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episode_0006

 元々、今回の施設の襲撃には、オルキデアが率いる部隊以外も参加していた。


 他の部隊は、遁走した敵軍の追撃に行き、周囲の掃討を行っていた。

 そんな中、オルキデアの部隊は施設の跡地の捜索と捕虜の解放、生存者の保護を命じられていたのだった。


「俺たちが医療施設跡を探索した時、怪我を負い、意識を失っていた君を保護した。そうして、我が軍の医療テントに運んで治療をした。……ああ、着替えさせた時、服の下は見ないように気をつけたらしいぞ」


 医療スタッフを始め、部隊には男しかいない。

 女性を着替えさせるに辺り、下着や素肌ーー特に下着の中、を見ないように、医療スタッフは注意を払ったらしい。


 オルキデアに言われて始めて気づいたという様に、女性は自らの身体を見下ろす。

 緑色の手術衣の胸元をそっと撫でると、不安そうな顔でオルキデアを見つめ返す。


「あの、私は、これからどうなるのでしょうか?」

「そうだな……。とりあえず、敵軍がこの地に気づいてしまって、急を要する。君は捕虜として、我が軍に連れて行こうと思う。

 あの施設やシュタルクヘルト軍に関する尋問もしたいしな」


 ついでに、この女性についても聞き出すつもりであった。

 女性とシュタルクヘルト軍の関係次第では、有益な情報を得ることも、敵軍との交渉の材料に利用するのも悪くはない。

 そのつもりでオルキデアは言ったつもりだった。

 しかし、何故か女性は、ますます困惑したようであった。


「どうした? 敵軍の関係者とはいえ、女性は丁重に扱うつもりだ。怪我が悪化するような行為や、人道に背く行為をするつもりはない」


 少なくとも、オルキデアは敵国の女性とはいえ、女性を辱める行為はしないつもりである。

 一部の兵の中には、敵軍や敵国の女性にはどんな行為をしても許されると思っている者がいる。

 一時は、その都度、軍部で処罰を与えていたが、枚挙に暇がないのも事実であり、最終的には裁く側の人手が足りなくなってしまった。


 今ではそのような不届き者は、裁いてもきりがないとの判断で、軍の上層部でさえ放置されていたのだった。


「そうではないんです……。ただ、その、皆さんのお役には立てないと思うんです」

「役に立たない? どういう意味だ?」


 女性は両手でシーツを強く握りしめて、何度か口ごもる。

 やがて、覚悟を決めたのか、ようやく口を開いたのだった。


「あの……。私は誰なんですか……?」


 最初、オルキデアは女性が何を言っているのかわからなかった。

 ようやく出てきた言葉は、「……は?」であった。


「何もわからないんです。自分のこと、倒れていたこと。

 思い出そうとすると、頭が強く痛むんです」


 そうして、女性は頭を押さえると、眉間に皺を寄せて、顔を歪めたのだった。


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