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第23話

実の所私は王子がどれだけ戦えるか知らないし知るつもりもない。

当然であるが国境に人質として張り付けて、その結果送られて来る、

王子を守るための戦力にしか興味はないのだ。

婚約者様だってほぼほぼそのつもりだろう。

王子単体にはさして興味となりえる所はない。

ただ王国を存続させる為の駒としては血統上それなりに仕えるのかもしれない。

国境付近の町で暮らす様になった瞬間、王子の存在価値なんてその程度なのだ。

同時に命を投げ捨てる捨て駒。

どう呼ぼうと構わないがそうできる理由はあるのだから仕方がない。

これ以上失言を言って傷口を広げる事が無い様に処分してしまった方が、

あとくされが無い事も確かなのだ。

あの王子一人に拘る必要が無い。

国王陛下の後を継げる後継者はまだまだ「いる」と言う事であると同時に、

未だその後継者とする王太子は決定していないのだ。

今までの定石と言う事であれば当然であるが「南」の公爵家に認められる事。

それだけなのだ。

そこに「北」は含まれない。

南の2家が認めさえしてくれればこの国の半分は手中に収めたようなものだし。

そして経済と国家運営と言う2つを抑え込んでしまえば「北」の要求など、

どうとでも出来ると言う目論見が通用していた。

南で稼いで豊かになった分と防衛線を続ける以上ろくな経済活動が出来ない、

北を相手取り支援と言う名の下、商品にならない物を売りつけられたとしても、

商品を選ぶ選択肢のない「北」は、

どんなにひどい物でも買わざるを得ない状態にしていると言ってもいいのだ。

決を採るなんて言ったとしても王家と南の2票で計3票となり、

北が何を要求しても通らない。

そして「ある物」だけで対処しろと言い続けたからこそこの偏った国と、

犠牲を強いられ続ける北と言う国家内での致命的な格差が完成したのだ。

南の豊かさは完全に北の犠牲の元に成り立っていると同時に、

北の公爵家が統合した事により「票」も当然であるが一票減るのだ。

同時にそれは王家と対立した時に南が更に有利となると言う事であり、

そうなれば北に大公爵家が出来たとしても南は脅威と思わず、

当然「王家」の立場としても、御しやすくなったとしか考えない。

そこで行われている命のやりとりは無視で来たのだから。

そして今回婚約を結んでいた南の公爵家は今現在進行形でこの戦争に、

引きずり込まれようとしている。

南の2家の公爵令嬢もまた「王子達」と婚約している。

よくある第1王子が駄目になったから継承権を破棄されて、

妃教育を受けて来た婚約者は第2王子と再度婚約を結ぶ。

みたいな形は、この場合は生まれない。

南の2家は当然の事として第一王子と第2王子に対して、

一人ずつ婚約者を宛がっているのだ。

これから続く国家の繁栄も既存のルールを世襲して南の公爵家と王家だけで、

国家運営を決めてしまえる体制を作り続ける為の処置なのである。

こうして南と王家は絆を強め更に北に対して、

強くあたれ従わせる下準備を作っているのだ。

だからこそ出来るそして許されると王子は勘違いできる今回の結果なのだが。

今回その一角を支えるはずだった王子が前線に行く事が決まった。

ズブズブだった王家と公爵家との関係があるからこそ、

当然婚約者として繋がった公爵家を王家が逃がすはずもなく、

きっと支援を要求されるのでしょうよ。

ただしその支援が南の公爵家の経済規模に相応しい物ではなくて、

婚約者として繋がりがあるから程度に抑えたいと言う考えが透けて見える。


「失言をしたのは「王家」なのだ。こちらに迷惑をかけるんじゃない」

「あんたたちの娘が婚約者としてちゃんと王子を抑えられなかったのだ。

しっかりした娘を用意できなかった責任を公爵家も果たせよ」


ま、あ、言葉にすればそんな応酬が続く事になるのだろうさ。

相当怒られた事だけは確かなのだろうね。

これからも権力の中枢にいられると思っていたのに。

現実は爪弾きまではいかないだろうけれど血縁があるからと。

無理をすれば押し通せたはずの部分がもれなく無くなったと考えられ、

確かな権益が削られたのだから。

それ所か娘一人を無駄にしたと思ったらこの失態が残した結果による、

損実は大きすぎるのかもしれないけどね。

南の公爵令嬢の1人としては王子を抑えられなかった不満をぶつける相手は、

あの時学園でヒロインを無理矢理連れて行った、

私にしかないとでも言いたいのだろう。

もういいじゃん諦めなさいな。

そして形だけでも諦めて支援位してやれよ。

お前らにとってははした金だろ?

私に文句を言いに来るのだって遅すぎるんだよ。

やるなら登城する前に連絡していれば少しは変わったかもしれないけれど、

どうせそんな考えだって無かったんでしょう?

そもそもあの程度で揺さぶられる様な関係しか築けていなかったのが原因だとは、

考えられないんだろうか?


「で、殿下は既に立派に生きていらっしゃいます!

ですから、わざわざ国境付近の町へ行く必要はないのです!

その事は「北の公爵令嬢」である貴女なら分るでしょう?」


全然理解できない。

アレが立派なら失言はしないし当然墓穴を掘って私に腕を晒させるような、

致命的なミスをした上に婚約者様の気分を害するような事は言うはずがない。

あ、そうか。

間違った。

忘れていたわ。

前提条件として、たいした事だとは思われない「存在」でしかないのか。

「代理」であると言う上に私はあくまで婚約者様の「おまけ」に過ぎないのだ。

悲痛に上げる叫び声は純粋にこれから南の公爵令嬢に待っている、

「王子」と言う物に乗っかった「権力」が消失し、

抱え込む「負債」を嫌がっているのか。

これから婚約解消も出来ず、

そして次のパートナーは見つからない。

そう考えれば公爵令嬢としての価値は暴落し最悪?となるのか、

解らんが、下級貴族に嫁ぐ事になると考えれば、

ちょっと泥が付いたかもしれないけれど戦地から引き戻せるか、

それか「今」私が王子からの謝罪を受け入れて婚約者様と共に「無かった事」に、

する事が出来れば今までと同じでいられるのだから。

…そんな事させると思われている辺りが、「南」なのだろうけれどねぇ。


「私の腕や体に付いている傷は実は嘘なのよ。

ちょっとした悪戯だったのよ、ごめんなさいね」


とでも言わせたいのだろうが?

そして言って貰えると思っているから国境に行かなくていいのだと…

そう流れを変えたくて…

ただまた婚約者様の腕に力が入るのだ。

それはふざけた提案に対する苛立ちであると言う意味と、

-会話を辞めさせたい-

という合図であり「現実を知らない奴」との会話を続けるなと言う、

意味でもあるのだ。

もちろん、このままこの茶番劇を続ければ「私」絞め落とされて、

-疲れて眠ってしまう様に意識を失う事になる-

会話の相手がいなくなれば当然であるけれどこの対談は中断して終わり。

後は婚約者様が一言。

「済まない。

寝てしまったみたいだ。

続きはまた今度に願いたい。

お帰り頂こう」

なーんて言って話は終わってしまう。

けれどおそらく「次」は与えられない。

学園では専用の「護衛」が増え私の友好関係として相応しくないと、

婚約者様が判断すれば当然同じ学園に通っているとしても、

話す機会は奪われる事になるのだから。

それが南のやって来た「派閥」の作成であり、

学園時代から作られる力関係を考慮した派閥と既得権益が出来上がらなければ、

乙女ゲームは成り立たない。

ヒロインは天真爛漫でいる事が出来ないのだ。

ちょっと目に掛けて貰う所から徐々に始まり次に特別扱いが始まり、

間違えた平等によって素敵な仲間が出来て注意する者もいなくなる。

その作り上げた取り巻きと言う名の派閥に思う存分平等を広めて、

貴族社会の基盤をぶっ壊すトリガーを作り学園を悪役として立ち振る舞った、

「南の公爵令嬢」を排除する準備が出来上がる。

そう、考えていたのだけれど、考えてみれば悪役令嬢となる人なのだ。

その根底にねじ曲がった「独占欲」を持っていても可笑しくはないのか。

公爵令嬢としてこれからヒロインと戦うはずだった悪役となる素養の、

原因は過剰な束縛から来るのじゃないのかと言う証明なのかもしれない。

それでも「公爵令嬢」と一国の「王族」なのだから、

邪魔者ヒロインがいなければ、その関係は妥協と打算の果てに、

上手くいく事に限り素敵な関係ともなりえたのかもしれない。

それを私が考えても仕方がない事なのだが。

けれど令嬢の慌てようと、乱れようを眺めながらじっとしている私に、

加わり続ける婚約者様の「力」は全然緩まない。

私を気絶させこの下らない会話を終わらせようと動いているのだ。

ちょ、ちょっと待ってほしい。

ちょっと現実を私の事を教えてあげる時間位作らせてほしい。

そう思って私は力が加わり始めているお腹に回された手をポンポンと叩くのだ。

何度か叩いた事で腕にかかる力は緩んで楽になる。

返答しても良いと言うお許しと同時に脇の下に手を差し込まれて少しだけ、

体をふわりと浮かせられるともう一度、

私をそのお膝の上にしっかりと乗せ直したのだ。

首に回して上半身を支えていた胸周りの腕からは解放されて、

その代り対話の姿勢を取るのだが同時に婚約者様の膝に置いていた手を、

包み込まれる様にしながら婚約者様の両腕は、

私の手をぎゅっと被せる様に包み込んで動かせなくされたのだ。

私以上に婚約者様はイラついているらしい。

これ以上私に会話をさせたくない。

反論するのなら一回だけにしろと言う意味でもあった。

解っているしもとよりそのつもりなのだ。

婚約者様は、カウチの背凭れに体を預けてふんぞり返る様な形を取り、

私の背中か体を離すのだが、当然両腕しっかりと固定された腰回りはそのままで、

手は婚約者様に包み込まれたまま。

そんな姿をせられる「南の公爵令嬢」は私を睨むのだ。

おいおい辞めてくれぃ。

これ以上婚約者様を刺激しないでほしい。

な、なんとか婚約者様の苛立ちを抑える為に私は反論する方法を、

変える必要が出て来てしまっていた。

婚約者様は当然であるが私が「素肌」を晒す事を良く思っていない。

あの時場の勢いで切り裂いた腕のカバーをそそくさと隠す婚約者様の表情は、

明かな怒りと悲しみを見せていたのだから。

そりゃ婚約者がその価値を下げるような事をして将来が不利になる事をしたのだ。

怒らない方がおかしくて不思議な状態だったのだ。

ここでもう一度「あの腕」を見せたら一発で令嬢にはお帰り戴けるが、

その瞬間私は絞め落とされる事が確定したのだ。

腰の腕にかかる強さを考慮しながら別の方法でこの場を切り抜けざるを、

えなくなってしまった。


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