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第23話 ゴロウ救出作戦

簡素な部屋には簀巻きにされたゴロウが鎮座していた。窓のない部屋は、監禁するために用意されたような部屋で、満足な照明もなく異様に暗い。何かの装置やハイテクな設備だけが、この部屋を彩っていた。

 肝心のゴロウはというと――こんな状況にも関わらず、酷く冷静な様子だった。


「ゴロウさん、助けに来たよ!」


 ミユが駆け寄って、ゴロウを縛る縄を切って彼を解放した。「テメェら……儂のためにここまで来たのか?」開いた瞳で、俺たちを見据えるゴロウ。信じられないという様子だが、それもさもありなん。

 自分で言うのも何だが、辺獄で俺たちみたいなお人好しは普通存在しない。


「アンタの弟子――もどきが、どうしてもって言ってたから助けに来たんですよ」

「……」

「今日のパイルバンカーも見て貰ってないからな! ここ最近、イチバンの自信作だ!」


 複雑そうな表情を浮かべるゴロウと、そんなの知ったこっちゃないと言うようなミユ。二人の様子を見るに、やっぱり相性は良いように思えてならなかった。「それで、ゴロウさんはどうしてここに連れてこられたんですか?」

 逃げ出す前に、俺は気になっていたことを聞いた。どうして極楽結社はゴロウを連れ出して、ここまで運んで来たのか。その理由によっては、今後の行動も変わってくる。


「さぁな。だが、儂の技術を高く買ってたには違いねぇ。俺の技術なんざ、大したことねえってのによ」

「それをウチが言ったら怒るのに」

「ったりめぇだろう。半人前でもねえガキが、舐めた口聞くんじゃねぇ」


 もう既に立派な師弟みたいだ――なんて、感じる訳だが、口にはしない。俺は大人だからだ。さて、極楽結社がゴロウに何をさせようとしていたかは後で調べるとして(この場所をアンにチクれば、それで俺の仕事は終わりだし)後は逃げるだけだ。流石にゴロウを連れ出したら、色々と面倒臭いことになるのは分かりきっている。

 ただ、連れ出す以外の道はない。

 芸がないことだが、正面から突破して車で逃げる。これしかない。


「よし、じゃあここから逃げましょうか。あんまり長居すると面倒なことに――」

「おやおや、もうお帰りか? せっかくだから、もう少しゆっくりしていけばいいものを。歓迎の準備も出来ているというのに」

「なりましたね、今」


 部屋の入り口を立ち塞ぐのはススキダだ。「残念ながら、極楽結社で最も強いのは――私だからなあ」拳にナックルダスターを嵌めたススキダは、首と肩をぐりぐりと回しながら入室。

 元Bランク探索者――衰えたとしても、その実力は本物だ。彼がこの組織で最も強いというのも、間違いではないのだろう。


「それに、アサヒ。鬱陶しいお前を、この手でひねり潰したいと考えていたんだ」


 流石に素手はキツい。

 何か、何か武器は――。ゆっくりと迫るススキダに後退りをして、戦う術を探す。そうして眼についたのは「ミユさん! それ!」「えっ!」俺はミユが背負っているパイルバンカーに眼をつけた。

 戸惑いながらも彼女はパイルバンカーを俺に投げる。同時に、ススキダが加速した。眼前に迫り、その豪腕を振るうススキダ。合わせて、パイルバンカーをキャッチした俺はその一撃を受け止めた。


 重い、重い一撃。


 俺はやや後退。ナックルダスターによって裂かれた袋から、パイルバンカーが露出。俺はそれを右腕に取り付けて、構えた。


「まさか――そのパイルバンカー! あの、不良品か! そんなもので、どうにかできると?」

「……その通りだ。その武器は現実世界で使うには危険すぎる! 今すぐやめろ!」


 ゴロウが叫んだ。確かに、二人が言う通りだ。ただし、それはこの武器が“不良品のままだったら”だが。俺はミユを見据えて「自信は?」「信じて! 今度こそ、大丈夫!」

 真っ直ぐと俺を見つめたミユは自信満々にそう答えてくれた。俺にとってはそれだけで十分だった。ずっしりと重いパイルバンカーの切っ先をススキダに向けて。


「今の開発者のお墨付きだ。十分だろう?」

「ほざけ!」


 その図体の割に俊敏な動きを見せるススキダ。流石は元Bランクというべきか。だが、その程度の動きを目で追えないほど俺も衰えたつもりはない。サイドに回ったススキダに合わせて、俺は身体の軸を合わせる。


「ミユ、テメェは自分が何を言ったか分かってるのか」

「もちろん分かってる。あの子はもうウチの娘だ。なら――その子どもを信じるのが親の役目!」

「何かが起こってからじゃ遅いんだぞ!」

「大丈夫――だって、ゴロウさんだって毎日的確なアドバイスをくれたじゃん」

「……」


 背後の二人の会話を背に、俺はススキダの攻撃をパイルバンカーでガード。一発一発が重いその拳はフレームを曲げ、中にある杭に響く。その振動が俺の腕にも伝わり、モロに喰らった時の威力を想像させた。

 一発で沈む可能性すらある。

 貰いたくはない。俺は右腕を振るってススキダを払い退ける。拳が弾かれたススキダは横腹ががら空き――そこを狙うようにパイルバンカーで殴打。「ふっ!」モロに入った筈なのに、目立ったダメージは入っていないようだった。それどころか、俺のパイルバンカーを腕で挟み込んで、不味い!

 カウンターの拳が腹部に突き刺さった。「ガハッ!」その威力で、両足が地面から離れて身体が宙へ浮く。


「アサヒ! パイルバンカーを使え!」


 ミユの指示が聞こえる。確かにパイルバンカーであれば、一撃でススキダを仕留めることができるだろう。けど、それは“仕留める”ことだ。普通の人体が、高速で杭を打ち込まれて無事なはずがない。

 人を殺すつもりはなかった。

 でも、パイルバンカーの強みを使わなければ……勝つことは難しいだろう。腹の痛みでまとまらない思考で、どうにか作戦を考える。


 でも、相手は待ってくれない。隙だらけの俺を狙ってススキダはパイルバンカーを抑えたままタックル。当然、両足が地面から離れている俺は壁に叩きつけられてしまった。


「Sランクの師匠は、こんなもんか!」

「くっ……」


 壁際まで追い詰められてしまった。これは不味い。

 仕方ない、こうなったら――「やるよ、自慢の武器を!」俺はパイルバンカーをパージ。自由になった右腕で不意打ちの顎打ち。「小癪な!」まともに入ったからか、流石のススキダも二歩ほど後退。

 ごとりと拘束から解除されて落ちるパイルバンカーを確認。やるしかない。俺は地面に落ちたパイルバンカーを目指して駆け出した。


「そのゴミにまだこだわるか!」


 同じく、俺を目掛けて走るススキダ。相手に直接パイルバンカーを打ち込まずに勝つ方法は――これしかない。咄嗟に思いついた作戦を試す。

 俺はスライディングをして加速。

 ススキダよりも先んじてパイルバンカーを回収。それを装着――するわけではない。地面に杭が出てくるであろう射出口を接面。ギミックを確認。「何を、しているんだ!」

 そんな俺を咎めるように、ススキダが勢いよく飛び込んできた。俺はススキダを限界まで引きつける。丁度、彼の影と真っ直ぐ立てられたパイルバンカーが重なるように――今だ!


 俺はギミックを起動。凄まじい爆発音と共に、杭が射出。地面に接面したそれは、必然的にパイルバンカーそのものを浮かび上がらせ――上にいるススキダの腹を的確に穿った。


「ガハッ!」


 凄まじい勢いで吹き飛び、床に転がるススキダ。「ほら、成功した!」拳を握りしめたミユが勝利宣言。あんな重い一撃を食らったら、流石にもう立ち上がれないだろう。


「……」


 一連のやり取りを見て、ゴロウは言葉にこそしないものの何か感じたことがあるようだった。「よし、逃げよう」ここから出ようとしたところで――サナカから連絡が。


「師匠、助けてください! ピンチです!」


 焦った様子のサナカの声が響いた。あのサナカがピンチ?

 一体、何が起こっているんだ。「あ、また――!」サナカとの連絡が途絶える。緊急性が高いことは理解できた。

 Sランクのサナカをピンチに追い込むほどの何かが起きている。俺の心の中で嫌な予感というものがどんどんと膨らんでいく。


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