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#110 正式版『旧支配者のシンフォニア』

『ハテグ=クラ祭』から半年後。『旧支配者のシンフォニア』の正式版がリリースされてから最初の土曜日を迎えた頃。

 二人の少女が草原で和城に追い回されていた。


「あああああああああああああああっ!」

「あああああああああああああああっ!」


 一人は長い黒髪。上白下緋の巫女装束を纏っている。肩部に布はない。首に飾られているのは勾玉のネックレスだ。――即ち、私こと二倉すのこだ。

 もう一人は白銀のボブカット。紫水晶アメジストの瞳は大きく、見る者を魅了する。身を包む真紅のドレスは冒険者仕様に動き易いよう改造されていた。――即ち、マナちゃんだ。

 私達二人がいるのは正式版『旧支配者のシンフォニア』のフィールドの一つ。枯れた草原の真っ只中だ。

 その枯れ野を私達は横断していた。……背後に魔城兵を連れて。しかも和風仕様の。


「なんで正式版にも魔城兵キャッスルゴーレムがいるの!?」

「β版でのイベントで皆の印象に残っちゃったから出さない訳にはいかなくて!」

「なんでその魔城兵キャッスルゴーレムに私達は追われているの!?」

「マナがダンジョンと間違えて門を開けようとしたからです御免なさい!」


 今日は正式版がリリース開始してから初めてのコラボ。私とマナちゃんと一緒に冒険をしていた。まるで遠足の前日で眠れない小学生のようにワクワクしたものだ。え? 今時の小学生でそんなのいない? そっかー……。

 ともあれ、マナちゃんとゲームを楽しんでいたんだけど、何の因果かまた魔城兵に出くわしてしまったのだ。あれ程の巨躯に太刀打ちできる筈もなく私達は一目散に逃げ出した。


『なにこれデジャヴ』

『前にも魔城兵キャッスルゴーレムに追い回されていた事あったよな』

『初日にトラップを踏むのはチクタクマン社の伝統なのか?』


 コメント欄は今日も大盛況です。みんなどうも有難う。

 ……って、言っている場合じゃない。今はとにかく走って逃げなければ。


「わぁああああああああああっ!」


 ズシンズシンと迫る魔城兵。屋根瓦が震動で幾つか跳ねて落ちている。あれに当たってもダメージになるので非常に危ない。

 魔城兵の巨体による歩幅の差はやはり圧倒的であり、いつまでも逃げていられるものではない。ああ、もう追い付かれる。このまま踏み潰されて終わってしまう。そう思った瞬間だった。


「――【煙幕玉】!」


 私と魔城兵との間にゴルフボール大の玉が三つ投げ込まれた。玉は地面に衝突するとその衝撃で割れ、膨大量の煙幕を噴出する。煙幕が私達の姿を隠し、魔城兵が私達を見失う。戸惑い、左右に視線を動かす様は魔城兵にも感情AIが搭載されている事を示していた。


「悪ィな、ログインが遅くなった」

「マイ!」

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