「ね、ねえ貴女?
少し勘違いしているみたいだから聞くのだけれど…
どうして私の所に「お願い」に来ているの?」
「え?」
ここは話の起点である、「私が腕を晒した」事から、
別の所に移すしかなくなる。
でないと私が締め落とされる。
それは当然であるが婚約者様に好きにされると言う事。
意識もなくお屋敷に戻ってしまったらまた「既成事実」が一つ積み上がる。
-意識のない私を心配して離れる事ができず-
-当然目が離せないから一人でベッドに寝かせる訳にはいかない-
-せっかく整えた体を乱したのだから、これ以上乱される事をしたら許さない-
なんて言って一緒にベッドインする事が確定事項となる最悪な自体が待っている。
危ない事をする私から目が離せないなんて言われて夜一人で眠る事を、
許されなくなると私のあってないよな公爵令嬢としての自由?な生活は、
また一歩進んでしまって公爵夫人の生活を強いられる様になる。
学園の在学中に結婚式を挙げる事になって夫婦となる未来も見えてくる。
在学中に結婚式を挙げられないなんて事は暗黙のルールにしか過ぎず、
何時だって破る事が出来るのだ。
結婚に関する年齢制限?そんな物はない。
女の子の日が来て世継が作れるのであれば、
公爵夫人としての役割は最低限ではあるが出来ると考えられ周囲が熱狂的に、
後押しすれば当然出来てしまうのだ。
これ以上婚約者様を刺激するなと叫びたくなる。
もう南の公爵令嬢の自業自得と思ってもらってお帰り戴かないと、
私の未来がマッハでヤバイ。
「だって、私は礼儀を解っていなかった「あの
連れ出した時に言ったわ。
よく話し合いなさいって。
そして理解し合えば今日「私」はここにいなかったはずなのですよ?
ワザワザ呼ばれたから「私」は婚約者様と一緒に登城する事になったのだから。
呼び出したのは当然誰なのか解っているでしょう?」
「そ、それは…」
誰が私を呼び出す手紙を書かせる要因を作ったのかは解らない。
けれど、あのヒロインの男爵一家と南の公爵家と王家が都合よく、
現在の国境からの支援を潰せる失言を取りたかったからに他ならない。
事実は私には解らないが、ともかくその結果「腕を晒す事になった」のだ。
呼ばれなければこんな事になっていないと言い張るしかないでしょう?
それなら婚約者様も私の体に関する事じゃないから何も怒らないし怒れない。
緩んだままの婚約者様の腕チラリとみて納得してくれたのか、
締め付けが無くて私はホッとしていた。
少なくとも整えられていた雰囲気は「私」を引き合いに出して、
何とか全てを擦り付け責任転嫁の為の断罪を出来る形を取りたかったのだ。
けれどその手が私に届く前に婚約者様が私に取り付こうとする手を跳ねのけた。
結果私は呼び出されたのにも関わらず、責任追及の場において、
一言もしゃべる必要が無かったである。
王子と公爵家と王家はあの場違いな場所にいたヒロインの男爵家?に、
だまされたかそれとも多額の金かなんかを積んで、
腫物の様に扱わなくてはいけない国境の戦いからから逃げる為の口実として。
可哀そうな「
遠ざけておくべき事であり、あの時王子が何も言わなければ、
王子が「勘違い」をしただけで「済んだ」のだ。
けれど王子はそれが出来なかった。
我慢が出来なかった為の哀れな結末なのだ。
その伴侶に責任が無いなんて勿論許されない。
「私」を使って「婚約者様」を追い込もうとした彼女達と考えれば、
当然の反撃の結果なのだと思うのだが?
何故自分達だけ自分達が掲げていた口撃材料から逃げられると思ったのか。
結局繋がりを断ち切れず引きずられた南の公爵令嬢はたったそれだけの言葉で、
私と婚約者様に責任を擦り付ける方法を失ったのだった。
そうすると今度は止めを刺してやれと言わんばかりに、
私の型腕を婚約者様が支える。
私の責任転嫁?の方針が気に入ったのか背凭れから起き上がって、
私をもう一度包み込むように抱き占めるのだ。
当然その行動は私が「愛されている事」を見せつける為の行為であり、
婚約者様は無言で南の公爵令嬢を見つめ圧をかけ始める。
それは、無言の宣言であり南の公爵令嬢を追い詰める行為なのだった。
―大切にされる様な事をお前は王子にしてやったのか?―
―俺は大切に「私」に大切にされているから「我儘」を許しているのだ―
―お前は王子を大切にしていたのか?―
―王子をアクセサリーか何かと勘違いしていなかったか?―
そう。
一番の上位者である婚約者様は休憩時間とはいえ、
この場を取り仕切る事が許される立場。
故に言うまでもなく私達の会話を断ち切り南の公爵令嬢を追い出す事も、
当然であるが許されるのだ。
代理とは言いえ同格の家の御令嬢ともなれば勿論婚約者様の方が立場は上。
公爵閣下本院でないなら当然強気にも出られる。
当然であるが婚約者様は南の令嬢に、
明確な苛立ちを覚えている事だけは確かなのだ。
そして何より自身の責任を私に転嫁しようと足掻くその姿は気に入らない。
お腹を支えられながら、私の型腕を自身の腕に乗せるような形とらせながら、
婚約者様の詰め寄りは更に強靭な物となっていく。
その腕は私が切り裂いてその傷だらけを素肌を晒した腕である。
もう一度新しいロンググローブと多種多様に取り付けられお色直しされた腕は、
それだけで私の腕の酷さを隠すのに苦労した痕跡を見せる事になる。
言うまでもないが取り付けられまくった装具はそれ相応に私の腕を太く演出する。
か弱い南の公爵令嬢からすれば私の腕の太さはほとんど婚約者様の腕と同じ太さ。
それが何を意味しているのか理解しろと追わんばかり私の腕を支えているのだ。
―お前らがぬくぬくとお上品な生活に興じていられるのは―
―俺の婚約者が命を懸けて戦った結果なのだ―
―それすら理解できないのか?―
決して言葉は喋らない。
けれど婚約者様は語るのだ。
―ぬくぬくと暮らしたいのならそれに代わる代価を支払え―
―愚痴を言いに来るなど許しはしない―
今まで辺境で守らせて来た事を事実と認めたのだ。
それを取り消す事など許さない。
だた…
それだけなのだ。
確かに修繕され綺麗に整えられた私の腕。
それを婚約者様に支えられながら私は言葉を選ぶ。
ここで何も言わずに帰ればまだ私は何も聞かなかった事にする。
そのつもりで言うのだ。
「見せるべきではなかった。
この綺麗に作りこまれた腕の下に何があるのかを。
けれど、それを見せなければいけない言葉を使ったのは王子。
私は自身の価値が無くなろうとも「この現実」だけは否定する事を、
絶対に許さない」
「あ…あ…」
ガタガタと今までとはちがった震えを見せながら、
それでも南の公爵令嬢は私の腕に…
そのもう一度取り付けられた「うわべだけ」が綺麗になった腕に触る。
手ではない。
切り裂いて見せた傷だらけの腕に触りながら彼女は呟くのだ。
「つめ、たい…」
何重にも巻き付けて固い装具の下に取り付けられた腕が、
体温を外に漏らすなんて事はしないのは当然であり、
その温かさを感じる事の出来ない固い体でさえ私の婚約者様は、
不満を決して漏らさない。
そして何も言わずに抱きしめてくれるのだ。
稀有な存在だとは思う。
けれど同時に感謝せずにはいられない。
だからこそ、ちゃんとしたパートナーを見つけ立派に社交場を歩くべき人なのだ。
婚約者様は。
私になんて構っていないで相応しく気っと支えてくれる女性がいるはすなのだ。
「この冷たさが「私が戦い続けた証」であるのですよ。
私の令嬢としてはボロボロの体に価値はありません。
ですが、南の公爵令嬢?
この体を否定する事はこの体を元に戻す事が出来ない様に、
私をここまで生かしてくれた人が「いなかった事」にされる事は許さない。
貴女がそれだけ王子を必要としても私からお目こぼしはありません」
「そんな…」
ここで「そんな」と言えるから、根底にある上位者だから許されると言う、
考えを捨てられないのでしょうね。
その事に少々イラつきながら。
南の公爵令嬢は私の腕をぎゅっと掴もうとして…
その縋りつかれた腕を支えていた婚約者様はそれが不快だったのだろう。
一瞬で力を抜いて婚約者様の腕に乗っていただけの私の腕を力を抜いて、
ストンと下に腕一本分だけだけれど落としたのだ。
当然ギュと掴んで離さないつもりだった南の公爵令嬢は、
縋りついたその腕に猛烈な重みを感じてずるりと私に纏わりつかせていた、
その腕を手放してしまうのだが、不用意にかかったその腕の重さを感じ取り、
彼女は目を見開くしかなかった様なのだが…
これ以上何も言わずに帰ってもらいたいと言う願いは崩れ去り、
彼女は言ってはいけない事を口にしてしまうのである。
「重い…」
それは私を膝の上に乗せている婚約者様にとっての禁句である。
ギリリっと、歯を櫛縛り嫌な音が頭の上から聞こえてくる。
なんで?今ここでこの言葉を零すのか…
「余計な事、言ってくれやがるのだ」と、
考えた時にはもう遅かった。