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episode_0013

「とりあえず、対策を考えねばならんな」


 食事はすっかり冷めてしまったが、女性は少しずつ口に運んでいた。


「対策?」

「ああ。これから食事は毎食、俺の信頼出来る部下に持って来させよう。それなら、薬を混入させられる心配はなくなる」


 信頼出来る部下の手配は、オルキデアの直属の部下であるアルフェラッツに任せよう。

 どの兵が、どの兵に食事を運ぶように指示したのか、先程、食事を運んできた新兵を通して、アルフェラッツに調べてもらおう。

 人脈も多いアルフェラッツなら、上手く犯人まで辿り着けるだろう。


 ベッド脇に丸椅子を持って来て、足を組んで座っていたオルキデアだったが、足を組み直すと、確認するように話す。


「肝心の薬を盛る兵だが……。そうだな、顔を見たらわかるか?」

「多分、わかると思います。でも、どうするんですか?」

「ああ。俺が犯人を捕まえる」


 女性を怯えさせ、泣かせるのは、オルキデアの本意ではない。

 ただでさえ、記憶が無くて、頼る当てもなくて、不安に感じているはずだ。

 せめて、オルキデアだけでも、女性を守らなければならない。


「ラナンキュラス様が?」

「君をここに連れて来たのは俺だ。俺は俺が連れて来た君について、責任を持たなければならない」


 薬の種類から入手先も特定したいが、その薬が盛られていたという食事は、犯人が証拠を隠すために、もう処分してしまっただろう。女性も抵抗している以上、犯人は女性が薬の存在に気付かれていると考えているだろう。次の手段を講じてきてもおかしくない。

 とにかく時間がなかった。まずはどうにかして犯人を見つけなければならない。


「顔がわかるなら、君を兵たちに会わせるのが一番早い。だが、怪我をしている君をここから出す訳にもいかない」


 ただでさえ、訳ありらしいのに、不必要に他の兵に会わせて、妙に勘ぐられたくもなかった。

 知らず、オルキデアの口から溜め息が漏れる。


「君をこの部屋から出せれば早いが、シュタルクヘルト人の君を自由にさせる訳にもいかないからな」

「それなら!」


 女性はフォークを置くと、オルキデアの方を振り返る。


「まだ、もうしばらくは、これまで通りに食事を運ばせて下さい。薬が盛られていたら、知らせるので」

「いいのか? それでは、また危険な目に……」

「いいんです」


 女性はオルキデアの言葉を遮ると、小さく微笑を浮かべて頷く。


「だって、守られてばかりは嫌なんです。

 貴方が私について責任を持つのなら、私も自分のことくらい、自分で責任を持ちたいんです。そうすれば、どんな結果になっても、きっと後悔せずに済むから……」


 最後の方は尻すぼみになってしまったが、オルキデアは目を伏せると、「そうか」と呟く。


「それなら、薬が盛られていたら、すぐに俺に知らせてくれ。夜半にこの部屋で待機して、犯人を捕まえよう」

「いいんですか?」

「気にするな。こうなる可能性を考えていなかった俺の責任だ」


 一瞬、泣きそうな顔になった女性だったが、すぐに顔を引き締めると、頭を下げたのだった。


「ありがとうございます。ラナンキュラス様」

「ところで、名前はどうなった? 記憶が戻るまで使う仮の名前をつけると、医療班は言っていたが」

「それが……。いくつか候補をいただきましたが、どれもしっくりこなくて……。

 何といえばいいのか……記憶にはないけれども、自分の中から『この名前じゃない』って、訴える声が聞こえてくるんです」


 そうして、掛布を握りしめて、女性は真っ直ぐに見つめてきたのだった。


「あの、ラナンキュラス様は、何かいい名前はありますか?」


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