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episode_0015

 執務室として借りている部屋に戻りつつ、アルフェラッツに指示する内容を考える。


 夜半に犯人を捕まえるなら、アルフェラッツを始めとする信頼の置ける部下数人の力を借りるべきだろう。


 犯人を誘き寄せる間、アリーシャを他の部屋で待機させるのも、今後、食事を運ばせるのも、部屋の見張りも。

 人選については、これもアルフェラッツに任せておけばいい。

 それ以外の問題としてはーー。


(アリーシャ自身だな)


 敵国の捕虜であり、重要人物でもあるアリーシャを、オルキデアの好きには出来ない。

 今はまだいいが、アリーシャが記憶を取り戻した後にはーーアリーシャの身元が発覚した際には、政治的に、軍事的に、利用されるに違いない。


 決して、珍しい話ではない。今までだってあった。

 敵軍の高官、将校、または政治家や元王族などの敵国の重要人物を捕虜として捕らえては、ペルフェクト側が有利になるように、交渉に利用する。

 実際に、オルキデアもそうした高官や将校を捕らえたことがある。

 今の地位は、そうして築き上げた功績の上に成り立っている。


 それなのに、何故かそうした交渉の場で、アリーシャが利用されてしまうのが、気になって仕方がなかった。

 利用されて欲しくないと、心のどこかで思ってしまう。


(それなら、どうしたらいいんだ……?)


 利用されたくないのなら、アリーシャはどうしたらいい?

 解放すればいいのか、こちら側に取り込めばいいのかーー。


(取り込む?)


 オルキデアの足が止まる。

 実際に捕虜の中には、シュタルクヘルトからペルフェクトに取り込んで、寝返った者が何人もいるーー当然、その逆も。


 それなら、同じようにアリーシャも取り込めばいいのか。

 シュタルクヘルトからペルフェクトに。

 捕虜からオルキデアの身内にーー。


(馬鹿な)


 そんなことが出来る訳がない。

 軍の上層部にバレたら、それこそ降格や減給処分で済まないだろう。

 オルキデアが持っている今や名ばかりとなった貴族としての身分剥奪か、国外追放か、最悪は処刑か。

 いずれにしろ、危険を冒すことになる。


(せめて、アリーシャの身元の特定に繋がる情報があればな)


 執務室に戻って、アルフェラッツを呼んで来るように執務室前にいた部下に伝える。

 待っている間、気晴らしに備え付けの端末で、シュタルクヘルトの新聞の電子データ版を立ち上げる。


 食堂で聞いた通り、アリーシャを保護した軍事施設と軍事医療施設の記事が大きく掲載されていた。

 その記事の中に、女性の写真と共に、小さくこう書かれていた。


『ーーなお、この日、慰問に訪れていた元王家・シュタルクヘルト家の九番目の子供であるご息女のアリサ・リリーベル・シュタルクヘルト嬢も行方不明である』


 隠し撮りの様に撮られた不鮮明な小さな写真ではあるが、その写真を見た時、オルキデアは濃い紫色の瞳を大きく見開いた。

 アルフェラッツが執務室にやって来るまで、その写真をじっと見つめたまま、オルキデアは固まってしまったのだった。


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