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episode_0018

 その日の夜、一人の兵がアリーシャの部屋の前にいた。


 見張りの兵には、金を渡して席を外してもらった。

 いつもと違う兵だったが、何も聞かずに金を受け取ると、どこかに立ち去って行った。

 あまりに単純な見張りに、兵は鼻で笑った。

 金ならたんまりある。

 貴族出身である兵は、実家からの仕送りも含めて、金を溜め込んでいた。


 元は王都の軍部にいたが、捕虜の女軍人に乱暴したことで、この辺境の基地に飛ばされてきた。

 捕虜に乱暴して何が悪い。と、兵は不満であった。

 代わり映えも、面白味もない、そもそも女が誰もいないこの基地で、ほとぼりが冷めるのを待っていると、丁度いい捕虜がやって来た。


 軍が破壊した敵軍の軍事医療施設の跡地で保護されたという女は、王都からやって来た将官とその部隊によって、大切に連れて来られた。


 たかが、敵国の女。一体、何が女を大切に

 させるのかーー。


 ある時、保護された捕虜の女に、食事を運ぶよう上官に頼まれた。

 捕虜の女はこの基地で療養し、今後の尋問や管理はうちの部隊が担当するという。


 捕虜でありながら、降格までされて下士官となった自分とは違い、将官と同じ食事を食べる女に恨みを覚えた。


 上官によると、女はペルフェクト語がわからないらしい。

 それなら、憂さ晴らしにペルフェクト語で恨み言を口にしながら、転んだ振りして食事をひっくり返せばいい。

 食事がお預けになった女を嘲笑えば、多少は鬱憤も払えるだろうと、思いながら部屋に入ったつもりだった。


 始めて捕虜の女を見た時、心臓が大きく高鳴った。


 敵国とはいえ、ここまで顔形が整った女を見たことがなかった。

 やや痩身気味なのは気になるが、娼館以外で滅多に見る機会のない大きな胸の膨らみも、男を興奮させるのに充分であった。

 じっと見つめてくる色っぽい瞳も、今は怪我を負っているが触れたら滑らかそうな白い肌も、艶やかな髪と唇でさえも。


 ごくりと唾を飲み込む。

 兵が生まれながらに持つ、男としての本性を発揮させるには申し分ない捕虜であった。

 自分の内側から、ムラムラと沸き上がってくる。

 自分の手で花を散らしたいとーー犯してしまいたいと、思ったのだった。


 兵は実家から眠り薬を送ってもらい、尋問で使用されている痺れ薬をくすねると、女の食事に混ぜるようにした。

 最初は薬の組み合わせを間違えてしまった。

 眠り薬と痺れ薬の両方を使用したことで、両者の作用が半減されてしまったようで、部屋に入った時に女に気づかれてしまった。


 女は身を捩って抵抗した。

 肩の辺りを強く引っ張ると、ビリビリと音がして手術衣が破れた。

 暗い室内でも、破れてはだけた肩から白磁の肌が見えた。

 ごくりと生唾を飲み込んだ。

 必死に抵抗する女が流す涙も、また兵を興奮させるのに充分だった。


 髪を引っ張って、どうにか身体を押さえつけると、胸に触れようと手を伸ばした。

 すると、騒ぎを聞きつけた巡回中の兵が、駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。

 舌打ちをすると、鉢合わせになる前に、一目散に部屋を後にしたのだった。


(今日こそは)


 兵は舌舐めをした。

 目の前に餌を出させて、「待て」を言われ続けた犬の気分だった。

 それからも、何度か食事に薬を混ぜたが、警戒されてしまったのか、全く食べなくなってしまった。

 それなら、夜半に押し掛けて、力づくで触れようとしても、激しく抵抗されてしまった。


 どうにか出来ないものかと思っていると、油断したのか、今日は食事を完食していた。

 念のため、床やゴミ箱などに捨てられていないか確認したが、どこにも捨てていないようだった。


 その内、女の怪我が治り次第、この部屋から出てしまうだろう。

 独房か、それとも王都に連れて行かれてしまうのかーー。

 いずれにしろ、時間は残っていない。

 やるなら、早い方がいい。


 明かりがついていない、暗い室内に足を踏み入れると、膨らんだベッドが目に入った。

 足音を忍ばせてベッドに近づき、掛布に手をかけた時、内側から跳ね飛ばされる。

 気づいた時には、額に銃口を向けられていた。

 銃口を構えていたのは、静かに激怒の色を浮かべる濃い紫色の瞳の将官だった。


 ◆◆◆



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