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5章 2 初めての自覚

――夕暮れ時


「ㇵ……ハックション!!」


ガラガラと走る荷馬車の上で、大きなくしゃみをするジャン。


「うう〜……さ、寒い……」


毛布にくるまり、ガタガタ震えるジャンに私は声をかけた。


「大丈夫? ジャン。ごめんなさい、私が調子に乗ったせいで風邪を引かせてしまったみたいね」


「い、いえ……リアンナ様は何も悪く……ハックション!!」


ジャンは再び大きなくしゃみをした。


「全く、ジャンはヤワね〜。私もリアンナ様もカイン様だって、風邪を引かなかったのに。情けないわね」


ジャンの代りに御者台に座って、手綱を握りしめているニーナが振り返った。


「う、うるさい! 少しは兄の俺を心配したらどうなんだ……ハックション!!」


「だから、私が姉だって言ってるでしょう!?」


ジャンは風邪を引いているというのに、再び口論を始める2人。


「まぁまぁ、落ち着いて2人とも。元はと言えば、私が皆を川に誘ったのがいけなかったわけだし……ごめんなさい、反省してるわ」


「何を言ってるのですか。リアンナ様は少しも悪くありませんよ? むしろ風邪を引いてしまったジャンに問題があるのですから。僕はそう思います。



今まで静かにスカイにまたがっていたカインが会話に加わってきた。

いやいや、カインがそれを言ったらマズイのでは?


う〜ん……ひょっとするとカインは今まで散々ジャンに敵意を向けられていたので、やり返しているのだろうか?


「……」


けれど、ジャンは言い返さないで黙っている。

もしかして私に気を使っているのかもしれない。 だったら……。


「カイン、後どれくらいで『グラス』に着きそう?」


「そうですね。日が落ちるまでには到着できそうです」


日が落ちるまでにはか……。


「ジャン。『グラス』に到着したら、すぐに宿屋を探すわ。部屋が見つかったら、私がつきっきりで看病するわね」


私のせいで風邪を引かせてしまったのだから、責任をとらないと。


「え!? リアンナ様にそんなことさせられません! ベッドで寝かせておけば大丈夫ですよ!」


真っ先に声をあげたのはニーナだった。


「そうです。リアンナ様に風邪がうつったら大変です。部屋で1人で休ませておけば良いのではありませんか?」


何故かカインまで反対する。


「だけど、やっぱりジャンの風邪は私のせいよ。川遊びなんてさせてしまったから」


「リアンナ様……ありがとうございます……」


ジャンが熱のせいか、赤い顔に潤んだ目で見つめてきたそのときカインが突然提案してきた。


「そうだ、リアンナ様。ウクレレを演奏してみませんか?」


「ええ!? 何でウクレレが出てくるの?」


「リアンナ様のウクレレの演奏で今まで2人も治したではありませんか? ジャンの風邪もウクレレを弾けば、きっと治るはずです」


きっぱり、言い切るカイン。


「2人しかいないけどね……それにウクレレの演奏で治ったとも思えないし。単なる偶然だと思うけど……?」


「そんなことありません! 私もカイン様の言う通りだと思います。リアンナ様、試しにウクレレを演奏してみて下さい」


ニーナまでカインの話に乗ってくる。


「う〜ん……そうね……丁度、なにか一曲弾いてみようかと思っていたし……」


丁度、夕焼けが美しい空だし『夕やけ小やけ』を弾いてみようかな?


ウクレレを小脇に抱えて演奏を始めると、早速ウサギとリスが私の側に集まってきた。


「ハハハ……本当に、動物たちはリアンナ様の演奏が好きなんですね……」


毛布にくるまっていたジャンが力なく笑う。


「静かだけど、素敵な曲ですねぇ〜」


「今までとは違った雰囲気ですね」


ニーナもカインも聞き惚れている。

ジャンの風邪が治りますように……と心の中で祈りながら。


「ジャン、具合はどう? ……でも、演奏で風邪が治るはずないわよね?」


3回繰り返し演奏すると、早速ジャンに尋ねてみた。

すると……。


「あれ? 何だか身体が軽いですよ? さっきまであんなにだるくて、頭も重かったのに。すごく体調が良くなりました!」


毛布をはいで、立ち上がるジャン。


「ええ!? 本当に!?」


「そんなまさか!」

「本当に治るなんて……!」


私が驚くと、続けてニーナにカインも驚く。


え? 2人はウクレレで演奏すればジャンの風邪が治ると言ってなかったっけ?


「よし! ニーナッ! 御者を変われ! 今度は俺の番だ!」


ジャンはズカズカ、御者台に近づくとニーナを押しのけた。


「キャッ! な、何するのよ! 乱暴ね!」


「何が乱暴だ。大げさだなぁ」


「何ですって!」


再びいがみ合う2人。


う〜ん……でも確かにジャンの体調はすっかり良くなっている。

やっぱり、このウクレレに神がかった力が秘められているのかもしれない。


この時、初めて私はウクレレの力を信じることができた――








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