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第27話

そのターゲットは私に写るしかないのだが…

相当焦っているのか婚約者様を王妃自らの力で押しのけて、

私の前に立ったのだ。


「そ、そうよ貴女も!アナタも王家を支える公爵家として…

そして、次代の王妃の相談役として抜擢してあげます!」


それに何の意味があるのか解らない。

と言うか解りたくない。

それは先程まで私達が帰る時間を遅らせて時間稼ぎをした南の公爵令嬢を、

これから私が支えろと言う意味にしか聞こえない。

教育を失敗した王子夫婦?を私が、導けとでも言いたそうだった。

何故そこまでせにゃならん。

大体後継者ではないのだ「王太子」でないのだから未来は解らない。

解りたくもない。

私は…

私はこの王子と南の公爵令嬢を守る意味を見出せない。

今この場を切り抜ける為に必死に色々考えている事は解る。

けれど、こちらが痛みに耐え、涙を流しながら助けを求めた時期に、

この王家は何をしてくれた?

何もしていないのだ…


「王妃様…私達は何時だって貴女が守りたい人と同じ様な人を、

失いながら国境を守り続けていました。

その間、王国と南の2公爵家は何をしていたのですか?」

「当然国を守るために努力し続けました。

だから北の2家が統合する事を許したのですよ。

必死に隣国からの圧を弱める為に抗議文書も作りました!

王家としてやれるべき事はやり続けていましたよ!」


そう、言葉にすれば、

隣国に抗議してそして北の2家が防衛がしやすくなるための、

統合をやむなしとして許可した。

かなり苦しい判断だったとでも言いたいのだろう。


けれど王家も南の2家も何一つ失っていない。

見せ掛けの受け取られる事のないと分かっているただの親書を書き、

それを相手に手渡すのではなく、この国境の地に置いて来るだけ。

そして、難色を示した北の2家の統合を許したのは、

防衛で削られ過ぎて2家にしないと防衛ラインが苦しいからである。

王家と南の2家から戦力を送りたくないからの代案に過ぎないのだ。

当然「許可した」「手紙を書いただけ」なのだ。

何も失っていない。

何も失わずただ言葉を濁し続けたからこそ、

私も婚約者様も…北の2家は一丸となって戦わざるを得なかった。

前世の知識と言う反則技を使って効率的に侵攻を潰せたからこそ、

僅かに稼ぎ出せた時間。

それを使って兵士を訓練しなんとか戦えるようにしたのだ。

何一つ王家も南の公爵家も支援してくれていない。

それで、自身の大切な人が危ないから支援代などと片腹痛い。


「そうですね。

(ただ)許可を出し(受け取られず意味のない)親書を出すだけで良いのですね。

それなら私も王妃様に習わせていただきます」

「え、違う!違うのよ!」


当然私は必死に親書とやらを書いて、王子にいる周りの護衛が、

勝手に行動する事を許す許可を与えてほしいと言う手紙を書くだけなのだ。

当然、その手紙の意味を理解している婚約者様は、笑ってこっちを見てくれる。


「私も婚約者様の心に響く親書を作り許可を戴けるように努力します」


何の意味もない手紙をただ婚約者様に一通書くだけで、

やるべき事はやった事になるのだろうから安い物だ。

その言葉の意味と自身の言動の結果を照らし合わせれば、

何も起こらない事が確約された事になる。

どうして自身の意見だけが友好的に捉えられると考え続けられたのか。

上位者だからと胡坐をかいていれば当然こうなるでしょうよ…

そこにヘタレ込んだ王妃様は美しくその廊下にスカートを広げて天井を見上げる。


「そんな…そんな事…」

「その貴女が必死になっている姿で南と王家が真面目に支援をしていたなら…

私の大切な…

傍で一緒に戦ってくれた人は今でも私の傍にいてくれたでしょうね」

「これから、これからはそうします!」

「そうですね。

これからは手の届かない国境の町で健やかな暮らしを、

王子にさせたいのであればそうして差し上げると良いでしょう。

私も婚約者様も国境の町で支援を受ける王子の邪魔はしませんよ。

私達は「許可」して差し上げます」

「あ…ああぁ…そん…な…」


その姿は息子の将来を憂うしかない母親が絶望に打ちひしがれる姿だった。

けれどそれが許されるだけ王妃様は贅沢なのだとしか私には見えない。

この人はただ国王陛下の後ろでのうのうと生きて来ただけ。

そして王子を自由に育て失敗しただけ。

その間私と婚約者様が血に泥になりながら戦っていた時期に、

楽しくあそんでただ手紙を書いていただけ。

もう、何もかも遅いのだ。

そして落ちてきた王子が無傷で這い上がる事を許せる訳が無い。

何度だってあの国境と言う地獄に叩き落とし、

死ぬことで王家が激高して戦うのであれば、

そのまま開戦させるだけなのだ。

時間はどのみちない。

大侵攻が6年後に迫っている事にすら気付けなかった王家に、

何一つ期待する事はなく、

私は結局王妃も南と王家だけで国家運営をしていくつもりだったのだと、

再確認する事しか出来なかった…


「王子のご武運と、王家の王子の対する多大な支援を期待しております」


それだけ言うと立つ事も出来ず泣き崩れる王妃にもう一度カーテシーをして、

私は、婚約者様の後ろの定位置に付くのだ。

此方を振り向くことなく差し出されるその手に両手を乗せると、

キュッと掴まれ、私は歩き出すのだ。

そのまま振り返る事なく歩き続ける婚約者様と一緒に馬車に乗ると、

私は馬車の中でもう一度婚約者様の膝の上に乗り、

カウチに座っていたような形取るのだ。

揺れても大丈夫な様にがっしりと抱きかかえられた私は屋敷に戻る束の間の間。

婚約者様の膝の上で令嬢らしからぬ楽な格好で意識を飛ばして眠るのである。


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