をされていた。

 一つ年上の幼馴染は映画研究部の部長を務めている二年生だ。


 実親は幼馴染がいるだろう映画研究部の部室を目指す。

 夕陽が廊下を茜色に染め上げ、校庭で部活に勤しむ生徒の声が聞こえてくる。


 主に文化部の部室が並ぶ部室棟に到着し、映画研究部の部室まで足を運ぶ。何度か訪れているので迷うことはなく、慣れた足取りだ。

 今日は文化部に所属している生徒は既に殆ど下校しているらしく、静寂が廊下を支配していた。


 そして目的地である映画研究部の部室に辿り着く。

 入室しようと思い引戸に手を掛けると、扉が僅かに開いていることに気が付き無意識に手を引っ込める。

 その時、映画研究部の室内から吐息を多めに含んだ女性の声が聞こえてきた。


「んんっ……はあっ……あんん……」


 疑問に思った実親は、僅かに開いている扉の隙間から室内の様子を窺う。

 すると――


(――!?)


 室内には予想だにしない光景が広がっていた。

 実親は驚きで声を漏らさなかった自分を胸中で褒め称える。


 彼の視線の先では、同級生の女子がソファの上で自慰に耽っていた。

 実親は唖然と立ち尽くす。

 予想外の場面に出くわし、見てはいけないと良心が訴え掛けているが、蠱惑的で淫靡な姿に自然と視線が吸い寄せられてしまう。

 非現実的で耽美な情景が目に焼き付く。


(あれは……久世か?)


 実親は自慰に耽っている女生徒に見覚えがあった。


 目鼻立ちがはっきりとした整った顔立ちで、可愛い系よりは美人系に類する美少女だ。

 ゆるめのパーマが掛かっていて束感のあるノームコアショートの黒い髪、男子の視線を釘付けにする大きな胸と張りのある尻。胸と尻を強調するかのような細いウエストと長くて細い手足が特徴だ。

 同い年とは思えない色気とミステリアスな雰囲気が影響してか、男子生徒からの人気が異常に高く、学園の美少女の一人に数えられている。


 彼女の名前は久世くぜ紫苑しおん


 実親とは別のクラスだが、良く男子生徒の話題にも上がるので耳にしたことがあった。


 その彼女が現在進行形で自分の目の前で自慰に耽っている。

 まるで夢でも見ている気分だ。


 紫苑はソファの上で自慰をしており、右手はショーツの中で下半身を、左手は胸元を弄っている。

 制服のワイシャツがはだけてブラジャーが見えてしまっており、スカートも捲れてショーツが丸見えだ。弄っているところまで丸見えになってしまっている。

 淫靡な匂いと音が実親の鼻腔と鼓膜を刺激する。


 やがて紫苑はショーツに手を掛けた。

 一度腰を浮かせると、ショーツを脱ぐように股から膝へ、膝から足首まで下げていく。左足だけ完全に脱ぎ去り、ショーツは右足首にぶら下がった。

 ワイシャツのボタンも全て外し、ブラジャーもずらす。


 そして足を開脚して自慰を再開した。

 今度は彼女の秘部と胸が両方丸見えになってしまっている。

 オーバーニーソックスは確り履いており、好みに刺さる人には堪らない姿だろう。


 いよいよマズイと思い実親は視線を逸らそうとするが、彼の意思に反して身体は言うことを聞いてくれない。

 視線は紫苑の痴態に釘付けであり、彼の下半身には血が滾り熱が籠っていく。


 快楽を感じている紫苑の口からは吐息多めの声が漏れ、下半身からは水分と粘り気を含んだ音が室内を満たす。

 また、実親の下半身を刺激する淫靡な匂いも充満している。


 窓から差し込む夕陽が室内を茜色に染め上げ、自慰に耽る紫苑の姿が幻想的とも思える情景になっていた。


 それからどれ程の時間が経っただろうか。


 やがて紫苑は小刻みに足腰を震わせた。

 どうやら絶頂したようだと実親は察し、流石にこれ以上はマズイと理性が訴え、この場を後にしようする。

 だが――


 ガタッ!


 慌てていたのか右足を扉にぶつけてしまった。


 実親が「まずい!」と思ったのも束の間、突然の物音に紫苑がビクリと驚きを顕にし、音の発生源へと視線を向ける。


 実親は様子を窺うように恐る恐る室内へ視線を向けると、紫苑と視線が合ってしまった。

 未だに紫苑の右手は秘部に、左手は胸元にあった。


 当の紫苑は慌てるでもなく恥ずかしがるでもなく、冷静に立ち上がり乱れた制服を正す。

 ブラジャーの位置を直し、ワイシャツのボタンを留める。胸元は少し開いたままだ。

 次にジャケットを羽織り、最後にショーツを履き直す。


 その間、実親の脳内は忙しなくなっていた。

 どう言い訳をしたら良いか、まず謝るべきか、それとも逃げてしまうか、など次の行動をどうするべきか必死に思考を巡らせていたからだ。


「部長は不在だけど、何か用?」


 実親の苦悩など知らぬとばかりに元凶の紫苑はいつの間にか近くまで移動しており、扉を全て開けて問い掛けてきた。

 紫苑の顔は快楽の余韻が残っているのか紅潮している。


「い、いや、いないなら日を改める」

「そう」


 実親は慌てていたのが影響してか、吃りながら問いに答えた。

 紫苑を直視して良いのかわからず視線が定まっていない。


「な、なんかすまん……」


 堪らず頭を下げて詫びを口にする。

 兎に角盗み見してしまったことを謝るべきだろうと思った。


「なんで君が謝るの?」


 紫苑は両手を腰の後ろで組んで少しだけ前屈みになりながら首を傾げる。

 本当に何故実親が謝るのか不思議に思っているようだ。


 前屈みになっているのではだけている胸元の存在感が強調され、実親は一層目のやり場に困ってしまう。

 頭を下げている実親と紫苑との身長差故か、彼女の胸元が目と鼻の先にあった。


「見てはいけないものを見てしまったからな……」

「別に君は悪くないでしょ。謝る必要ないよ」

「なら良いが……」


 紫苑は苦笑しながら実親の頭を上げさせる。


「それに扉を少し開けていたのはわざとだし」

「は?」


 突然の告白に実親は呆気に取られた。

 目の前の同級生が口にした言葉に我が耳を疑わざるを得なかった。だが、彼女が口にした言葉を聞き間違えたりなどしていない。

 つまり本当に紫苑は故意に扉を開けていたのだ、と思い至った。


「何故そんなことを……?」


 実親は無意識に質問していた。

 訊いて良いことなのかと思いもしたが、無意識に疑問が口に出てしまった以上は仕方がない。


 誰でも疑問に思うことだろう。自慰をするのに何故扉を開けておく必要があるのか? と。

 人に見つかる可能性が上がるだけで、プラスなことなど何一つない筈だ。寧ろマイナスしかない。


「その方が背徳感があって興奮するから?」


 紫苑は質問に首を傾げながら答えた。

 無表情なのがミステリアスな印象を強めている。


「……」


 予想だにしない答えに実親は黙り込んでしまう。


 紫苑は扉を開けておくことで誰かにバレるかもしれないという背徳感を味わい、興奮度と感度を上げていたそうだ。


 確かに実親は何も言えなくなってしまうだろう。無理もない。


「それじゃ私はもう帰るから、またね」


 そう言って紫苑はソファの上に置いてある鞄を取りに行く。

 再び扉の方に戻って来ると、実親の横を通り過ぎる。


「またがあるかはわからないけど」


 部室を出た紫苑は手を振りながら去って行った。


 確かに「また」があるかはわからない。

 今回は偶々遭遇しただけだ。

 クラスも違うので自然とすれ違ったりする以外は顔を合わせることもないであろう。


「なんだったんだ……」


 怒涛の展開に思考が追い付かず、実親は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 ただ一つはっきりしていることは、彼女の痴態が脳内に焼き付いて情景を鮮明に思い出せるということであった。


 この日から実親の脳内で何度もフラッシュバックされるようになる。

 幸い苦痛ではないので心的外傷にはならない。なのでフラッシュバックという言葉は不適切かもしれない。


 兎にも角にも、実親は今後何度も反芻することになる。


 君の痴態が忘れられないんだ、と。


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