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No.23 第12話『青春の日々』- 2



罰掃除を終えて文化祭の準備も一段落する。

僕の担当は看板と屋台の準備で、罰掃除をしている間にほとんどみんなが終わらせてくれていた。


教室へ戻った時、怒られると思っていたのに逆に面白がられる。

寛容なクラスメイトたちのことを思い出しながら、寮のベッドへと腰掛けた。


もう夜の七時。文化祭が終わるまでは帰宅部の僕でもこんな時間になってしまう。


「なお、文化祭って面白いねー」

「や、まだ文化祭じゃなくて準備だから」

「そっか!文化祭は準備よりも楽しい?」


わくわくしているのが丸わかりのなつに、たぶんなと笑って答える。

文化祭の日もついて行きたいと顔に書いてあった。


キビ先で失敗したこともあって連れて行って大丈夫か心配になったけど、考えるのが面倒になってまあ大丈夫だろとまた楽観的に結論を出した。


「なおは今から食堂?」

「今日は優介がいないからここで済ます」

「本当?!」


なつがやったー!と叫んだ後、上機嫌に鼻歌を歌い始めた。

適当に買ってきたインスタントを取り出して、どれにするか選ぶように促すと、元気良く全部!と返事がくる。


「はいはい」

「……なおも一緒に食べようね」

「当たり前だろ。一人で全部食べる気だったのか?」

「むふふ」

「否定しろよ」


口元を押さえて笑うなつに苦笑いする。飯のことに関してだけは本当に遠慮がない。

前に、カップ麺を巡って喧嘩したことをふと思い出した。


「なんで笑ってるの、なお」

「ううん、何でもない」


何ともくだらない理由で怒った自分が子どもで可笑しくて、つい表情に出してしまった。

カップ麺にお湯を入れながら笑っていると、横から顔を覗きこまれる。

不思議がるなつの頭に一度ポンと手を乗せて、カップ麺を持ちベッドへと移動した。


「なお、テレビつけて」

「ん……」

「明日も晴れるかな?」

「どうだろな、暖かかったら何でもいいや」


天気予報を見ながら何気ない会話をしている最中、いつの間にか三分経っていたことに気付く。

何となく意地悪がしたくなって、なつに気付かれないようにカップ麺の蓋をゆっくりと開けた。

けど後ろを向いていたはずのなつが微かな音に反応して、すぐさま僕の方に振り向いてくる。


「あー!」

「バレた?」

「なおずるい!」

「はいはい、口開けろ」


床に座っているなつが口を開けて僕を見つめてくる。その口にラーメンを入れて、美味い?と聞けば、うんうんと大きく頷かれる。

満足そうな顔を確認した後、僕も自分の口の中に入れた。


「美味しいねー」

「ん、まあまあいける」


初めて買ったカップ麺の種類を二人で笑い合いながら味わう。

美味しい美味しいと豪語するなつの口にほとんど入れてやっていたから、僕はあまり食べてなかったけど。


「ねえ、なお」

「なに?」

「今日ね、放課後に話してた女の子はだれ?」

「女の子?……ああ」


山下のことか…?看板作りをしていた時に、話しかけてきた山下のことを思い出した。

山下に頼まれていた看板を裏庭に置いてきて、優介が運んできてくれたことに叱られていた。


「山下っていうんだよ、同じクラスの」

「……山下さん」

「それがどうかしたか?」

「なおにとって山下さんは大切な人…?」

「いやまあ、大切な友達だと思うけど……」

「……そっか」


答えた言葉に少し悲しそうな顔をした後、僕の膝に頭を乗せてくる。

様子がおかしいなつに、もう食べないのか?と聞いても、いらないと珍しく断ってきた。


具合でも悪いのかと思って、軽くなつの背中を摩ってやる。

そうしたら突然なつがフフッと笑いだして、ゆっくりと顔を上げた。


「なおはお人好し」

「別に……そうでもないだろ」

「なおは天然で鈍感」

「なんだよ、うるさいな」

「知ってる?アニメで言ってたよ。なおみたいな人のことを天然タラシっていうんだって」


またフッと笑いながら顔を膝の上へ乗せられる。

身に覚えのないなつの発言に少し不服に思いつつも、まあいいかとこの時は深く考えなかった。


少しうとうととし始めて時計を見てみれば、針はもう十時を指している。

さっさと風呂を済ませて寝ようと思い、なつの頭を除けて立ち上がった。


「風呂入ってくるから。寝たかったら寝てていいよ」

「待ってる」

「待っててもベッドで寝るの禁止だから」

「いいもん、なおが寝てから内緒で寝る。なおは起きないから気付かない」

「……。」


言い出したら聞かない性格なのはこの三ヶ月間でよーくわかっていた。

だからもう何も言わずに部屋の扉を閉めて風呂へと向かう。

説得するための言葉も見つからない分、どうしようもないと思った。


「天然タラシは僕じゃなくてなつの方だろ……」


小さく声に出した言葉は、誰に聞かれることもなく空気になって消えていった。

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