3人の騎士たちが剣を構えたまま、一斉にカインに襲いかかっていった。
『カインッ!!』
心の中で叫び、怖くて思わず目を閉じてしまった。
キィンッ!!
ガキッ!!
キンッ!!
周囲に金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。
日本人の私にとって剣を使って戦い合う場面なんて、映画やドラマでしか見たことがない。
けれど、今行われている戦いはリアルなのだ。
怖くて見ていることも出来ず、ただ目を閉じて必死にカインの無事を祈るしか無かった。
少しの間激しい打ち合いが続いていたが、やがて……。
「うっ!」
「ぐあっ!」
「き……さま……」
男たちのうめき声が聞こえ、辺りは静かになった。
カインは……どうなったのだろう……?
恐る恐る茂みの隙間から覗き込むと、丁度カインが剣をしまうところだった。
「リアンナ様、もう大丈夫です。出てきて下さい」
不意にカインが声をかけてきた。
「う、うん……」
返事をしたものの、腰が抜けてしまったのか立つことが出来ない。
「リアンナ様? どうされたのですか?」
カインは近づいてくると、茂みの中に座り込んでいる私を心配そうに見下ろした。
「リアンナ様? もしやお怪我でもされましたか!?」
「あ……カ、カイン……終わったの?」
情けないことに腰が抜けて立てない私は地面に座り込んだままカインを見上げた。
「はい、終わりましたが……一体……?」
「アハハハ……お、驚いて腰が抜けてしまったみたいで……」
「え? そうだったのですか?」
カインは茂みを超えて私の前にやってくると、膝まずいて頭を垂れた。
「驚かせてしまって、申し訳ございません」
「え? そんな、謝らないで! 私が勝手に驚いて、腰が抜けてしまっただけなんだから。そ、それで……さっきの人たちは……ま、まさか殺した……の……?」
出来ればカインに人殺しはして欲しくない。
「いえ、気を失っているだけです。それほど深い傷も負わせていません」
「そう……良かった」
心から安堵のため息をついた。
「リアンナ様、彼らは僕たちの命を狙っていた可能性もあるのですよ? それなのに命の心配をするのですか?」
カインは心底不思議そうな様子だ。この世界では当たり前かもしれないけれど……。
「それは心配に決まっているじゃない。だけど、私が一番安心したのは……カインが人を殺さなくて済んだことだから」
「リアンナ様……」
「騎士のカインにこんな事言うのは矛盾しているかもしれないけれど、出来ればカインには人を殺して手を汚して欲しくなくて。せめて、私の眼の前だけでもね」
「!」
私の言葉にカインは驚いたように目を見開く。
「それよりカイン、どこも怪我していない?」
「はい、どこも怪我はしていませんが……僕の心配をしてくれているのですか?」
「そんなの当然じゃない。でも怪我をしていないなら良かった……あれ?」
「どうかしましたか?」
「ア、アハハハ……今度は、震えが止まらなくなっちゃったみたい……」
カインが人殺しをしなかったこと、無傷だったこと。それを知って、改めて先程の恐怖が蘇ってしまったみたいだ。
「リアンナ様……失礼致します」
突然カインは謝罪すると、私を抱き上げてきた。
「え!? キャアッ!」
突然のことで驚き、咄嗟にカインの首に腕を回してしまう。
「あ! ご、ごめんなさい!」
慌ててパッと手を離すと、カインが笑った。
「いえ、お気になさらないで下さい。それでは行きましょうか」
私を抱き上げたまま、カインは歩き出す。
「え!? ちょっと待って! こんな格好で町を歩くのは流石に恥ずかしいのだけど!」
「ですが、歩けないのですよね?」
「そ、それは……」
「歩けるようになるまでの間ですから」
「ありがとう……」
お姫様抱っこ? なんてされるのは生まれて始めてでどうしたら良いか分からない。
なるべくカインの顔を見ないように、視線を背けると視界に3人の男たちの姿が入った。
彼らはカインの話した通り、地面に倒れたまま伸びていた――