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第63話 終結

 こうして、無事に新鹿鳴館騒動は終結した。

 そして悲願であった、牛鬼を倒す事にも成功した。軍部は牛鬼の肉体を保存しているとは言うが、それは手の内にある以上、もう復活は無い。


 全体会議が開かれて、時生は勲章を貰った。

 それを軍服につけたのだが、なんだか気恥ずかしい。

 階級も一気に、灰野と同じ大尉になった。灰野と会議後会館を歩いていると、いつか灰野を殴っていた軍人達と遭遇した。彼らは気まずそうな顔をした後、すれ違いざまに言った。


「やるじゃねぇかよ。殴って悪かったな」


 ぼそりとそう言って、彼らは立ち去った。きょとんとしてから、灰野の瞳が嬉しそうに変わる。少しずつ、灰野への風当たりも優しいものに変化しているようだった。


「灰野さん」

「なんだ?」

「今日もすき焼きらしいよ」

「……そうか。それで礼瀬副隊長が家に招いてくれたのか。なんだか、牛鬼の血族が、牛肉を食べるというのも不思議だな」

「その冗談、笑うところ?」

「笑ってくれ。そうでないと悲しくなる」


 灰野自身も少し明るくなったように時生は思う。

 こうして二人で深珠区の駐屯地へと戻ると、結櫻と青波がそれぞれ深々とソファに背を預けていた。


「よ。おかえり」


 青波の声に、結櫻が微笑している。戻ってきた結櫻の姿に、一瞬でも疑ったことを時生は申し訳なくなった。


「ごめんなさい」


 だから素直に謝ると、首を傾げてから結櫻が小さく笑った。


「ああ、僕の裏切りの件?」

「は、はい……仲間なのに、疑っちゃって」

「謝らなくていいよ。鴻大屋が牛鬼だというのを掴んでいたのに、偲を含めて礼瀬家を囮に使っていたんだからね」

「え?」

「偲にバレたら怒られると思って、青波と二人で練った計画でね」


 結櫻はそう言うと、手を持ち上げて指輪を見せた。


「ずっとこれで連絡を取り合ってて、新鹿鳴館の結界の打ち合わせをしたりしていたんだよ。これには、牛鬼には感知不能な破魔の技倆の一部を使っていたから」


 それを聞いて、時生は小さく首を傾げた。


「それって、縁日で二人で買ったんじゃ……?」


 時生の言葉に、結櫻が何を言われているのか分からないという顔をした。すると青波が噴き出して、肩を揺らして笑った。


「いやぁ、そろいと気づかれた時は、内心で俺は凄く焦ってたんだよ。それで言い訳を無理にひねり出してさ」


 笑っている青波を不思議そうに結櫻が見た。


「どんな言い訳?」

「『二人で祭りをぶらついてて、屋台で気に入って買ったんだ』と話したんだ。いやぁ、時生があの苦しい言い訳を信じてくれて助かったよ」


 それを聞くと、結櫻が唇の両端を持ち上げた。目が笑っていない。


「そんな言い訳したの? 他にもうちょっとマシな案は無かったの?」

「無かった!」

「青波と二人で縁日とか、行くわけがなくない? どういう設定だったの?」

「ん? いやぁ、適当!」

「適当すぎるよね?」


 二人のそんなやりとりを見ていると、日常が戻ってきた気がして、時生も小さく笑ってしまった。するとその時、灰野がちらりと時計を見てから、時生に言った。


「今日は先に帰ると言っていなかったか?」

「うん……ちょっと、『家族』のお見舞いに行こうと思ってさ」


 自分の声に、時生は微苦笑してから、そのまま本部を出ることにした。





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