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第3話 結婚


 翌日。

 依織はシャワーを浴びてから、降矢と共にホテルを出た。


 そしてAIタクシーを拾い、二人で戸籍管理が行われている東都セントラルという施設へと向かった。そこにある光型タブレット端末にお互い手をかざして指紋の登録をし、その次に網膜認証をし、あっさりと婚姻関係が成立した。こうしてここに、一組の夫々が成立したのである。


「俺、結婚指輪を嵌めたい」


 すると降矢が、嬉しそうな表情で依織の手を握り、そう述べた。笑顔を向けて、依織も頷く。指輪など古風な風習ではあるが、古風なくらいであるのが望ましいし、その程度の家族サービスをするのは、依織にとっても苦ではない。


「じゃあ僕が買うね」

「いいのか? 貯金があるし、俺が出すけど……」

「出させて? 僕、主夫をしてくれる旦那様に、いっぱいプレゼントをしたいって、ずっと思っていたんだよ。僕はバリバリ働く方だから。これでも研究職で博士なんだよ」

「そっか。なんだか悪いな。ありがとう、依織」


 そのまま二人で、宝飾具専門店へと向い、二人は店員と相談しながら、シンプルな銀の指輪を購入して、お互いのイニシャルを刻んでもらう事にした。


「なぁ、依織。結婚式はどうする?」

「とりあえず写真だけ撮らない?」

「そうだな」


 二人で語り合い笑っていると、指輪が完成した。それをその場で、お互いの指に嵌める。そのまま写真館へ直行し、ウェディングアバターに服装をチェンジして、写真撮影をした。実際の二人はそれぞれ私服だったが、完成した写真ではどちらも黒いスーツ姿となった。『ウ』では、男性同士の同性結婚では、双方が黒い礼服姿である事が多い。


 なお本日依織は休暇であり、降矢は何も言わないので、さらにその足で新居とする家を見に行った。


「ここ、どう?」

「いいんじゃないか? 俺は好きだ」


 そして即座に決定した。合鍵を受け取ってから、続いて家具店や食器店へと向かう。


「あ、このカップ、可愛いな」


 降矢がマグカップを指さした。黒猫が描かれている、二つでセットの品だった。


「じゃあ、それも買おうよ」

「ああ。おそろいだな」

「――うん。降矢さんとおそろいで、僕は嬉しいよ」


 そんなこんなで残るはそれぞれの荷物を運び、元々の家を引き払うだけ――……本人達が引っ越すだけとなった。


「じゃあ、明日。僕はちょっと帰りが遅くなるかもしれないけど、待っててね」

「ああ。これから、俺、たくさん依織を幸せにするからな」


 こうして翌日の約束をしてから、依織は降矢と新型モノレールの駅で別れた。


「思い通りに進みすぎてちょっと怖いなぁ」


 帰り際、一人で歩きながら、依織は呟いた。結婚詐欺ではないかと疑うほどの好条件であるが、戸籍管理システムの仕様で、それは困難である。


 第一依織は、機会は逃さない主義だ。多少の難があっても目は瞑れる。

 依織は帰宅後すぐに、引っ越しドローン業者の手配をした。





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