目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
2章 5 驚愕の光景

――午前10時


私達は村の広場と思しき場所に来ていた。


「リアンナ様。本当にここでマジックを披露するのですか?」

「何だか、殆人が見当たりませんけど……?」


テーブルをセッティングしながらジャンとニーナが尋ねてきた。2人の顔には不安な表情が浮かんでいる。


「いいのいいの、だってここが一番大通りで……ほら、あそこに通行人もいるじゃない」


「確かにいますけど……5人しかいませんよ?」


「皆、森に木を切りに行ってしまっているのではありませんか?」


ニーナとジャンの言葉に、こちらも徐々に不安な気持ちがこみ上げてくる。それを吹っ切るように笑顔で答えた。


「大丈夫だって! やるだけやってみましょう? もし駄目なら、すぐに次の目的地へ行けばいいだけのことじゃない!」


「それは頼もしいですね」

「私、リアンナ様を信じてついていきます!」


「勿論! 任せなさい!」


そうだ、別にマジックを披露するのに私が損をすることはないのだから。


そこで私はウクレレを小脇に抱え、早速演奏を始めた。

今回の曲は「静かな湖畔の森の影から」だ。村の雰囲気に何となく似合うような気がしたからだ。

明るいノリで曲の演奏を始めると、たちまちウクレレの音色が村の中に響き渡る。


するとこの曲につられてか、1人2人と村人たちが集まり始め……気づけば何処にこれだけの人々がいたのだろうかと思うほどに、人だかりが出来ていた。


「聞いたこともない曲だな」


「あの楽器は何かしら?」


「変わった楽器だ……」


「でも素敵な音色ね」


人々は私の演奏に聞き入っている、それだけでも十分だ。

すると、ジャンが声をかけてきた。


「リアンナ様、マジックの用意が出来ましたよ」


「ありがとう、ジャン」


小声で返事をすると、最後まで演奏を弾き終え……会釈した。


すると、たちまち拍手が起こる。


「ステキな演奏だったよ」


「いや〜見事だった!」


よし、ではここで一発マジックをお披露目しよう。


私はウクレレをテーブルの上に置くと、すかさずハンカチを使った定番の花を出すマジックを披露した。


それだけで、再び歓声があがる。


「おおっ! す、すごい!!」


「花がいきなり現れたわ!!」


フフフ……皆驚いている。けれど、ここからが本番。

いよいよ、シルクハットからギンバトを出すマジックをするのだ。


私はテーブルの上に置かれたシルクハットを手に取った。


「頼んだわよ」


小声で小さくシルクハットにつぶやくと、私は早速シルクハットを村人達の前にさしだし……中に、何も入っていなことを見せるために帽子の中身を見せる。


「なんだろう?」


「さぁ……?」


「これから何が始まるのかしら……?」


訝しげな村人たち。

そこで私は帽子の中に手を入れ……1羽のハトを取り出した。


バサバサッ


小さな羽音とを立てながら、真っ白なギンバトを取り出す。


「鳥だ!!」


「鳥が出てきたわ!!」


さらに、もう1羽取り出すとますます騒ぎは大きくなる。


「すごい!!」


「魔法だ!! 魔法に違いない!!」


「いいえ! きっと……聖女様よ!!」


1人の女性が大きな声で私を指さした。


「「ええっ!?」」


聖女という言葉に、ジャンとニーナが驚きの声を上げる。

勿論2人以上に驚いているのは他ならぬ私なのだが、今はポーカーフェイスを装わなくては。


「聖女様が降臨した!!」


「なんてありがたいことだ!!」


もう辺りは、「聖女様」コールで一杯だ。

けれど、私は断じて聖女などではない。これは単なるマジックだ。


「リアンナ様……どうします?」

「まだマジックを続けるつもりですか?」


ジャンとニーナが尋ねてくる。


「ま、まさか! 無理よ! 今日はここまでよ!」


だが、聖女と呼ばれてお金を要求なんて出来るはず……。


「「「ええっ!?」」」


しかし、さらに度肝を抜く出来事が私達3人を襲う。


出番の無かったギンバトたちが、大きな布袋をくわえて村人たちからお金を回収していたのだった――



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?