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5章 3 港町『グラス』

 空がオレンジと濃紺のグラデーションに染まる頃、私達はこの国最後の港町『グラス』に到着した。


「海だわ! 港町に到着したのね!」


荷馬車の上から、見える町並みと海の光景にすっかり私は魅了されていた。


「リアンナ様、この町が一番気に入ったようですね」


隣に座るニーナが話しかけてきた。


「それは当然よ。だってこの海から新天地目指して、私達の新たな旅が始まるのだから。今からワクワクするわ」


すると御者台のジャンが話に加わる。


「俺は、この先何処までもリアンナ様についていきますから」


「そう? ありがとう」


「い、いえ。お礼なんていりません」


ジャンの顔が赤くなる。


「リアンナ様、勿論私もずっとお供させていただきます」


「ありがとう、ニーナ」


「カイン様は、途中で俺達とお別れなんですよねぇ?」


「え? ぼ、僕が?」


馬上のカインは突然話を振られたせいか、うろたえた様子を見せる。

そうだった。すっかり忘れていた。カインは本来、殿下の護衛騎士なのだ。今は私達の旅に同行しているけれど……本当にこの先、どうするつもりなのだろう。


「それより、もうすっかり日が暮れてしまいました。実はおすすめのホテルがあるので、今夜はそこに泊まりませんか?」


まるで話をはぐらかすようにカインが提案してきた。


「そうね、それじゃカインお勧めのホテルに案内してくれる?」


「はい、リアンナ様」


カインは笑顔で返事をした――



****


 カインが連れてきてくれたホテルは、海がすぐ近くという好立地条件の場所にあった。


「うわ〜窓から、こんな近くで海を眺められるなんて素敵!」


窓を開けると潮風が部屋の中に流れ込んできた。

空には大きな満月が浮かび、夜の海が月の光でキラキラと反射している。


「本当に素敵なお部屋ですね。私も気に入りました」


リーナも私と一緒に窓から顔をのぞかせてきた。


「どうですか? お気に召されましたか?」


背後からカインが声をかけてきた。


「うん、勿論! とっても気に入ったわ。何だか、1泊だけするのはすごく勿体ないと思わない」


私はこの港町が気に入ってしまった。出来れば、後数日は滞在したい。


「え? リアンナ様。だけど、俺達は追われているかもしれない身なのですよ。誰かさんのせいでね」


ジャンがチラリとカインを見る。


「確かに、は追われている身です。本来、もしこの時間に船が動いていれば、出向しても良いくらいです」


カインは「僕たち」を強調する。


「確かに、カインの言う通りではあるけれど。でもせめて2日位は滞在したかったな……だって私はこの国を出たら、もう二度と戻ってこれないのだから」


こんなに綺麗な港町にたった一泊しか出来ないなんて、勿体ない。

なのに、何故か3人は神妙な顔で私を見つめている。


「え? どうしたの? そんな思い詰めた顔しちゃって?」


「リアンナ様……なんてお気の毒な……」


ニーナが涙目で私を見つめている。


「うっく……」


驚くべきことにジャンは腕で目を拭っている。

そしてカインは……。


「確かにこの国はリアンナ様の故郷、離れがたい気持ちは理解できます。……分かりました。ご希望通り、後2泊いたしましょう。変装していれば、追手に気づかれることは無いでしょうから」


「本当? ありがとう、カインッ!!」


私は笑顔でカインにお礼を述べた。


「い、いえ。他ならぬリアンナ様の願いですから」


顔を赤らめるカイン。

こうして、私達は後2日『グラス』に滞在することが決まった。



そして、この夜……事件が起こった――




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