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第67話 ゴリアテの悩み

 ゴリアテの装備はミンセントが言うような低ランクの探索者には似つかわしくないものだった。一目で見てゴリアテがタンクだと分かるほどの重装。しかも、それらの装備品のクオリティも高い。

 大手メーカーの装備ではないものの、その質の高さは見れば分かる。


 もう一つ、気になったこととしては――。


「助けて欲しいっていう割には、妙に落ち着いてるね。おじさん」


 ソウジが指摘したように、助けてくれ、と駆け寄ってきた割にゴリアテの態度は落ち着き払っているということだ。落ち着き払っていると表現するのは些か語弊があるかもしれないが――。

 とても助けを求めるような態度でないことは確かだった。


「そりゃ急を要してるわけじゃねぇからな。ミンセントのめんどくせぇ使いっ走りを早く辞めたいってだけでよ」

「ふ~ん」


 どうにも、ゴリアテとミンセントの力関係は複雑なものだったらしい。あれほど威勢の良いゴリアテも、結局のところ素直に従っている。

 表面上のやり取りや、言葉だけでは測れないほどの信頼関係か何かが二人の間にはあるのだろう。(最も、そんなことを言ったらゴリアテは怒りそうだけど)ガチャガチャと鎧を鳴らして、ゴリアテは腕を組んだ。


「それで、どうだ? 俺たちを助けてくれないか?」

「本当に助けを求めてる態度じゃないわね……」

「仕方ねぇだろ! 俺だって別に助けを求めたいわけじゃねぇんだよ! ミンセントの奴がやれって言って聞かねぇんだよ」

「おじさん、ミンセントさんと仲が良いんだね」


 あ、俺が思ってても言わなかったこと。

 どうにもゴリアテにはソウジのクソガキ成分を誘発する何かがあるように思えてならない。「仲良くねぇよ! それと、ミンセントだけが“さん”付けなのもムカつくなぁ、クソガキ!」「ちゃんとつけてるじゃん。おじ“さん”ってさ」「そういうことじゃねぇよ!」

 ミンセントがいない時のゴリアテとの漫才役はソウジに任せた方が良さそうだった。

 二人を止めるためにも、俺は手を叩いて注目を自分に向けさせる。


「助けるって、具体的には何を?」

「ショートカットを見つけたんだけどよ、俺たちの火力じゃどうにも突破できなくてな。他の探索者の力が必要なんだとさ」

「で、でも――ゴリアテさんの装備はとっても凄そうに見えますよ?」


 ユウリの質問だ。

 期せずして、俺が疑問に感じたことを二人が聞いてくれた形となった。「俺はタンク、ミンセントにいたっては非戦闘員だ。端から火力を出す構成じゃねぇんだよ」ゴリアテの説明も理に敵っていた。

 そもそも、彼らはスエズ一家の補欠――にもならない、現地サポーターだ。この階層までたどり着いていることが本来奇跡に近い。


「で、どうするの?」


 腕を組んだチヒロが、俺に視線を向けた。

 どうやら、チヒロは判断を俺に投げてくれたらしい。ユウリもソウジも俺に判断を任せているようだった。自然と、全員の視線が俺に向けられてちょっと居心地が悪い。


「レナ、タロウさんから返事は?」

「まだ来ていません」

「そうか……」


 俺たちの本来の仕事はここまで。

 ダンジョンを離れても構わないのだが、タロウから追加の仕事が来る可能性もあった。ともすれば、現在はタロウからの返事待ちをしているような状況だ。

 ――なら、せっかくだ。

 ミンセントの熱い想いの一助はしてあげたかったし、二人を助けよう。


「分かった、じゃあ……その場所に案内してくれるか?」

「お、マジか。助かるぜ!」


 そうして俺たちはゴリアテの案内を受けた。


 ◆


「おぉ! まさか君たちが来てくれるとはね! いやぁ、ボクたちやっぱり運命の赤い糸で繋がっているのかもしれないね!」


 ゴリアテの装備は変わっていたが、ミンセントは相変わらずの水着とアロハシャツというラフな格好だった。トレードマークのサングラスを取り去って、ぐいっと俺の手を引くミンセント。


「ミンセントさん、あんまりアサヒさんに馴れ馴れしいとサナカさんが怒るかもしれませんよ」

「それは恐ろしいね。ボクたちのような木っ端探索者――Sランクの不興を買ったら生きていけないね」


 ソウジの忠告を聞いて、わざとらしいリアクションと共に俺から距離を取るミンセント。「馴れ馴れしいってだけでサナカは怒らないと思うけどな……そもそも、ミンセントは別に馴れ馴れしいわけじゃない」「そう見えるかもしれないってことですよ。少なくとも僕はしませんね」そもそも、サナカは俺に信頼を寄せてるが俺と誰の仲が良いかなんて気にするようなタイプじゃない。

 サナカのことはともかく――俺は周囲を一瞥。

 溶岩はなく、小部屋としか表現しようのない小さな空間だった。


「ここがショートカットなの?」


 チヒロの確認の言葉には、おおよそ“そんな風には見えないけど”という言葉が含まれているといっても過言ではない。それに関しては俺も同意できた。一見すると――いや、一見しなくても、本当にただの小部屋。

 俺が見たとしても、ただの行き止まりにしか見えなかった。


「言ったろ? ミンセントは非戦闘員だってな」

「そんなことを言っていたのかい? 正しいから別にいいけどさ、もうちょっとカッコイイ紹介の仕方をしてくれよゴリラ君?」

「お前がそれを改めねぇからだろ――」


 大仰な仕草と共に、ミンセントは人差し指を立てた。ゴリアテの抗議はフル無視で「――ボクは木っ端探索者だけど、勘と観察力にはそれなりの自信があるというわけさ。僅かに空気の流れが違う」

 つらつらと、根拠を語っていくミンセント。

 空気の流れ、僅かな亀裂、それらを総合的に判断した結果……この壁の奥には別の空間があるはず、という答えにたどり着いたらしい。


「ショートカットの根拠は?」

「女の勘さ☆」

「な? ミンセントに振り回される俺の気持ちが分かったか?」


 確かに、ゴリアテの苦労も分かった気がする。彼女は正しくじゃじゃ馬だ。しかも、かなり馬力がある。「この先には絶対ショートカットがあるって、ボクの本能が言って聞かないのさ」コンコンと壁を叩いて、ミンセントは自信満々で続ける。


「じゃあ、ソウジ。任せていいか?」

「もちろん。壁も斬って見たかったんですよね」


 刀を鞘に収めたまま、ソウジは壁の前に立って姿勢を低く保った。

 溶岩龍にそうしたように、見せるのは居合い斬り。

 凄まじい魔力がソウジの得物に集積。

 そして、放たれる。

 斬撃。


「はぁ!」


 両断。

 手応えあり。

 本来、壁や地面を破壊することはできない。

 それはギミックと同じか、それ以上の強制力があるルールである。

 しかし、それを斬れるということは――ミンセントの見立てが正しいことを示していた。


 壁が切断した瞬間。

 爆ぜた。

 黒煙が噴き上がり、凄まじい衝撃が俺の身体を伝わった。


 耳を破壊するような音が響き渡り、視界は黒に染め上げられた。


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