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第26話


満を持して登場した会いたくもない最悪の存在は、

悠々と私達に近づいてきたのだ。

当然であるが廊下の角でばったりと出会うと言うよくある場面。

それを作るためだけに色々と装いすら変えるのだからようやるわ。

この場に合わせて現れた王妃様。

普通ならここにいる訳がないのだ。

謁見も終わったし緊急会議もした。

だからその結果を責任ある立場の人間として、

国王陛下と共に王子に伝えるはずだし今どこにいやがるのか解らんが、

外側から鍵が掛けられるであろう馬車に乗せられた王子に覚悟と言う、

準備をさせる為にも、最後の涙なしでは語れない悲痛ばお別れを、

していなくてはい場面じゃなかろうか?

…ああ、だから馬車馬車寄せのこのルートにいても可笑しくはなく…

私と同じようにドレスカバを身に着けているとでも言いたいのだろう。

けれど組織が改変されてそれを許可を出したり、なんやらしなければいけない、

これから大変になる王族の皆様方の片腕であらせられる?

王妃様がここにいられる時間があるはずがないのだが。

偶然を装って入るが王妃様の行動ルートにここは絶対に組み込まれない場所。

最後の王子との語らいを済ませたのならさっさと自室に戻って、

国王陛下の手伝いをする時間でしょうよ。

王妃様は多忙なのだからその多忙な方がいていい場所ではないのだ。

無理にでも着替えたその姿は会議に出席した時とは違う姿であり、

少なくとも王子と最後の語らいをする為に着替えた訳ではない。

場を区切って仕切り直しをしたいと言う事がありありと姿だった。

当然王妃様に相応しい格好をしているのは当たり前で、

私の身に着けているドレスカバーに合わせた装いをワザとしている。

出掛ける予定など無いはずなのにね。

それは婚約者様に言い訳をさせない為。

自身の婚約者と近しい姿なのだから私の姿を理由に帰る事は許さない。

と言う表明であるのだ。

だからこそ南の公爵令嬢で時間を稼いで着替えたのだろう。

私達を帰らせない為に。

そしてワザとであるが「偶然」と言う形をとれば上位者である事を理由に、

談笑に持ち込めると言うせこい手ではあるが確実に対話する場を用意できる。

ここまでして今日私達を返したくない理由は、

今日を逃せば当然であるが会う機会は一気に無くなるのだから無理もする。

特に「私」は一線を引いて本当に婚約者様が旦那様になった後でなければ、

合うことは叶わなくなる。

理由は多々あるが、何より婚約者様が合せたがらない事は確かで、

合った所で対話にならない事が解っているから、

当然私が王妃様と二人で話すなんて事は婚約者様が許さない。


少し考えればわかる事なのだが何としてでも渡りを付けて、

王妃様は「私」に謝っておかなければいけないのである。

それは私が王子を許せる理由を増やすと言う意味であるのだが。

この「許せる理由」は言い方を変えれば感情は抜きにして、

契約の様に条件が揃えば都合の様に許した事になると言う意味なのだ。

王子を許す事理由が出来れば北の都合は関係なして「国境の危険な町」から、

王子が帰れる可能性が広がるのだから。

それは元鞘に戻り来ただけ。

国境の戦いを。

国防を北にもう一度丸投げにして任せる事に他ならない。

逆に言えば王妃様はもう令嬢として立ち振る舞う事が難しくなったと判定して、

婚約者様に私を切り捨てる事を望み始めたと言う事に他ならない。

未来の北の公爵夫人と言う肩書が無くなるだけでも、一緒に王子の失言も。

無かった事にするつもりなのだろう。

一時の間違いと言う言い訳も通りやすくなる。

だからこそ今私が許す理由をなんとしてでも作るのだ。

強制的に許させて王子を国境の町から戻す事為の「餌」をね。

でなければこんな無謀なスケジュールで動いて偶然を作ったりしない。

王国として完璧が求められる王妃様の姿は「それでも」乱れが各所に見える。

時間が無かった事による妥協なのだろうが…

その妥協をする事を許さずネチネチ、ネチネチと嫌味を言って来るいつもの、

余裕はないみたいだけれど…

その事を気にする余裕がないのだから仕方がない。

そこにいるのは王妃ではなく、自身が成功すればまだ王子を救えると考える、

愚かなただし母親としては正しい姿なのかもしれない。

だからと言って、私が王子が前線の平和な町で暮らす事を辞めさせる理由には、

なりはしないのだが。

それでも工面した時間をやりくりして、

この場に待機する為に「南の公爵令嬢」に時間稼ぎをさせた。

それが南の令嬢の役割で急いで準備したのが丸わかりなのは戴けないが、

王妃自身だったら許されると言う事なのだろうか?

随分とルールが緩く再設定されたみたいであるが、

それを許す必要は私達にはない。

既に休憩スペースで帰り支度を済ませている私を伴っている以上、

婚約者様は会話も軽く済ませたいと考えている事は言うまでもないが、

それすらさせない姿をしているのだからたまらない。


「ええ。良い会議だったので今日は失礼させて戴きます」


婚約者様の返答も軽い物にして…

そして「それでは失礼します」とだけ言って去るつもりだったのだが、

当然それを許す王妃様ではないのである。


「今日はもう遅いから休息が取れる客間を用意したのよ。

明日はもっと今日の会議の内容を詰めるべきだと思うの。

是非参加して戴けないかしら?」

「いいえ。

私の助言は全て終わっております。

後は王家と南の2家での具体的なお話でしかありません。

ただの「代理」はいるだけで、邪魔となるでしょう」

「あら?そんな事はないから安心して。

現場の生の意見は貴重な物だもの…

「警備」はそれなりの物を用意してあげたいのよ。

だから、ね?」


それは明らかに北を戦力としてその後ろ側で「警備」する事を望む意見だった。

当然そんな事を許すつもりはなく、そもそも前線で厳しい戦いをしている、

北2家に王族を守る余裕などありはしない。

全て却下された事を一から王妃は忘れ知らないふりをして

再提案しているにすぎないのだ。

良い返事など一つとして出来る物はなく国境を守る2公爵家は当然であるが、

王子を守るつもりなどさらさらない。

王子は名目上「平和な国境」に行くのだ。

その建前だからこそ王家とその王子の命を守りたい公爵家?は、

これから湯水の様に人と資産を消費して王子を守るのだ。


「すれば宜しいでしょう。

護衛がどうなるのかは解りませんが輸送完了までの警備の人員は、

既に手配しています「安全な国境までの旅」は保証いたします。

明日責任を持って国境までお連れするので、

その先どうするかはお任せします」

「で、ですから…その警備を…兵士をどうすれば良いのか、

それを教える役目があるでしょう?」

「はい。なので、全て隠さず教えております。

どれだけ兵士が犠牲になりながら国境を支えているか。

包み隠さず報告書として提出したのですから、後は有効にご活用ください」

「そ、そうよ。で、でも、今の情報が必要なのよ?

分るでしょう?」

「はいですから「今」の状況は先程の緊急会議でお教えいたしました。

もうこれ以上お伝えする必要はありません」

「でも…でも何か、何かあるはずです!

あらなければあの子は…どうか、どうかお教えください!」


何とか対談に引きずり込みたい。

王子にとって地獄へと続くノンストップのハイウェイは既に完成している。

あとはその道を走る馬車に乗って国境に行くだけでいいのだ。

婚約者様の用意した護衛は優秀だからちゃんと前線の町までの命は保証される。

婚約者様の王妃様を見る目は変わらない。

そしてもう婚約者様からは何も出て来ない。

それでも諦められないのが母親と言う立場なのだ。


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