「ええ!? お、お客様……本当にばっさり切ってよろしいのですか?」
鏡に映る私にハサミを持った女性店員が驚いた様子で尋ねてきた。
「はい、お願いします。そうですね……肩より少し長めになる程度まで切って下
さい」
「分かりました……こんなに美しい髪なのに、何だかもったいない気がしますが」
私はその言葉を聞き逃さなかった。
「それでは、切った髪を買い取って頂くことは出来ますか?」
女性店員の答えは、勿論……聞くまでもなかった――
「お待たせ、ニーナ」
バッサリ短く髪を切って貰った私は店の外で待っていたニーナに声をかけた。
ニーナは私の美しい髪が切られる場面は見るに耐えられそうにないと言って、店の外で待っていたのだ。
……本当に何の為にニーナは私に着いてきたのだろう?
「やはり、本当に髪を切ってしまわれたのですね!? そ、そんな!」
ニーナは私の短い髪を目にして青くなる。
「だから、初めから切るって言ってたでしょう? お陰で頭が軽くなったわ。今日から髪の毛を洗うのも楽になるわね」
「髪の毛を洗うのくらい、お手伝いしますのに……」
何処か恨めしそうな目で私を見るニーナ。
う〜ん……何故、ニーナはそこまでして私が髪を聞いたことを残念がっているのだろう?
「まぁ、過ぎたことをグチグチ言っても始まらないわ。それよりも、見て頂戴。私の髪の毛、こんなに高値で売れたのよ。5万ロンで買い取ってくれたのよ?」
ポケットから財布を取り出すと、中を開いてニーナに見せてあげた。
「え!? そ、そんなに高値で売れたのですか?」
「ええ。このお金を軍資金に、これから買い物に行くわよ」
私はニーナの手を取って歩き出した。
「買い物? 一体何を買いに行くのですか?」
「マジックの材料を買いに行くのよ」
「ええっ! マジックの材料なんか売ってるんですか?」
「そうよ、マジックの道具を作るための材料を買いに行くの。色々な店に行くから急ぎましょう!」
「はい、リアンナ様!」
その後――
私とニーナは様々な店に立ち寄ってマジックの材料集めに奔走し、日が暮れる頃にようやく宿屋へと戻ってきたのだった……。
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「リアンナ様、それにニーナ! こんな時間まで、一体何をしていたんです!?」
宿屋の扉を開けると同時に私とニーナは待ち伏せしていたジャンに捕まり、お説教されるハメになってしまった。
「ごめんなさい、色々買い物をしていたから……でも、ほら。この通り無事に戻ってきたわけだし」
すると私の言葉にジャンの目が険しくなる。
「当然ですよ! 何かあってからでは遅いのですから。はぁ……全く……それに、その髪はどうなさったのです? 美容院に行くとはニーナから聞いていましたが、いくら何でも切り過ぎじゃないですかぁ!?」
「そ、そうね……少し切りすぎたかもね? でも、髪なんてすぐに伸びるだろうし……」
かなり不機嫌そうなジャン。もしかしてジャンも私が髪の毛を切りすぎたことに不満を感じているのだろうか?
「まぁ切ってしまったのは仕方ありませんね……でも、今度からは出掛ける時は日が暮れないうちに帰ってきてくださいね、ニーナもだからな?」
「「はい……」」
「それでは、食事にしましょう。宿屋の主人が用意してくれていますから。荷物は後で部屋に運べばいいです。とりあえず食堂に行きましょう」
「「はい」」
再びニーナと声を揃えて返事をする。
どうやら今夜はジャンに場を仕切られてしまう……そんな予感がした――