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No.14 第3話『違う土で育った彼らは』- 5



唯一授業を受けた6限目さえも爆睡で、終了のチャイムと共に夢を見ていた頭を起こす。


あーヤバい。明日からテストじゃん。夢見て前のこと思い出してる場合じゃねェよ。完全に留年コース…

そう思いながらぼーっと横を向けば、珍しくコウが寝ずに座っていた。


そのコウの机の上を見て一瞬「んん?」と首を傾げる。

俺の机の上にはないプリント。でもコウの机の上にはある。……もしかして。


「俺のプリントは?!」

「あ…?知らねェよ」

「俺が寝てる時に回ってきたのかよ!俺の分は?!」

「だから知らねェって言ってんだろ」


俺が寝てる間に配られたプリントが、たまたま最後列の俺の分だけ足りなかったのか?

つーか前の奴起こせよマジで!完全にテスト問題含んでんだろ!


そう考えを巡らせてから盛大にため息をついてうなだれる。

隣に座っていたコウはだらしなく椅子に背中を預けたまま舌打ちをしていた。


「職員室行くしかねェかー。…だりー」

「……。」


独り言で呟きながらゆっくりと席から立ち上がる。

その瞬間、横からガンッと音がして視線を前から横に逸らした。そこに…


「ラッキー!プリント落ちてんじゃん、これ俺の分じゃね?」

「いちいちうるせェ…」


そう小さく返事をしたコウがゆっくりと立ち上がる。

そのまま挨拶もせずに教室を出ていくコウに悪態をついて、もう一度椅子に座った。


つーか、やっぱこれ俺のじゃねェの?さっきまで床にこれあったか?

一度浮かんでしまった疑問は、さっきのふてぶてしいコウの後ろ姿を思い浮かべた瞬間解決する。


マジでやっぱ…コウは変わってんな。

そう思うのと同時に口角を吊り上げながら、出て行ったコウの方向へと目線を向けた。


思考も行動も、完全には読めない。だからあいつは面白い。

わざわざ自分の分を床へ投げ捨てたあいつの行動に笑いが止まらなくなる。


普段から暴言や暴力を繰り返すコウが、次にどう行動するのかはいつまで経っても予想することが出来ない。

単純に考えれば俺のことを思ってやってくれた行動。だとしたら最強のツンデレ。


けど他にも策があってしたことかもしれねェし、気分だけで捨てて行ったのかもしれない。

まあどちらにしろ…


「…サンキュー」


俺が今助かったことには変わりねェから、お礼だけは言っとくな?

ざわつく教室の中で呟いた俺の笑いを含む声は、誰に聞かれることもなく消えていった。




コウが教室から出て行った数分後、教室の扉付近に雪乃ちゃんが姿を現した。


少し悲しそうな顔で俯いてる。

大方、コウに先に帰られて凹んでるんだろ。


ああ、それともあれか?昼間にコウが美咲っちと飯食ってたからか?

もしそうなら…そろそろかもな。


「あ、あの…池中くん」


ほら来た。


いかにも自分が可哀想な奴だってオーラを出しながら扉の方から呼びかけてくる。

その呼び出しにいつもの笑顔を返しながら雪乃ちゃんの前まで駆け寄った。


「なになに?どしたの、雪乃ちゃん」

「あ、あのね…コウくん、は…?」


ああ、そっか。こんな姿見られたら浮気するってバレちゃうもんなコウに。


毒づく心の中とは反対に、笑顔のままコウは帰ったと言ってのけた。

そうすれば後は雪乃ちゃんから切り出してくる。


「い、池中くん…返事が、遅くなっちゃってごめんね。あの、私…」


伏せ目がちに言い始める雪乃ちゃんを黙ったまま見つめる。

自分の顔が見られてないのを良いことに、存分に蔑んだ目で、軽蔑した表情で見下してやった。


こんな女に惚れたコウの気がしれねェ。

そう思うのと同時に、コウへの同情とさっきのプリントへの感謝の気持ちが生まれてくる。


「こ、この前の告白のこと…す、すごく嬉しかっ…たよ」

「……。」


この女がどうなろうと何も思わない。

傷つけて壊してやることへの罪悪感なんて1つもない。


けどコウにだけは、少し心が痛んだ。だから……


「そ、それで…あの…」

「何の話してんの?雪乃ちゃん」

「へ…?」

「俺、雪乃ちゃんに…」


告白なんかしたっけ?


さっきまでとは何一つ変わらない笑顔でそう淡々と言ってのける。

マヌケな顔のまま固まる雪乃ちゃんに追い打ちをかけるようにもう一言呟いた。


「雪乃ちゃんの妄想だったんじゃね?俺そんなこと言った覚えないし」


そしたら次に返ってくる女の台詞はこうだ。

最低。ひどい。騙したの?本気だって言ったのは嘘だったの?


ヒステリックに喚きながら怒りだして、まるで自分の悪行は棚に上げて責め始める。


言っとくけど、もっと利用して捨てられなかっただけマシだと思えよ?

こんな軽くで済んだのは、全部コウのお陰なんだからな…


何も言わずに俯きだした雪乃ちゃんを見ながら思わずニヤッと笑ってしまう。


今、こいつはどんな表情で悔しがってるんだろう。

そんな興味本位で、少し屈みながら顔を覗き込んだ。その瞬間…


「……ふふ、ありがとう」

「は…?」


心底嬉しそうに、笑いやがった。

かと思えば、今度は俺の目を見て微笑み出す。


意味が、わかんねェ。何だよ、これ。

何が、嬉しいんだよ。


「池中くんは…優しいね」


俺が優しい…?こいつ、何言ってんの?

わけ、わかんねェ…


「あ、もう行かなきゃ…。ありがとう、池中くん…またね」

「え、ちょっと…おい!」


上機嫌なまま俺の前から走り去っていく後ろ姿。

明らかに普通の女とは違う反応。何を考えてるのかすらもわからない。


その時にやっと、普通じゃないコウが何で雪乃ちゃんを好きでいるのか、わかった気がした。


「全ッ然、普通じゃないじゃん…見たことねェわ、あんな子」


何考えてんのか、さっぱりわかんねェ。

それが初めて、雪乃ちゃんに対して興味を持った瞬間だった。

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