――午前10時
私達は村の広場と思しき場所に来ていた。
「リアンナ様。本当にここでマジックを披露するのですか?」
「何だか、殆人が見当たりませんけど……?」
テーブルをセッティングしながらジャンとニーナが尋ねてきた。2人の顔には不安な表情が浮かんでいる。
「いいのいいの、だってここが一番大通りで……ほら、あそこに通行人もいるじゃない」
「確かにいますけど……5人しかいませんよ?」
「皆、森に木を切りに行ってしまっているのではありませんか?」
ニーナとジャンの言葉に、こちらも徐々に不安な気持ちがこみ上げてくる。それを吹っ切るように笑顔で答えた。
「大丈夫だって! やるだけやってみましょう? もし駄目なら、すぐに次の目的地へ行けばいいだけのことじゃない!」
「それは頼もしいですね」
「私、リアンナ様を信じてついていきます!」
「勿論! 任せなさい!」
そうだ、別にマジックを披露するのに私が損をすることはないのだから。
そこで私はウクレレを小脇に抱え、早速演奏を始めた。
今回の曲は「静かな湖畔の森の影から」だ。村の雰囲気に何となく似合うような気がしたからだ。
明るいノリで曲の演奏を始めると、たちまちウクレレの音色が村の中に響き渡る。
するとこの曲につられてか、1人2人と村人たちが集まり始め……気づけば何処にこれだけの人々がいたのだろうかと思うほどに、人だかりが出来ていた。
「聞いたこともない曲だな」
「あの楽器は何かしら?」
「変わった楽器だ……」
「でも素敵な音色ね」
人々は私の演奏に聞き入っている、それだけでも十分だ。
すると、ジャンが声をかけてきた。
「リアンナ様、マジックの用意が出来ましたよ」
「ありがとう、ジャン」
小声で返事をすると、最後まで演奏を弾き終え……会釈した。
すると、たちまち拍手が起こる。
「ステキな演奏だったよ」
「いや〜見事だった!」
よし、ではここで一発マジックをお披露目しよう。
私はウクレレをテーブルの上に置くと、すかさずハンカチを使った定番の花を出すマジックを披露した。
それだけで、再び歓声があがる。
「おおっ! す、すごい!!」
「花がいきなり現れたわ!!」
フフフ……皆驚いている。けれど、ここからが本番。
いよいよ、シルクハットからギンバトを出すマジックをするのだ。
私はテーブルの上に置かれたシルクハットを手に取った。
「頼んだわよ」
小声で小さくシルクハットにつぶやくと、私は早速シルクハットを村人達の前にさしだし……中に、何も入っていなことを見せるために帽子の中身を見せる。
「なんだろう?」
「さぁ……?」
「これから何が始まるのかしら……?」
訝しげな村人たち。
そこで私は帽子の中に手を入れ……1羽のハトを取り出した。
バサバサッ
小さな羽音とを立てながら、真っ白なギンバトを取り出す。
「鳥だ!!」
「鳥が出てきたわ!!」
さらに、もう1羽取り出すとますます騒ぎは大きくなる。
「すごい!!」
「魔法だ!! 魔法に違いない!!」
「いいえ! きっと……聖女様よ!!」
1人の女性が大きな声で私を指さした。
「「ええっ!?」」
聖女という言葉に、ジャンとニーナが驚きの声を上げる。
勿論2人以上に驚いているのは他ならぬ私なのだが、今はポーカーフェイスを装わなくては。
「聖女様が降臨した!!」
「なんてありがたいことだ!!」
もう辺りは、「聖女様」コールで一杯だ。
けれど、私は断じて聖女などではない。これは単なるマジックだ。
「リアンナ様……どうします?」
「まだマジックを続けるつもりですか?」
ジャンとニーナが尋ねてくる。
「ま、まさか! 無理よ! 今日はここまでよ!」
だが、聖女と呼ばれてお金を要求なんて出来るはず……。
「「「ええっ!?」」」
しかし、さらに度肝を抜く出来事が私達3人を襲う。
出番の無かったギンバトたちが、大きな布袋をくわえて村人たちからお金を回収していたのだった――