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第41話 いざ、救出作戦!

「それで……どうしてアタシまで一緒なのですわーっ!?」


 目的地である倉庫、そこを目指す車内にアスミの叫び声が響いた。

 出発する直前、魔労社のアスミが道場を訪ねてきたのだ。(どうやら、サナカとレナの二人は彼女と会っていたらしい)そこから、お金を徴収していなかったことに気がついたアスミは、俺たちを追いかけてきたらしい。

 丁度いいと、仕事をさらに追加で頼んだ。


「仕事を依頼したんだ、魔労社の力を借りたいんだけど他の二人は?」

「今日はオフなので、ナルカもジェもいませんわ。まぁ、でも? 魔労社の社長たるアタシがいれば、大抵の仕事なんて至極簡単に解決できましてよ?」


 おーほっほっほ、と高笑いをするアスミ。

 彼女の騒がしい動きに合わせてトレードマークのツインテールがぴょんぴょんと跳ねまくる。「そりゃ凄い、期待しているよ」

 俺は半分本気、半分冗談でアスミに返事をした。


「そろそろ着きそうです」


 助手席に座ったレナが俺に声をかけた。

 東京とは思えない人気のなさ、こんな場や祖があるとは思わなかった。車の音でバレないように、少し遠くに停車。


「よし、シンタさんも準備はいいか?」


 後部座席に座るシンタに俺は視線を向けた。「はい……大丈夫です!」何かを決意したような瞳を見るに、彼はもう大丈夫だと思う。

 というわけで、車から降りる俺たち。

 俺、レナ、アスミ、シンタ。

 戦力としては悪くない。相手がセキとガンケンならば十分に拮抗できると思う。「じゃあ、改めて作戦のおさらいだ」歩く道すがら、俺は軽く今から何をするのかを話す。


「レナはサナカの解放に集中してくれ」

「はい! 任せてください」

「シンタさん、アスミ、俺はセキさん、ガンケンの相手をしてサナカが解放されるまでの時間を稼ぐ」


 正直、サナカを解放することさえできれば後はどうとでもなる。

 彼女であればセキとガンケンの二人を一度に相手しても問題はないはずだ。それほどSランクの力というのは破格なのだ。(もちろん、同じSランクでも例外はいるが)

 なので今回の作戦はレナがサナカを解放するまで俺たちが耐えきれるかどうか、ということにかかっている。


「問題ありませんわ。まぁ、こっちだと魔法は使えませんけど――」


 流石に現実世界で魔法を使うことはできない。

 魔法が主体のアスミは、こっちだとどうしても弱体化を受けるが――何か考えがあるんだろう。彼女も一流の探索者だ。そこは信じてもいいはずだ。


 俺たちの前には、大きな倉庫がそびえ立っていた。

 この中に、サナカがいる。

 俺は意を決して、倉庫の扉を押し開けた。ギギギ、思い音を響かせながら開けば「……アサヒさん、それにシンタも!」真っ先に声をあげたのはセキだった。驚いたような表情を見せるセキ。

 一方、隣にいるガンケンの表情は甲冑に覆われて分からない。ひとまず、ここにいるのはセキとガンケンだけのようだった。万が一にでも、アトモスがいたなら形勢逆転は不可能。助かった。


「親父、何してんだよ。説明してくれ!」

「子供に説明しても分からないことだ」

「そうやっていつも、説明してくれないから……!」


 シンタがセキに対して声を荒げた。彼の言い分はもっともだ。「セキさん、シンタさんはあなたを信頼していたんだ。その信頼をどうして裏切ったんだ?」俺も反論。

 もちろん、俺にとっては問答の内容はそこまで重要じゃない。大切なのは、時間を稼ぐこと。こうして俺たちが話をしている最中にもレナはC君を動かしてサナカのダイブマシンのハッキングを試みている。

 その時間を稼ぐことが何よりも重要だったのだ。


「話したところでどうなるというんですか? 私はただ、この道場を守りたかっただけです」

「道場を守るなら、六英重工業の契約を飲めば……!」

「元を正せば、六英重工業が出てきたことが原因だというのに、どうして彼らの下につかなければならない。シンタ、お前も言っていただろう、奴らは最悪だ。悪魔に魂を売るくらいならば、私は自分の力で道場を経営したい」

「結果、誘拐まがいの行動をしてるのか。どっちが悪魔かは分からないな」


 拳を握りしめて“演説”をするセキに俺は皮肉をぶつけた。

 俺は当初、セキよりもシンタの方が過激な考えを持っていると思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。シンタよりも、セキの方がよっぽど根深かった。「アサヒさん、それは君が大企業の恐ろしさを知らないからこそ言えるんですよ。アンさんも、私も、アトモスだって、大企業たちに煮え湯を飲まされ続けてきたんです」

 今までの柔和な雰囲気はどこへやら、セキの表情は険しく恐ろしいものとなっていた。アンさんがどうだとか、アトモスがどうとか、今は関係ない。


「そうかもしれないけど、セキさんが今していることはその大企業と変わらない」

「仕方ありませんね。ガンケンさん、アサヒさんたちにも協力して貰うとしましょうか。一人、二人、三人。丁度、今月のノルマ分いらっしゃるようですし」

「……まぁいいだろう。乗りかかった船だ、手伝ってやろう」


 ゆっくりと身体を動かして、俺たちに視線を向けるガンケン。どうやら、言葉での時間稼ぎはここまでのようだった。レナの方を見て、セキたちには聞こえないような声量で「あとどれくらいかかりそうだ?」と尋ねる。


「凄く頑張っても、あと十数分はかかります」

「分かった、ならその間はどうにかするしかない」


 道場から借りてきた木刀を構える。セキの実力は分からないが、この場合注意しなければならないのはガンケンだ。現役のAランク探索者。今まで戦ってきた相手の中でも一、二を争う強敵であることは間違いがない。

 まず、踏み出したのはガンケンである。その重工な鎧とは裏腹に、身のこなしは軽い。どん、どん、と地響きを響かせて俺との距離を詰めていく。一緒のPTを組んでいた時から、ガンケンは真っ先に敵陣に突っ込んでいた。

 タンクとしては大正解の動きである。そして、時は流れても彼の戦闘方法が変わっていないことを示していた。だからこそ、俺にも付け入る隙がある。


 迫るガンケンに合わせて、俺は動かずに木刀の切っ先を合わせた。対する相手は背負った大きな盾を構えて、そのまま突進の構え。これも、ガンケンにとってはお決まりの戦い方だった。

 次にする行動は大体決まっている。十分に距離を詰めてのシールドバッシュだ。


 俺との間合いを詰めたガンケンは、盾を軸にバッシュをしかける。ほら、来た。俺はそれを木刀で受け、動きに逆らわずに弾かれる。その後は、バッシュで作った隙を刺すようにタックルだろう?


彼の動きを分かっている俺は、ぐるりと弾かれたエネルギーを活かして回転。継続されたタックルに対して、木刀を当てる。狙うのは足。ダメージではなく――「ぐっ!」ごろりと、転倒。

 これが狙いだ。

 動く要塞とも称されるようなガンケンに俺の攻撃が通るとは考えにくい。それに今回はあくまでも時間稼ぎ。倒す必要はないのだから、こうしてのらりくらりとやり過ごせばいいのだ。


「なんだ、腕が落ちたのか?」


 なんて、バックステップしながら煽ってみる。

 彼の腕は落ちていないと思うが、これで冷静さを欠いてくれれば儲けものだ。「タンクに挑発とは、お前も判断能力が落ちたらしい」焦ることも、怒ることもなくゆっくりと身体を起こすガンケン。


 どうやら俺の考えは見透かされていたらしい。


「大丈夫ですか? ガンケンさん」

「問題ない。俺に対して有効打を出せるほどの火力が奴らにはないからな」


 ガンケンの見立ては正しい。

 多分、俺たちが束になってもガンケンには有効なダメージを与えられないだろう。「むっか~~、このアスミを舐めていますわね!」ただ、その正しい見立てがアスミは気に食わなかったらしい。

 両手で拳を作って、苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「お前は……魔労社か?」

「おーっほっほっほ! ご名答ですわ!どんな問題もパパっと解決。義侠に生きる、ハードボイルドな探偵屋、魔労社の社長……アスミとは私のことですの!」

「……珍妙な人間に見えますが」

「侮るなセキ。綺羅星のアスミ。Aランク昇格を蹴ったおかしな女だが、その実力は本物だ」


 妙な空気に耐えかねてか、正直な感想を述べるセキをガンケンが窘めた。

 まさかAランクの資格を持っていたとは……そしてそれを蹴ったとは。つくづく、アスミという人間が分からなくなる。「そうですわよ、この私がいて有効打がないなんて、よく言えましたわねっ!」

 きゃんきゃんとガンケンに噛みつくアスミ。心なしか、彼女のツインテールも攻撃的に跳ねているような気がした。


「魔法使いは現実世界での弱体化が著しい。常識だが?」

「おーほっほっほ! これだからロートルは困りますわ。いいですわ、見せて差し上げます。新時代の魔法を!」

「何?」


 一歩、俺たちの前にアスミが出たかと思えば――瞬間。

 ドン!!

 という、破裂音が響いた。「は?!」思い切り吹き飛ぶガンケン。倉庫の壁にぶつかって、ズドン、という地響きが響く。


 もくもくと、アスミの右手から……いや、アスミが握った銃から白煙がのぼった。「これが私のマジック☆ランチャーですわ、おーっほっほっほ!」

 この場にいる誰もが……ただの銃(しかも、随分と高火力の)だと思ったが、それを突っ込むことはできなかった。

 なるほど……これがアスミの秘策だったのか。色々引っかかる所は多いが、とりあえず有効打はあったらしい。


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