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3章 8 驚きの提案

「カイン、私は聖女なんかじゃないですよ? 皆に披露していたのはマジックなのですから」


明日はこの町でマジックをするつもりなので、できるだけ小声で話す。


「マジック? マジックとは一体何のことですか?」


当然のようにカインは首を傾げる。


「マジックというのは、種や仕掛けのある見世物のことですよ」


カインの隣に座るニーナが小声で説明する。


「種や仕掛け……?」


訳が分からないと言った素振りで首を傾げるカイン。


「あ〜もう、まどろっこしい。もういいです、マジックをやってみせますよ。いいですよね? リアンナ様」


ジャンが私に同意を求めてきた。


「うん、もちろんよ。それじゃ、ジャン、やって見せてくれる?」


実はジャンとニーナにも簡単なマジックを既に私は仕込んでいたのだ。


「はい、では早速やってみましょう」


「ジャン、頑張って」


ニーナが応援する。


「では、この白いハンカチを良く見ていてくださいね」


ジャンは白いハンカチをポケットから取り出すとカインに見せた。


「分かった」


カインが頷くと、ジャンは白いハンカチを丸めては伸ば動作を繰り返し……カインの見ている前で白いハンカチから、もう1枚取り出してみせた。


「あっ! ハンカチが2枚に増えた! そんな……君にもリアンナ様のように不思議な力があったのか!?」


「ちょっと、そんなはずないじゃないですか。私だってそれくらい出来ますよ」


驚くカインにニーナが声をかける。


「何だって? 君にも出来るというのか!? それじゃ君にも……」


「だから、そんなはずないってさっきから言ってますよね? これはマジックなんですよ。いいですか、実はこちらの袖の中にもう1枚ハンカチを隠していて、ひきだしていたんですよ」


ジャンが袖口を見せながら実演してみせた。


「本当だ! すごい……こんな風になっていたなんて……想像もつかなかった。それではリアンナ様が今まで人前で見せていたのは……?」


カインが私を振り向く。


「はい、そうです。全て種も仕掛けもあるものです。これらを総称してマジックと言います。 私は聖女ではないということが、これでお分かりになりましたか?」


「そ、そんな……」


余程ショックだったのか、俯くカイン。けれど、直ぐに顔を上げた。


「いえ、それでもやはりリアンナ様には不思議な力があると思います。現にハトを呼び集めたり、言うことを聞かせていたではありませんか。僕は、オスカーを雛のときから育てて、伝書鳩として手懐けたのですよ。それなのに……オスカーは僕よりもリアンナ様のほうが好きみたいですし……」


カインは悲しげに私を見る。

ええっ!? も、もしかして私のせいなの!?


「な、何言ってるんですか! きっと、アレですよ。私達が連れているハトに惹かれて、飛んできたんじゃないですか? だから気にすることはありませんよ?」


うう……何故、私が言い訳じみたことを言わなければならないのだろう?


「いえ、そのことならもう大丈夫なのでお気になさらないで下さい」


「はぁ……そうですか……」


だったら何故、そんな気になる言い方をするのだろう? 疑問を抱いていると尚もカインの話は続く。


「ですが、ハトだけではありません。リアンナ様は不思議な楽器を奏でて、身体の弱っていた少女の母親を元気にさせたではありませんか」


「そうですね。私もあの時は驚きました」


「俺もですよ」


ニーナとジャンがカインの話に同意する。

するとカインが俯き、少しの間何か考え込む素振りの後に顔を上げた。


「不思議な力を持ったリアンナ様は、とても貴重な存在だと僕は思います。そこで提案なのですが……この国を出るまでは、僕を護衛騎士として皆様の旅に同行させて頂けませんか?」


カインは驚くべき提案をしてきた――



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