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episode_0076

「多分、父はしかるべき家に、内密で私を養子か嫁に出させたかったんです。父が信頼の置ける家に……。その際に父が恥ずかしい思いをしないように、一流の家庭教師から教育を受けたので……」


 学校には通わせてもらえなかったが、シュタルクヘルト家では国でも有数の一流の家庭教師から教育を施された。

 一流の家庭教師だったのは、アリサの存在について、口外する可能性が低いからではないかとアリーシャは考えていた。

 一流と言われている家庭教師なら、「一流」であることを誉めそやし、金を積めば、ほぼ口外しない。

 その代わりに、「一流」を自負しているだけあって、家庭教師はプライドの高い者ばかりであった。

 彼らの機嫌を損ねないようにするのは、教育を受けるアリサことアリーシャの役目であった。


「家庭教師の皆さんは、何と言いますか……。気位の高い方ばかりだったんです。自分の思い通りにいかないと、不機嫌になって、酷く八つ当たりされてしまって……。皆さんの機嫌を損ねないように顔色を伺いつつ、必死に勉強しました」

「それで教養が高いのか……。合点がいった」

「いえいえ! そんなことはありません! オルキデア様やクシャースラ様ほどではありません……!」


 何度も首を振って否定をするアリーシャに、「そんなことは無い」と返しながらオルキデアは足を組む。


「君は語学が堪能だろう。シュタルクヘルト語だけじゃなく、ペルフェクト語も、ハルモニア語も難なく出来る。教養が無ければ話せないだろう」

「それは……。ペルフェクト語は母から教わりましたし、ハルモニア語はシュタルクヘルト家で教わっただけですので……。あっ! 母の常連客からもペルフェクト語とハルモニア語を多少教わりましたが」

「それだけでも充分凄いことだ。俺もクシャースラも、士官学校時代にシュタルクヘルト語とハルモニア語は必死になって勉強したものさ。これが出来るかどうかで、軍での出世に大きく関わってくるからな」


 ペルフェクト軍ではシュタルクヘルト語とハルモニア語が話せて、読み書きが出来なければ、どんなに功績を上げても将官以上への昇進は難しいとされていた。

 階級が将官以上になると、シュタルクヘルトとの交渉の場に出る事もある。その際には戦場は勿論、それ以外の政治や話し合いの場でもシュタルクヘルト語と、戦争公用語とされているハルモニア語が必要になった。

 実際に今の軍部で階級が将官以上の九割方の軍人は、日常会話以上にシュタルクヘルト語とハルモニア語が出来る者ばかりであった。シュタルクヘルト語とハルモニア語が出来なければ、将官以上への昇進はほぼ不可能と考えてもいいだろう。


 オルキデアもクシャースラも、出世や昇進に興味は無かったが、二人共に士官学校の学費を返還してもらう為に、軍で功績を上げる必要があった。

 クシャースラの家は平民だが、決して貧しい家庭ではなかった。

 両親は王都の郊外に住んでおり、代々、農業で生計を立てていると聞いたことがあった。


 だが農業だけあって、その年の天候や気候で収穫が左右され、収入が少ない不作の年は、両親が必死になって生活を維持していたらしい。

 そんな両親を楽させる為にも、平民でも実力次第では多額の給料が貰える軍人になろうと考えたのだと、士官学校時代にクシャースラから聞いた覚えがあった。

 軍人になると決めたクシャースラだったが、両親からは猛反対されたらしい。

 貴重な跡継ぎを戦争で失う訳にはいかないからと。

 クシャースラは両親に一切の学費を負担させないことや、もし学費を負担させてしまったら将来的に全額返済することを条件に両親の反対を押し切って、士官学校に入学したのとのことであった。


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