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episode_0009

「シュタルクヘルトの元王家? あそこは王政を廃止して長いだろう。王家なんて存在しているのか?」


 シュタルクヘルトも、元々はペルフェクトと同じ王政国家であった。

 しかし数百年前、このペルフェクトで王政を廃止しようとクーデターが起こった。

 主だった者はペルフェクト軍に捕らえられたが、国外に逃亡した一部のクーデターのメンバーは、シュタルクヘルトの議会を乗っ取った。

 この頃、既に下火であったシュタルクヘルトの王家は、乗っ取られた議会によって廃止され、当時の国王は退位させられたのだった。


「廃止された後も王家は細々と暮らしていたらしい。ここ数代前の元王家の人間の中には、起業家として会社を興し、巨額の富を得た者もいたとか」

「元王族が起業家ねぇ〜」

「今でも議会や軍に乞われれば、軍事施設に寄付もしているらしい。慰問もな。主に慰問は子供たちが行っているらしい。今の元王家には十三人も子供がいるからな」


 その話ならオルキデアも聞いたことがあった。

 今のシュタルクヘルトの元王家の当主には愛人の子供を含めて、男子が七人、女子が六人の十三人の子供がいると。

 ただし男子は軍人として命を落とした者もおり、女子の大半も他家に嫁入りしてしまったらしい。


「元王家の慰問か……」

「ああ。今回も慰問として元王家の娘がたまたま襲撃地に居たらしい。それも襲撃の日に」

「ということは、死者の中にいるのか?」

「おそらくは。身元不明者の中に含まれているんじゃないかってな。確か、九番目の子供だったか? 名前は……」


 そこまで聞くと、オルキデアは空になったトレーを持って立ち上がる。

 後は新聞を読んだら手に入る情報だろう。聞き耳を立てるまでもない。

 トレーを片付けて食堂を出たところで、保護した時から女性を任せている医師と出会ったのだった。


「ラナンキュラス少将、こちらにいましたか」

「そうだが。何かあったのか?」


 女性の、というまでもなく、医師は頷いた。


「ええ。少々困ったことになっていまして……」

「わかった。ここでは人目があるな……俺の執務室に行こう」


 オルキデアは医師を伴うと、執務室として借りている部屋に向かったのだった。


 執務室に入ると、オルキデアは照明を点ける。


「これは……」


 医師が言葉を失うの気持ちも分かる。

 室内は足の踏み場もなく、書類と本と酒瓶で散らかっていたからだった。


「昔から片付けは苦手でな……足元に気をつけながら入ってくれ」


 オルキデアは執務室に入ると、慣れたように本と書類の山を掻き分けて奥に進む。

 この部屋を借りて数週間しか経っていないが、忙しいのを理由に片付けが疎かになっていた。

 落ち着いたらこの基地から撤収することになるだろう。それまでに部屋を片付けなければならない。どんなに片付けが苦手でも、今回は一人でやらなければならないのが憂鬱だった。

 自分の階級を利用して、部下や他の兵に片付けをやらせる方法もあるが、それでは安全な場所から指示だけして自分では何もしない貴族と何も変わらない。

 それにもし他人に片付けを頼んだことを知られたら、いつも片付けを手伝ってくれて、今は別任務中の士官学校時代からの親友に怒られそうだった。


「それで彼女に何があったんだ?」


 オルキデアが執務机に備え付けの椅子に座ると、医師も慎重に本と書類の間を歩いて執務机の前までやって来る。


「記憶は戻りませんが、襲撃時に負った怪我は治ってきました。ですが、今日どうも様子がおかしいのです」

「様子がおかしい?」

「ええ。まず、新しい怪我が増えているのです」


 医師の話によると、毎朝女性の病室を訪れて診察をすると、昨夜までには無かった切り傷や擦り傷、更には痣が増えているとのことだった。

 酷い時は手術衣が破れている日もあるらしい。


「怪我はどれも浅い傷のため、最初は気にしていなかったのですが、日に日に怪我の数が増えてきました。毎日ではないので、何か理由があるかもしれません」

「怪我……。自傷か?」

「いいえ。自傷出来るような道具は、部屋に置いておりません。自傷だけならまだいいですが……、自死されては困りますから」


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