これは彼女が初めて戦った時の事。
そしてここから彼女の長く苦しい戦いが…
未来を変えられると思い歩き始めた日となった。
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やるべき事をやりなすべき事をなすだけだ。
万全な状態じゃない事も解っている。
けれどもう時間はそれ以上待ってはくれない。
待たせる訳にもいかなかった。
この世界がふざけた乙女ゲーの世界だと、
気付いた時から私に残された時間は僅かしか無かったのだ。
「こんのぉ!」
小さいながらに持てる限界の大きさの剣を握りしめ何度だって、
打ち付けられる剣をいなし身構える。
目の前のニヤ付いた顔の男が私を見て舐め腐った「遊び」をして、
本気で戦っていない事だって解っている。
けれど、だから技量不足の私でもまだ生きていられる。
「嬢ちゃん?そろそろおしまいにしようかなぁ?」
エヘエヘとその欲望丸出しの顔を隠す事もせず、
ただ私が動けなくなるように腕と足だけを上手に切り落とそうと、
考えていること位解ってしまう。
その先に待っているのは悲惨な結末だ。
だが、そうだったとしても私は今ここで降参する訳にはいかず、
この下種な考えを持つ男を逃がす訳にもいかないのだ。
未来を変える。
変えられると信じて戦うしかないのだ…
ほんのわずかな油断でもなんでもいい。
私は右腕に力を集中させて身体の魔力強化を行った。
それは私の両腕で支えていた剣を一時的にだけだけれど支えると、
そのまま、一歩相手の懐に呼び込むよう踏み込んでそのニヤ付いた顔の下。
首に短剣を食い込ませ思い切り抉る様にして切り裂いたのだ。
遊びと油断していた男は「ガヒュ」と声を上げてそのまま力なく倒れ込む。
けれどそれだけで死んだとは思えず私は短剣を投げ捨てると、
そいつの額に思い切り剣を付きたてたのだ。
男の焦点の定まっていない目が天を見続ける。
相手を確実に仕留めたと確信できたのはその時だった。
それが私の初めての戦果だったのだろう。
けれどそうであったとしても、休んでいる暇はない。
まだ生きている敵はいる。
このまま殺し切れたと感情にひたるまもなく、
目の前にまだいる為に動くのだ。
「お嬢様!」
「お嬢!」
解っている!動け動かないと殺されるのは此方だって。
近くで戦っている兵士達の声が聞こえてくる。
けれどその事を気にする時間は無かった。
逃がさない。
逃がす訳に行かない。
ぺちょりと生暖かい何かか顔に降りかりそれを拭えばすぐに立たなくてはいけない。
歯を食いしばり顔を上げて周囲を見ればまだ戦っている私の護衛がいるのだ。
此方に気をかけて叫んでいる暇ではないだろう。
「敵は!敵は全滅できたのかぁ!まだ立っている奴がいる!
決して生かして返すなぁ!」
たった1人倒しただけで私は満身創痍。
遊ばれただけで腕に付けられた傷も多くそれでもここから逃げる気はない。
ピリピリとその腕から垂れる何かを感じつつそれはまだ気にする時じゃない。
まだ生きている私の声に反応して護衛の兵士は残りの敵を切り殺したのだった。
私の「お散歩」から端を発する、
「運の悪い」初めての遭遇戦に私は何とか生き残った。
こうなる事も解っていた。
解っていながら私は辞める訳にはいかなかった。
立っている者は…動いている者は知っている人だけ。
けれど人数は足りていない。
私を含め6人いるはずの…
動いている者は私の他に5人いなければいけない。
いけない筈なのに…
聞かない訳にはいかない。
立って見渡せば結果は解っている。
けれどそれでも確認して「誰か」に宣言してもらわないと認められない。
金属がぶつかり合う音が鳴りやみ戦闘が終りを告げれば、
認めたくない現実が私の前に置かれるのだ。
この結果を知る事になる。
この判断が合っていたのかそれとも間違っていたのか解らない。
「何人、生き残れましたか?」
「3人です。
2名が逝きました…」
「そう…。
ちくしょう…」
そう呟くのがやっとだったのだ。
後戻りできない決断を下したのだと改めて思い知らされる。
だが「それでも」「そうだったとしても」と言いながら、
私は手に取った剣を握りしめた柄を手放す事かもう出来ない。
悪夢が始まったとでも言えば良いのか。
自らが行った判断を間違いだと認めない為にも、
私は止まる訳にはいかないのである。
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「彼女」が戦い始めた前日談の一部。
物語はここから始まります。
以下
新・公爵令嬢は、ヒロインが天真爛漫であることを許せない。
へと続き、新しく構成し直した物語が幕を開けます。
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乙女ゲームの「世界観」を構成する為に出てくる名前だけの公爵家。
バンストール家はセフィランザ王国の北を守る二つの公爵家の一つ。
ただその公爵家は乙女ゲームの第2章である「ドラマチックパート」で、
隣国のボルガストに蹂躙される事が決まっていた。
そして国を一つに纏め上げる事が出来た「ヒロイン」がセフィランザ王国を、
救って見せると言うのが大まかなシナリオなのである。
ヒロインは国を救い聖女と祭り上げられ皆から尊敬のまなざしを受けて、
大切にされて幸せに暮らしましたとなるのであるが…
名前だけしか出て来ないから「乙女ゲームでなら蹂躙されたで済む事」も、
転生先がその蹂躙される領地となれば黙っている事なんて到底無理である。
転生した先でバンストール家の令嬢として生を受けた、
クラレンディラ・バンストールの戦いが幕を開ける。
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彼女の未来はどうなるのでしょうね?
これにてこちらでの更新は終りです。
ご愛読ありがとうございました。