「リアンナ様。マジックの用意が出来ましたよ」
ウクレレを弾いていると、背後でジャンが声をかけてきた。
「そう、ありがとう」
小声で返事をすると、演奏を最後まで弾き終えてお辞儀をすると周囲は一斉に拍手に包まれた。
「素敵な演奏だったわ」
「ああ! 見事だった!」
「心に染みたわ!」
フフフ……みんな、ウクレレの演奏に感動してくれている……。
だがしかし、本番はここからなのだ。
まず、インパクトの強いマジックから初めて人々の注目を集める!
「ニーナ、例のステッキを貸して頂戴」
「はい、リアンナ様」
ジャンにウクレレを手渡しながら、ニーナから長いステッキを受け取る。このステッキも勿論手作りで、ちょっとした仕掛けがある。
「何だ?」
「今度は何が始まるのかしら……」
長いステッキを持った私を見て騒めく人々。
私は笑みを浮かべると、ステッキを右手で握りしめて人々の前に腕を差し出した。
そして、そのままステッキを放すと地面に落ちることなく空中でピタリと止まる。
「う、浮いてるぞ!!」
「何で! 信じられない!」
「そんな馬鹿な……!」
人々の顔に驚愕の表情が浮かぶ。……よしよし、上出来な反応だ。
そこでさらに驚かせるために、私は右腕を大きく左右に振る。すると、ステッキは右手の動きにピタリと合わせて動き始める。勿論、空中に浮いた状態で。
まぁ、種明かしをしてしまえばこのステッキは紙を細く長く丸めて作ったステッキで非常に軽い。
そして人々からは見えないが細い糸が付いている。その糸を親指に引っかけて、あたかも浮いているように見せかけているのだ。
単純なマジックではあるが、インパクトは十分だ。
現にこのマジックを見せただけで、人々は拍手喝さいを浴びせてくる。
その後もハンカチから花を出したり、破いた紙をぐしゃぐしゃに丸めて広げると元通りに戻ってるというマジックを披露した。
その頃には足元に置かれた箱の中には大量のお金が集まっていたのだった。
「皆さま、本日は御鑑賞頂きありがとうございました!」
たった3つのマジックしか披露していないが、それでも結果は上々。
人々は興奮した様子で騒いでいる。
「お姉さん! 最高だったよ!」
「まるで魔法みたいだったわ!」
「いや、あれは魔法なんかじゃない! 神の力だ!」
誰かが叫ぶ。
え? 神の力……? 単なるマジックなんですけど?
「そうよ! 神の力に違いないわ!」
流石にそれは言い過ぎだ。マジックだとバレたら‥…失望されてしまうかもしれない!
「ニーナ、ジャン。何だか騒ぎが大きくなってきたわ。面倒なことになる前に早くここを立ち去りましょう」
「ええ、そうですね」
「私もその方が良いと思います」
三人でコクコク頷きあうと、私は観衆に向き直った。
「それでは皆様。私たちはこれで失礼致します!」
荷物をさっさとまとめて、大きく手を振ると次々と感謝の言葉が飛び出してきた。
「ありがとうございます!」
「感謝いたします!!」
「神の奇跡を見せて頂き、ありがとうございます!」
ひぇえええ!! 神の奇跡なんてやめてよね!
観衆に見守られながら、私たちは逃げるように広場を後にした――
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三人で町の中を急ぎ足で宿屋へ向かっていると、ジャンが話しかけてきた。
「リアンナ様。お見事でしたけど……大騒ぎになりましたね」
「本当よ、ただのマジックなのに拝まれてしまったわ。神の奇跡だって! 何だか申し訳ない気持ちになってきちゃった」
これは種も仕掛けもあるマジックなのに。
「でも、人々に感動を与えられたのは確かですよ。私も感動しましたから」
「ニーナ……そうよね、皆喜んでくれていたもの」
だけど、これほど大騒ぎになるとは思わなかった。
同じ町でのマジックは二度流行らない方が良さそうだ。
どうせ旅はこれからも続く。
毎回違う場所でマジックを披露すれば良いのだから――