「おや紬さま、お出掛けですか？」

「仙太郎くん！　ちょっと夕食の買い出しに行こうと思って」

「そうですか、それではお気をつけて」

　門のところで丁度仙太郎くんとすれ違い挨拶をする

　同じ家に住んでいるはずなのだが何故か仙太郎くんとはあまり顔を合わせることがない

　件のもう１人の使用人とも一度も顔を合わせたことがなかった

　何故なのかそんなことを考えながら神社の横の通りまで出たときだった

　いきなりごおっと強い風が吹き付けてきて体制を崩す

「きゃあっ！」

「おっと、大丈夫かい？」

　そのまま転びそうになった私を誰かが支えてくれた

「すいません！　ありがとうごさいます」

　体制を立て直してから慌ててお礼を言う

「お気になさらず、それよりお嬢さん、今この道から出てきたね？」

　そう言って髪を遊ばせて簪を刺した少し遊び人のような格好の男性は私が今来た道を指差す

「は、はいそうですが」

「なるほどなるほど、ではまた後程」

　その人はふむふむというように頷くとニコッと笑って神社の横の通りへと入っていった

「……後程？」

　後程とはどういうことだ

　なんというか何か不思議な雰囲気を纏った人だった

　少し旦那様に似ているような雰囲気

　その瞬間もしかしてと閃いたがまぁ今確認しなくても帰ればわかることだと村への道を急いだ

「いらっしゃい！　おや紬ちゃんじゃないか、で、何をお求めで？」

　村に着くと私はまず忘れることのないように酒屋に入る

「お客様用のお酒が欲しいんですけどおすすめはどれですか？」

「お客様ねー、それならこの日本酒と果実酒なんてどうかね」

「じゃあそれください」

「毎度！」

　私は二本の瓶を受け取りお礼を言って店を出る

　そして店を出てからこれは失敗したと気づいた

　普段お酒なんて飲まないので買うこともない

　だからこんな重いものだとは思わなかった

　これを持ったまま夕食の買い物をするのはなかなか辛いものがある

　確実に順番を間違えた

　だがまぁ買ってしまったものは仕方がない気合いを入れて瓶を入れた風呂敷を持ち上げた時だった

「あれ？　紬じゃん！　なんか重そうだけど買い物？」

　後ろから聞きなれた声が聞こえて振り替える

「ともちゃん！　ナイスタイミング！」

「何が？」

「ねーえー、この扱い酷くない？」

　酒瓶の二本入った風呂敷を持って歩きながらともちゃんが苦言をていする

「今度お礼はするから！」　

「まぁいいけど……」

　ともちゃんはやれやれと頭をふる

　ともちゃんは力持ちのともちゃんと昔から呼ばれるくらいに力持ちなのだ

　だから申し訳ないが手伝って貰うことにした

　勿論今度ちゃんとお礼はする

「ねぇ紬ー、あとなに買うの？」

　私は豚肉が数切れと卵とパン粉、エイヒレが入った袋を手から下げている

　後は付け合わせのキャベツを買う予定だ

「んー、あとはキャベツだけかな」

「そう、あ！　じゃあキャベツはうちの畑から取ってけばいいわ」

「いいの？」

「勿論！　あと紬に渡したい物もあるし、急ぎじゃないなら少しお茶でも飲んでいけば？」

「じゃあそうしよっかな」

　話ながら八百屋に向かっていた足を村長の家のほうへと代える

「そう言えば聞きたかったんだけどさ、あんたと鬼神様の出会いってなんなの？」

　その言葉にピタッと足が止まる

「紬？」

「そういえば理由知ってるのおじさんとおばさんだけだもんね、ともちゃんには話すけどあんまり言いふらさないでね」

「……わかった」