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No.3 第1話『始まりの種』- 3



引っ越した家へ行くことは諦めて、さっきまで殴っていた奴の言った通り直接あいつの高校へ行く。


あのデブのままで登校してるとは思えねェけど。

どうせ入学してすぐに引きこもってんだろ、行くだけ無駄かもな。

そう心の中で吐き捨てながら軽く舌打ちを零す。


成績も家庭も良かったあいつが入学したのは超がつくほどのエリート高校。

俗にいうお嬢様とお坊ちゃまが通う学校だった。


校舎の外装を見ただけでも吐き気がしてくる。

無駄に大きく作られた校門の外から中の様子を覗えば、下校時刻をとっくに過ぎた校舎内にはほとんど人の気配は感じられなかった。


やっぱ無駄足か…ゴミのくせに手間取らせやがって。次会った時はマジで切り裂いてやる。そう心の中で呟いて、校門を背にして歩き出した時だった。


「…ッ…ぅ…」


微かにあいつの声が耳に入ってくる。


本当に聞こえるか聞こえないかくらいの声。

それがどこから聞こえてくるのか、後ろへ振り返っても姿は見当たらなかった。


小さく舌打ちをしながら両手をポケットに入れて歩き出す。

他校の門をくぐり、だだっ広い校庭を通り抜けて校舎の入り口を見る。


普通なら聞こえるわけが無い距離。

それでも聞こえた声の主が、下駄箱の前で腹を抱えて蹲っていた。


最後の時に見た太った姿とは違う。むしろ太る前よりも痩せこけているように見えた。


「あんたさ、マジでウザいんだけど」

「もう来んなって。クラスにいるだけでイライラするから」


あいつの周りには女が5人。

こんなお嬢様学校でも派手な女っているんだな。


つーか、こいつらの声…門の外で聞こえてねェのに何であいつの声だけは聞こえた?

ありえない状況に顔を顰めて考えようとしたその時、ゴンッと床に骨がぶつかる鈍い音が聞こえた。


「聞いてんのかよ!」

「うッ…」


女が蹲って震えるあいつの頭を踏みつける。

その拍子に地面へ顔面を打ちつけたあいつが苦痛な声を発していた。


「遊んでるとこ悪いんだけど」

「…!」

「そいつ、俺の玩具なんだよ」

「コ、ウ…くん?」


無性に、腹が立った。

何に腹が立ったのか、何で腹が立ったのか、詳しいことははっきりとわからない。


ただこの時感じたのは玩具を盗られたような感覚と…


「その汚ねェ足どけろ。素っ裸で放り出されたくなかったらな」


大切な物を他の奴の手で汚されたような感覚。


やってることは俺と同じ。それでも自分じゃねェ奴があいつの悲鳴を聞いて苦しむ顔を楽しんでると思うだけで気が狂いそうになる。


嫉妬と独占欲で、意識が飛びそうになる。


「なに、こいつ…。他校の奴?」

「うわっ、ヤバくない?逃げようよ」

「ビビってんの?他校の奴が勝手に校内うろついてるだけでも問題。私達に手出したらそれこそ通報されるレベルじゃん?出来っこないよ」

「ただのハッタリでしょ。場所変えてやろうよ」


ああ、もう無理。クソ女の所為で限界。


「きゃあああッ」


あいつの腕を引っ張って場所を変えようとする女の髪を勢いよく掴む。

たったそれだけで悲鳴を上げる女に鼻で笑いそうになった。


ぐちゃぐちゃに切り裂いて肉片にしてやりたい。

そう思いはしても今の悲鳴を聞く限りではそんな意欲も萎える。


こんな汚ねェ声じゃ、全くと言っていいほど満たされない。むしろ不快にすら思う。


「なッ、マジでこいつヤバいよ!逃げよう!」

「もう離してよ!やめて!!」


揃いも揃ってブスばっか。髪を掴んだ拍子に漂ってくる臭いも鼻をつくような香水の臭さ。

見えた首筋も、二度と視界に入ってこないように切り落としたくなるくらい醜い。


こんなにも違うもんか?同じ女なのに…


「コウくん!駄目だよ!もう離してあげて!!」


髪を掴んだ女に向かって振り上げた腕に、あいつが両腕で掴まってくる。

見上げてくる瞳。懇願してくる表情。俺の名前を呼ぶ声。


全てが、狂わせる。


自分の玩具が手の内に帰ってきたことを確認し、髪を掴んでいた手をパッと離す。

女はバタバタとその場から逃げ出して何人かは泣き叫んでいた。


黙れよ。汚ねェ声で叫ぶな。

ギリッと奥歯を噛みしめてあいつの左腕を掴んで引きずるように引っ張る。


そのまま廊下を土足で歩いてある部屋に向かった。

引きずっている相手に部屋の場所を聞けばすぐそこだと答えが返ってくる。


それと一緒に土足は駄目だと恐る恐る注意してきたから、その返事にぐっと手首を握る手に力を加えた。

それだけで久々に欲していた声が聞こえてくる。


もうそろそろヤバいな。


「コ、コウくん!あ…ッ」


目的の部屋に着くのと同時に外側から施錠されている箇所を蹴り上げる。

古そうな扉のお陰で難なく施錠は解けた。


中に一歩足を踏み入れた途端に持っていた手首を離してベッドへと放り投げる。

人の気配がないとわかった後、扉へ背を向けて呟いた。


「黙って座ってろ」

「ど、どうして、コウくんがここにいるの?」


状況の把握が出来ないのかオロオロとした声で後ろから問われる。

その返事はしないで無視したまま棚の中から消毒液と包帯を取り出した。


「今やられたとこ見せろ」

「え…?」


動作も返事も全てが遅いこいつにイライラして、舌打ちをしながら無理やり首を引っ張る。

至近距離で顔の怪我を確認し、べシャッと乱暴に消毒液をかけて肩を強く押した。


「わ…!痛ッ、コウくん、目に入ったよ!」

「良かったな」

「え…、そこは!いいよ!もういいよコウくん!」


ベッドに押さえつけたまま制服をたくし上げる。

暴れ出すこいつの首を左手で抑え込み、ぐっと苦しませるように力を入れた。

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