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No.8 第4話『親友』- 2



あー、まあそうか。あれだけ不審な行動ばっかりとってたら普通気づくよな…


「言っても無視したり、キモいって思うなよ」

「やっぱ聞かんとくわ」

「おい…」


笑いながら拒否する優介に、コップを手渡して床へ座る。

なつは僕が動くたびに後をついて来て、また隣に座り込んでいた。


「平田が言いたいと思った時でええ」

「…うん」

「気にはなるけど。まあ行動が変なんはいつものことやし」

「なんか、優介彼女みてェ…」

「……。」

「ごめんって!出てくことないだろ!」


ベッドから立ち上がって扉へと向かう優介に笑いながら叫ぶ。

優介も笑いながら振り返って、もう眠いし帰るわ…と呟いた。


「俺明日は出かけるから来れへんで」

「デートか?」

「そう」

「別れたら僕のとこに戻って来いよ」

「まだ言うか?!キモッ!じゃあな、おやすみー」

「おー」


笑って出ていく優介の姿を見送り、扉を閉めてベッドへと横になった。






次の日の朝、学校へ向かう前になつへジェスチャー付きでこう伝えた。


「なつ、テレビ…つけとくから。聞いて、覚えて」

「はい!」


威勢のいい返事を聞いて、そのまま学校へと向かう。

昨日の晩に優介が帰った後、なんとか返事の仕方を覚えさせた。


わからない時は今まで通り『わからない』、理解出来たときは『はい』とか『うん』で答えるように言い聞かせた。


学校にいる間、正直気が気じゃない。

机に片肘をついて顔を手で支えながら、なつのことについて考える。


テレビなんかで覚えられんのかな…他にも方法を考えようとしていた直後、遠くから叫ぶように声をかけられた。


「平田くん!」

「…なに?久條さん」


授業終了のベルが鳴り、優介がトイレへ行ったのを見計らって久條さんが走ってくる。

今日は何の用だろうと思うよりも先に、九条さんが弾丸のように話をし始めた。


「昨日ね、買い物をしてたら平田君に似合いそうなリストバンドを見つけたの!勢い余って買っちゃった!」

「え…?」

「平田くんって色白で黒髪だし、瞳も綺麗なグレーでしょう?すっごくカッコいいよね!」

「え、あ…どうも」

「だからこの色のリストバンドも絶対似合うと思うの!」


久條さんが手に持っているリストバンドを見てぎょっとした。

一言で表せば、ド派手なゴールド。久條さん自身が派手な分、趣味もそうなるんだろうか…


「えーと、ちょっと派手な気も…」

「ね!良いでしょう?私とお揃いなの!」

「…あの、さ。悪いんだけど」

「つけてくれるかなぁ?」


クルクルに巻いたロングヘアーを弄りながら上目遣いで問われる。


目がギラギラしてて怖い。優介戻ってきてくれーと顔の筋肉を引きつらせながら願っていると、横から救世主が現れた。


「もう久條さん、平田明らかに嫌がってんじゃん」

「なに?」

「だーから平田が嫌がってるからやめてやりなよって言ってんの」

「何それ、あんたが勝手に言ってんでしょ?」


と思ったのに、今度は山下と久條さんのケンカが勃発する。

山下ナイスだと思ったけど、やっぱり久條さんには男が言わないとダメなんだなと実感した。


やめろよ!と叫ぼうとした瞬間…


「はーい、そこまでー!平田は俺のもんやから、かいさーん!」

「何よ、また平田優介?!あんたには関係ないでしょ!」

「関係大ありやろ、こんだけ他クラスのど真ん中で叫び回してたら」

「わかった!じゃあ平田くん廊下行こう!」

「ええ?!」


腕を引っ張られて席から立たされる。もう無理だ。泣かれてもいいから怒ろうと思った。

口を開いて怒りの声を発しようとしたその時…


「ええかげんにせえや、久條」


お前うっとうしいねん、一人で消えろや。そう優介が放った一言が後ろから聞こえてくる。

驚きながら振り向くと、優介が鬼のような形相で睨んでいた。


その声と表情を見て、久條さんの顔が少しずつ変わっていく。

泣き出しそうになったのを見計らい、優介が僕の腕を引っ張って、久條さんの手から解放してくれた。


「…ッ」


大泣きしながら走って教室を出ていく久條さん。本当は僕が言うはずの言葉を代わりに発した優介。出て行った久條さんに向かって、べーっと舌を出して笑う山下。


僕といえば呆然と立ち尽くしていて、中途半端で情けなかった。


「ごめん…優介、山下」

「平田が謝る必要ないやろ。俺がムカついたから言っただけや」


次、移動教室やろ。行くで。


そう言いながら優介が鞄を持って歩き出す。

山下にもう一度悪かったと謝った後、鞄を持って急いで後を追った。


「優介…」

「俺はお前が女泣かすの嫌な理由も知ってる」

「……。」

「お前が素直で頭悪くて優し過ぎんのも知ってる」

「ごめん…」

「俺は…平田が笑っててくれるんやったらなんぼでも悪役に回ったるわ」


良い友達持ったな、お前。


そう笑いながら肩に腕を回してくる優介に、感謝の気持ちでいっぱいになる。


本当に、そうだなと思った。

まだ優介と出会って半年くらいしか経ってない。


それでも優介とは一生の友達になるって、あの事件の時からずっと感じていた。


「自分で言うなよ」

「平田が言うてくれへんからやろ」

「優介はすっげェ良い彼女」

「死ね」


二人で冗談を言って笑い合いながら、次の教室へと足を進めた。

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