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第22話 ゴロウを探せ

「ほら、お目当ての監視カメラの録画データは送っておいてやったよ。オマケに、移動先まで割り出してやった」

「ありがとうございます、アンさん。無理を言って申し訳ありません」

「いいってことさ。その手間に見合うだけの働きをしてくれるって期待してるからねえ」

「あはは……善処します」


 アンとの電話を終えて、俺は届いたデータを確認する。彼女から貰ったのはゴロウの店周辺に設置された監視カメラのデータだ。不自然なトラックがゴロウの店の前に止まったかと思えば、数十分後にはゴロウを運び出して荷台に載せる様子がしっかりと録画されていた。

 驚くべきことに、ゴロウは何者かに連れ去られてしまったらしい。


「ゴロウさんを連れて……こいつら、どこに行ったんだ?」

「アンさんのデータによると、辺獄から少し離れた山の奥らしい。仕方ない、車で行くか」


 急ぎでレンタカーのボロ車を借りて、俺たちはアンの情報を信じて送られてきた座標を目指した。


「師匠~! 聞こえてますか!」


 車内に目一杯響き渡るサナカの声。ホログラムが立ち上がり、古ぼけたビルを背景にサナカとユウリの姿が映った。「魔労社の事務所には誰もいなかったので、色々と勝手に拝見しました!」はつらつとした様子でそう報告をするサナカ。

 その背後でユウリがおどおどとしていた。こういう素振りを見ると、サナカも相当辺獄流に染まってきたと思える。


「どうだった?」

「極楽結社の移転後のオフィスの場所が分かりました。現実世界の物とダンジョンの中の物、どちらもありましたっ!」

「上出来だな。その場所っていうのは?」

「あ、今そっちの端末に送りますねっ!」


 サナカの声と共にデータが送られてきた。そのデータを確認「……嘘だろ」俺は、思わずそんな声を漏らしてしまった。「どうしました?」と、サナカも隣に座っているミユも心配そうに俺を見た。


「この、現実世界の拠点。今まさに俺たちが向かっている場所だ」

「そ、それってつまりゴロウさんを攫ったのも?」


 ミユの言葉に俺は首を縦に振ることで肯定。意外なところで、繋がってきてしまった。こうなってしまえば、より一層ゴロウの救出が重要な意味を持つ。「極楽結社は何を目的としているんでしょうか?」

 サナカの疑問は俺にも答えが分からなかった。ただ、ゴロウの技術力を欲してのことだとは推測できた。それで何をするつもりなのかは――今はまだ、これっぽっちも分からない。


「俺もさっぱりだ。仕事を増やすようで悪いけど、二人にはそっちの方にある極楽結社のオフィスに行って欲しい」

「もちろん、最初からそのつもりですよ師匠!」


 どん、どんと胸を叩くサナカ。こういう素直さと真面目さ、そして頼りがいがあるところはサナカの美点だと思う。二人との通信を終えて、俺は運転に集中。目的地までは、後三十分ほど。

 どうしても急ぎたくなる心を落ち着かせながら、ハンドルを握りしめた。


 ◆


「こんな山の中に立派な建物を建てたもんだな」


 車を路肩に止めて、歩くこと五分ほど。木々の中に、不自然な人工物がぼん、と現れた。俺たちが事務所につかっている施設の倍ほどは広いだろうか、そんなものが突然姿を見せるんだから……それはまぁミスチマッチだった。


「よし、早くゴロウさんを助けよう!」

「真正面から? 警備もされてる場所に?」

「うっ、じゃあどうするんだって言うんだよ」


 頬を膨らませてミユが俺に噛みつく。裏から忍び込むのも考えたが……そもそも忍び込める場所があるかも分からない。あんまり気は進まないが――あれをするしかないようだ。

 一応、商売道具を持って来て良かった。

 俺は自分の鞄から必要な道具を取り出していく。今回は眼鏡とカツラと……あとはちょっとした化粧道具のみで行けるはずだ。


「……まさかと思うけど、変装道具を持ち歩いてるのか?」

「そのまさかだ。恨みを買う仕事をしてると、こういう小細工が役に立つことがあるんだ」

「ウチ、変装してる人初めて見たかも……」


 若干引き気味のミユを連れて、俺は施設の入り口から堂々と入場。こういうのは開き直って堂々と振る舞った方が疑われない。俺の経験則だ。受付が見えるが、その隣を素通りして奥を目指す。

 俺の経験上、意外とこういうのもバレない。

 今回の変装のメニューは気弱な営業職というコンセプトである。七三分けの髪と化粧で色白な病弱感を出してみた。さて、これで通れるだろうか。


「少し待ってください。貴方は誰ですか?」

「え……は、はい……」


 足を止めて、俺は可能な限りビクついた雰囲気を出す。


「そ、その……話、通ってないですか?」

「話ですか?」


 受付の女性が怪訝な顔をした。思い出した、この女性……前に俺たちが潜入した時も受付をしてた人だ。変装には自信があるけど、運が悪いな。「そうです。荷物のお届けで……」そういって、俺は視線で後ろにいるミユと彼女が背負っているパイルバンカー(を、袋に入れたもの)を見た。

 受付の女性がそれを確認してなお、怪訝そうな顔をするので……。


「そ、その、今日持ち運ばれた“荷物”に関係のあるものなんです」

「……! わ、分かりました。急ぎ、お願いします」


 と、ゴロウの事を濁して伝えてやればイチコロだ。まぁ、嘘は吐いていない。そのまま、彼女から“荷物”が届いた部屋への地図を受け取る。そうすれば思わぬオマケを貰えたな。


「……本当に変装って役に立つんだ」


 ゴロウの部屋を目指して歩く中、ミユが驚いたように呟いた。「だから行っただろ? こういう小細工が役に立つことがあるってさ」そういいながら、ゴロウがいるであろう部屋を目指す。

 中にいてくれればいいんだけど……。


「ゴロウさん……無事だよな……」


 ミユの心配そうな言葉が耳に残る。

 部屋についた俺たちはドアノブに手をかけて、中に入る。ゴロウを見つけてさっさとここから逃げだそう。


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