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episode_0032

 そうしている内に、次第に酒量は増えていった。

 数週間滞在しただけの国境沿いの基地でも、大量の酒瓶が出たのだから、ここでの酒瓶の数はその比ではないだろう。

 部下たちは呆れて、なかなか掃除を手伝ってくれないので、クシャースラが来ない日は少しずつ自分で片付けるしかなかった。


 それも面倒になって、部下とクシャースラしか執務室に来ないのをいいことに片付けないでいたら、今や足の踏み場もなくなりつつあった。

 その原因を作っているのも、今や大量の酒瓶だけではなく、適当に重ねられた古い書類や、新しい戦術を考えるのに使って、本棚から出したままになっている本まである。

 酒瓶も含めて、片付けが一日で終わらなくなった以上、多忙なクシャースラは、まとまった休暇の時しか片付けに来てくれなくなったのだった。


「昔から片付けは苦手でな。ここの部屋も片付けてくれると助かる。……頼めるか?」


 オルキデアから話を聞いたアリーシャは、ぽかんとしていたが、やがて「わかりました」と答えたのだった。


「私でよければ片付けます。でも、意外です。オルキデア様は何でも出来る方だと思っていました」

「俺だって人間だ。出来ないことの方が多い」


 二人が話していると、執務室と続き部屋である仮眠室の扉が開いた。

 中から出てきたのは、アルフェラッツの部下である新兵であった。


「一応、部屋の換気をして、ベッドを使えるようにしました。真新しいシーツや掛布がありましたので、そちらを使用させて頂きました」

「ありがとうございます」


 一礼するアリーシャを見ていた新兵だったが、次いでオルキデアの姿に気がつくと目を剥いて、「失礼しました!」と敬礼をした。


「片付けてくれたのか。助かる。……アリーシャ、今日から君は仮眠室を使ってくれ」

「でも、オ……ラナンキュラス様は……?」

「俺は執務室のソファーを使うさ。物を退かせば寝れるだろう。多分」


 ソファーの上や周りにも、積み重なった本や書類、空になった酒瓶があったが、それらに押されて、ソファーの端には仮眠の際に使用していたぐちゃぐちゃになった毛布もあった。物を退かせばオルキデア一人くらい、足を伸ばして寝れるだろう。

 毛布が足りなければ、後ほど、部下に届けさせればいい。

 それらを一目見たアリーシャはあまりの惨状に顔を引きつらせていたが、すぐに覚悟を決めたように両手を握りしめると、オルキデアに向き直ったのだった。


「すぐに片付けますね!」

「いや、今日は片付けなくていい。さすがに今から片付けると、明日の朝になる」


 とりあえず、明日以降に片付けをお願いするとして、まずはアリーシャを仮眠室に向かわせて、不足している物が無いか、新兵と共に確認をさせることにしたのだった。


「さて、まずはアイツに連絡をするか」


 アリーシャを手元に置いていても、他から問い詰められるのも、正体がバレてしまうのも時間の問題である。

 そうなった時の被害を最小限で食い止める為にも、協力者が必要だった。


 ーーこんな時に頼りになるのは、アイツしかいない。


 執務机に着くと、オルキデアは電子メールを立ち上げたのだったーー。



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