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第49話 目立つ探索者たち

「筆記、実技共にほぼ満点でBランク認定か……」


 ソウジが持ってきた結果通知を見て、俺はその結果を呟いた。「ソウジ君すっごく強いんだね!」隣から顔をのぞかせて、サナカも結果に言及。照れた様子で、ソウジが爽やかに笑みを浮かべた。


「サナカさんに比べるとまだまだですけどね」

「とはいえ、認定試験でBランク認定を受けるのはSランク探索者の登竜門みたいなところはあるからな。ソウジも今や注目の的だろうさ。そういう意味で、ソウジが受かったのは今日でよかったと思う」


 俺の言葉に、サナカとソウジがそろって首をコテリと傾げた。「どういうことですか? 師匠」なんて素直に疑問を口にする彼女に俺はその理由を答える。


「今は丁度、61階層の攻略で持ち切りだろ? そうじゃなければ、ソウジの話題で持ち切りになってただろうさ」

「なるほど……確かに、目立つことはアンさんにとってよくないですからね……」


 ソウジが目立てば、その奥にいるアンにいつかたどり着かれてしまう。

 アンは表舞台で注目されることを望んではいない。

 だからこそ、今のタイミングが結果的に最適だった。「それで、今からどうするんですか?」サナカがぴょんぴょんと飛び跳ねて、次の予定を問いかける。メンバーは揃ったし……時間も間に合いそうだ。


「よし、じゃあ今回の依頼主の元へ行くか」


 というわけで、俺たちはタロウの元へと向かう。


 ◆


 国務庁のギルドスペースは、国営らしいカチッとした雰囲気で満たされていた。隣にある、大会場では今回発表される61階層攻略メンバー募集について、記者会見が予定されている。そんな大きな発表の前ではあるものの、タロウさんは時間を見繕ってくれた。

 これも、彼なりの依頼人の礼儀……というものなのだろうか。


「タロウさん、相変わらず忙しそうだな……」


 俺たちの目の前で座る彼は、ノートパソコンを広げて凄まじい速度でタイピングをしていた。その気怠そうな表情や態度とは裏腹に、タイピングは鬼気迫るほど。「ながら作業で申し訳ありません、しかし業務遂行には支障がないのでお気になさらず」

 ノートパソコンとにらめっこを続けながら、彼は淡々とした様子で言葉を続けた。


「丁度、攻略作戦の書類作成をしていまして……私が実務部門の長であることをいいことに……こうした書類仕事まで任せられるんです」

「あはは……タロウさんを見てると中ギルドのオファーを断ってよかったって思うなぁ」

「サナカさんの言う通りですね。私は元々公務員志望だったので避けられないのですが……」

「え、タロウさんって探索者志望じゃなかったんですか!?」


 サナカの言葉に反応したタロウの言葉に、今度はソウジが反応を示す。「ええ、まぁ……こんな仕事したくなかったので」と、モニターを見つめながら、タロウは続けた。


「たまたま、ダンジョンに入ってしまったのがすべての過ちでした。細々と仕事をして、それなりの給料で過ごす予定だったのに……」

「……それでSランクか」


 Sランクはまともじゃない。

 そういう言葉はもはや月並みなものになってしまったが、タロウの話を聞いていると……その言葉の真実味を嫌でも実感してしまう。「さて、本題に戻しましょうか」と、咳払いと共にタロウが話を戻した。

 彼はタイピングの手を止めてノートパソコンをこちら側へと向けた。

 画面には六つほどの探索者のグループが見える。


「これは?」


 探索者たちの名前や顔を一瞥して、俺はタロウの真意を探る。「はい、今回の試験に参加する探索者の中でも……目立つであろう探索者をピックアップしたものです」なるほど、試験の発表はこれからだが、有力な探索者たちはもう判明しているのか。

 多分、六英重工業のエージェントがそうしていたように、裏では色々と動いていたのだろう。国務庁もそれをしっかりと抑えているのだから流石と言わざるを得ない。


「確かに、こうしてみると見知った名前や顔もあるな……」


 Bランクの冒険者だけでなく、Aランクの冒険者も多い。

 なるほど……61階層攻略作戦の注目度の高さが理解できる。「軽く紹介をしておきましょう…………といっても、既に知っている探索者も多いでしょうが」

 タナカの言葉に、サナカとソウジは揃って首を横に振る。


「誰も知らない!」

「誰も知りません!」


 オマケに内容までほとんど同じだ……。「なら、説明し甲斐もあるというものですね」苦言を呈さず、タロウは淡々と場の進行のみに専念しているように思えた。


「まずはアマテラス直属の外部部隊――IWATOです」

「え、直属とかって許されるの!?」


 サナカが実に良いリアクションを見せてくれた。

 そう、今回の依頼は中ギルドたちが秘密裏に用意するスパイを見つけて欲しいというものだった。でも、この探索者のチームは別で……誰もがアマテラスの回し者だと分かっている。


「探索者関連事業の中でも、日本でトップのシェアを持つアマテラスだからこそできる戦法って感じだな」

「アサヒさんの仰る通りですね」

「……?」


 サナカとソウジの頭の上に疑問符が浮かび上がっている。タナカの手を煩わせてばかりなのもあれなので、ここは俺が説明しておこう。


「恐らく、中ギルド同士で出せる探索者の数は決まっているはずだ。そうじゃなきゃ、頭一つ抜けた規模のアマテラスが数のゴリ押しができるからな」

「はい。各中ギルドは上限5名までの1部隊のみを送り出せることになっています」

「そこで、アマテラスは公然の秘密となった外部部隊を通して、自分たちの部隊の人員を増やそうって魂胆なんだろうな」

「その通りです。無所属の探索者がどの中ギルドの部隊に随伴するかは、中ギルド側と探索者側……その両方の意向が重要になりますから」

「師匠が言っていることは分かりましたが……」


 うーんと唸って、腕を組んだサナカが首を傾げた。「でも、それなら全ての中ギルドがそうすればいいんじゃないですか?」と、至極真っ当な疑問を投げかける。

 だが、中ギルドも馬鹿じゃない。

 それができないのには、出来ないなりの理由というものがある。


「他の中ギルドがアマテラスと同じことをしても――アマテラスには勝てないんだ」

「それだけ、アマテラスが中ギルドの中でもズバ抜けた存在ということですか?」

「ああ、そうだな。もちろんそれぞれの中ギルドが抑えているSランクの探索者を前線に出せば、同じSランク以外で対抗することはできないだろうけど」


 俺はタロウへと視線を移した。

 タロウは首を横に振って「今回参加予定のSランクは私とP.S.のナイチンゲールです。それにP.S.は今回も後方支援を担当するようですから」

 という答えが彼から返ってきた。

 それらを踏まえれば――。


「Sランクを投入するほどのリソースを割けない企業が、アマテラスと真正面からやり合いたいと思うわけもない。それに強くなればなるほど他企業からもヘイトが高まる。現時点でアマテラスがヘイト1位になってくれてるのは、脅威的な反面――他企業からすると助かっているんだ」


 長々とした説明を終える俺。「その通りですね」とタロウが肯定して、会話を締めくくる。


「つまり……アマテラスはスパイ合戦には関わっていないってことですね!」

「……まぁ、そうなるな」


 あれだけ説明したのに、サナカの一纏めで終わってしまった。

 俺たちの依頼はたこ足配線されたケーブルみたいに絡まり合った勢力図を整理すること。最大手のアマテラスを気にしなくてもいいのであれば随分と気は楽なのだが――なんだか釈然としない。


「では、注目の探索者たちに戻りましょう。スエズ一家と魔労社です」

「……」


 さっきから魔労社の顔がチラチラと見えていた。

 まさかとは思ったが、まぁ実力だけはあるんだから仕方ないか。しかし、どうにも彼女たちとは縁があるというか……なんというか。


「スエズ一家、僕知ってますよ」

「ソウジが? 珍しいな」


 凶悪そうな顔をした4人の探索者たちを一瞥して、ソウジがこくりと頷いた。


「アン様に難癖をつけてきたんですよ。当然、黒衣が追い払いましたが」

「……懐かしい名前ですね」


 タナカが瞼を閉じて、思い返すように零した。「新喜多アン、彼女の実力は素晴らしいものでした」

 そこまで言って、タナカは「今は関係のない話でしたね」と締めくくる。


「ともかく、お三方にはリストをお渡しするので注目されている探索者たちとコンタクトを取って頂けませんか? アポイントメントは既に取っているので」

「ああ、分かった」


 タロウからの指示に従う。

 注目探索者たちは、試験でも目立つだろうからここで会っておくのは損じゃない。もう既に中ギルドたちは暗躍しているだろうからな。


「ではよろしくお願いいたします」


 事務的な対応を崩さず、タロウは深々と頭を下げた。

 さて、依頼開始といこうか。


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