一年の間、町医者をする傍ら藩医として江戸屋敷へと参じる叔父が、町屋敷を開けた日には、一人で町人の診察をし、椋之助は過ごした。ただし家事、こと料理に関しては、お
「椋之助、少し話がある。ご家老のところへ一緒に行こう」
その日、江戸屋敷から帰宅するなり、凌雲が言った。丁度町医者としての仕事が一区切りしていた椋之助は、小さく首を傾げる。
「なにかあったんですか?」
「兄上のところで話すことにする。さぁ、急ごう。木戸が閉まる前に帰ってこなければな」
凌雲はそう述べると外に引き返したので、慌てて椋之助も後を追いかけた。
二人で惣右衛門のもとへと向かう。
案内された部屋で、椋之助は正面に座る老齢の父と、隣に座す叔父を交互に見た。兄の姿はない。
「凌雲、もう話したか?」
「いいえ、まだです」
「そうか」
惣右衛門が頷いてから、視線を揺らして椋之助を見る。頷き返して凌雲もまた、椋之助へと視線を向けた。すると凌雲がゆっくりと口を開く。
「実は殿が斗北に戻られる時、次は俺も一緒に戻ることになったんだ」
凌雲はそう述べた。基本的には江戸で暮らし、町医者の方が本業である叔父が、斗北藩の領地へと付き従って戻った姿を、実を言えば椋之助は目にしたことがなかった。
「藩医は他にもいるから、こちらの屋敷の心配はないが、暫く
七星堂というのは、診療をする深川の町屋敷につけた名だ。
「わかりました。お任せ下さい。叔父上の留守中、しっかりと私が七星堂で江戸の皆を診ます」
頼りにされているように感じ、椋之助は嬉しさを覚えた。
両頬を持ち上げた椋之助を見ると、凌雲が優しい顔をする。それから続けた。
「それと実はな、お金は二人目の孫が生まれたら、一人目の孫を含めてそちらの子守りに専念すると話していてな。前々からもう一人、手伝いの者を入れる予定ではいたんだが、これを機に、
椋之助は静かにそれを聞いてから頷いた。
医学に関しては相応に自信がある椋之助だが、家事はからっきしである。
「小者の手配は
最後に惣右衛門がそう締めくくり、この日はお開きとなった。