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第22話


我慢だけだけど。

体はとっても正直なのである。

疲れていたら婚約者様から離れないのである。

今は動かそうとしても腕に力が入って動けないのだが。

決してドレスの重量に負けた訳ではないのだと言い張るのだ。

しかし話をする体勢でない事は確かで、

それでも婚約者様の隣に腰かけるなりなんなりするべきなのは解っている。

けれど当然の様に婚約者様は私を放さないし、

会話の準備が出来てないと思っている。

令嬢同士の会話である以上「私」と南の公爵令嬢との会話となるべきで、

当然であるが私の加護者である婚約者様は口を出さないつもりでいるらしい。

もう一つ言うのであればさっきの会議でその流れを主導していたのは、

南の2公爵家なのだ。

その会話の流れ私の腕を見ても当然の様に「節約」をした事は、

許せる事ではなさそうだった。

結局、南の2家は婚約者様にとっては何を言っても味方となる事はないと、

結論付けられる結果となった事は確かだった。

それは「どうでもいい2家」から「敵として見ておいた方がいい」に、

婚約者様にとってランクアップ?した事は確かであり、

そうなれば当然それに連なる立場である「南の公爵令嬢」も敵ではないにしろ、

警戒するべき相手となってしまっている事は確かなのだ。

当然その警戒するべき相手の前で「私」を手放すなんて事は考えないのだ。

私がどんなに顔に「笑顔」を張り付けようと、

少なくとも「南の公爵令嬢」と共に入って来た、

護衛騎士達を見る目は笑っていない。

私の体がきつい事も解っているからなおさらだ。


ただこのままでは何も始まらない事だけは確かで。

そうなれば帰る時間は更に遅くなる。

この会談さえ終われば今日の「予定外」の行動も終わる。

さっさと帰りたい私は、もう仕方がなく話しかける事をせざるを得ない。


「ええとそれで、ご用件は何でしょうか?」

「そ、その姿は私に対しての当てつけですか?!

わ、私が愛して王子殿下に愛してもらえなかった事に対する!」


…この期に及んで南の公爵令嬢様から出てきた第一声がそれだった、

ただこの瞬間、何しに来たのか理解出来てしまった理解出来てしまったから、

さっさと帰りたくなる。

唯の愚痴を聞いて貰いたくて来たにすぎないのだ。

確かに私はヒロインを退場させて学園であの場を無理矢理収めた。

その結果「よく話し合え」と言ったにもかかわらず、

結局説得できなかったと言う事なのかもしれない。

真向正面からこの「喧嘩」を買うべきなのかどうか悩む所なのだけれど、

買っても問題ないよね?

ほとんど言いがかりなのだから。

帰りたいと言う思考が加速して、

―ええそうですよ。今婚約者様と愛を語らっているのです―

―邪魔だからさっさと帰れ―

とかなんとか言ったら、大人しく帰ってくれるのだろうか?

そんな私の雰囲気を感じ取ったのか

婚約者様はキュッと腰と胸に回した手に力に手を込めるのだ。

それは「愛している」の合図とかそう言った事ではなくて。

反論するな何も言わずに聞き手に回ってやれと言い意味。

私を制止する方向で動いてきたのである。

なんだかなぁ…

私の知らない「苦悩」が南の公爵令嬢にはあるのかもしれない。


「私は、私は努力しました。

で、殿下を愛しました。愛してあげれば愛してくれると思ったのです。

けれど殿下は!王子殿下は私を愛して下さらなかったのです!」


何をどうやって努力したのか解らないのだが…

ただ王子にとって南の公爵令嬢は「乙女ゲーム」の通りに、

「悪役令嬢」として階段をかけ上がっている最中だったのかもしれない。

学園に入る前に婚約が決まって?(いたかどうか知らん)

今までは一目に触れなかっただけで入学までに王子との関係はボロボロだったと。

乙女ゲームの断罪。

学園3年間で恨み辛みが溜まりきった王子が暴発する為の土壌は、

この南の公爵令嬢を見るだけで「なんとなく」ではあるが、

出来上がりつつあったのではないかと…

彼女の言葉を聞いていると思えてならないのだった。

愛してあげれば愛してくれる?

何を言っているのか解らない。

そもそも家同士の繋がりで、

「愛する」「愛される」と言う関係は後回しだろうに。

未来の「王妃」になる立場なのだろうから当然感情のコントロールも、

出来なくちゃいけないし、出来ないなんて言わせて貰えない。

そんな事を考えている「私」はぜんぜーん感情のコントロールは出来のだが。

私の感情はさておき、この未来の王妃候補だった彼女は結局どうしたいのだ?

どうしたかったのだ?

何をどう努力したら愛して貰えなかったと言う結論になるのか私には解らない。

現在進行形?で私は婚約者様から偏愛を受けているのだから。

そもそも公爵令嬢なんて立場なのだから「お家の為に生きる」のが、

当然として教育されたのではないのかね?

他人の金で苦労もせずにのうのうと「美しく」そだてられたのだから、

その役目はどんなに苦しくとも果たさなくてはいけないでしょうよ。


「わ、私は、何かを…

間違えたのでしょうか…

未来は決まっていたと言うのに。

その未来の為に努力してきたと言うのに…

王妃となって殿下を支えられれば、良かっただけなのに」


途中から涙ぐみ、震え声で訴えて来る南の公爵令嬢。

ただその言葉を聞いた私が思い浮かべる事はただ一つ。

なんだ。

ただの幸せ自慢か。

王子殿下がこの度めでたく国境線の町に引っ越すと言うのだ。

だったら婚約者らしく?付いていけばいいのではと思ってしまう。

何を言いたいのか解らないと言うか、南の公爵令嬢と王子殿下の差は、

親の用意したレールの上を走る事を嫌がったか、そうでないかの差でしかない。

南の公爵令嬢は「幸せなレール」を歩いていると思っていて、

王子殿下は「自由のない不幸なレール」だと思いそのレールから降りたのだ。

どっちの決断が正しいのか解らなかったが、

私と婚約者様の「レール」は地獄に繋がっていた。

その地獄へと繋がるレールの分岐点を何度も何度も命がけで切り替えて、

生き延びてきたのだ。

その裏側でこいつらは結局北の2家が命がけで作り上げた平和を、

浪費し遊んでいたって事だった。

隣国の危険な兆候をもみ消して楽園で遊んでいた大人達に育てられた、

次代の者達がマトモな訳が無かったのだ。

その時私は完全に思い違いをしていた事に気付いてしまったのだった。

ヒロインが物語から退場したら宮廷抗争は抑え込める。

ヒロインがヒロインたらしめるのはその世界がヒロインの思った通りに、

用意されているから。

だからこそ「断罪」は行われるのだと勝手に思い込んでいた。

そしてそれが「シナリオライター」の意志であるのだと。

そう思いたかったのだ。

カナリアが成功したから私はシナリオが存在するのだと思い込み、

ヒロインが転生者で生家と仲が悪くても健気に優しさを保ち続け、

泣きながら入学して学園で努力するそして色々な物に認められて…

そう言った事柄全てが「強制力」なんてものだけで片付けられる物ではない。

本当にシナリオの強制力なんて物があったらその前提条件が、

すべてが変わっていく訳が無いのだ。

現実とゲームの狭間なんて言い方はしたくないけれど、

この世界がゲームでないから北の2家は生き延びられた。

私がカナリアをした事も当然あるけれど、

それ以上に隣国の軍略の正しさがあったから侵攻を私が確認出来たのだ。

本当にゲームが下地にあって「強制力」があったのなら、

北の2家は今存亡の危機になって私は王都に避難するレベルなのだ。

ではご都合主義的に生まれてくる展開は何なのか?

それはそう言った思惑が世界的になる様に作られていたからに他ならない。

強制力など無くとも当然の様に王子は婚約破棄をして卒業後は、

宮廷抗争が起こる土台が出来ていると言う事なのだ。

それは異物であった「ヒロイン」を排除しても別の誰かを、

巻き込んで物語は続けられたと言う事に他ならない。

私は場を荒らすヒロインさえいなければなんて考えていたのだが

それが間違いで卒業パーディーで「王子殿下」という爆弾がいれば、

誰かを犠牲に「断罪」が行われるという…

その原因が「目の前にいる」のである。

彼女の口から零れ落ちた一言「愛してあげた」と言う言葉は、

上位者からの言葉に他ならない。

ただでさえプライドだけは高い王族が「あげた」なんて言葉を使おうものなら、

その言葉だけで「王子」のプライドは傷ついたのだろう。

…おそらく王族としてとの務めとか何とかいって次に待っているのは、

「〇〇してあげた」シリーズ。その一つ一つが王子を「ダメ」に見せて、

王子殿下は、南の公爵令嬢に劣等感を抱き始める。

二人だけの関係で周囲に他人がいないのであれば何ら問題は無かったのだろうが、

学園という他者に見られる場所に出れば自ずと南の公爵令嬢は、

王家に相応しいかを見られ続け心を病む事になる。

そして王子は王子として南の公爵令嬢の立ち振る舞いが良ければ

「劣等感」を覚え、同時に男尊女屈のこの国では自分の婚約者ですら、

思い通りに動かせないのかと言われるのだろう。

南の公爵家がその財力を使って最高の公爵令嬢を作り上げれば上げるほど、

王子殿下はその「最高で完璧」な姿をした公爵令嬢に、

劣等感を抱かずにはいられない。

王族のプライドがそれを許してくれない。

王子が感情に忠実で抑えが効かなく成長したのは、謁見の間での出来事で、

確認済みだし教育係がその辺りの二人の関係を軽んじたとしても仕方がない。

結局幼い頃からの友好関係の構築に失敗していた、王子と未来の悪役令嬢に、

学園のあの時点で「よく話し合え」なんて言うだけ無駄だったのだ。

そして「愛してあげた」南の公爵令嬢が、ここに来た理由は、

公爵家が用意してくれていた、歩くはずだった「レール」が、

壊れてその先が無くなったからに他ならない。

決して「王子」を心配している訳ではないのだ。

お似合いと言えばお似合いの二人だったと言事なのだろう。

でだ、そこまで理解できる言葉をはいて下さりやがった私が、

南の公爵令嬢に掛ける言葉は何が良いのかって話なのだ。

いや…そもそも気になったのが王子が前線に行く事になったのだ。

王子と南の公爵令嬢との婚約関係はどうなるのだ?


「私は王子のパートナーとなるべく、苦しい令嬢生活を続けてきました。

そして未来の王妃として王を、そして国を支えるつもりだったのです。

けれどそれも叶いません…

もう私には、その資格がないのです…」


悲劇のヒロイン?ぶってはいるが、

なかなか酷い事を言っている事に気付いているのだろうか?

彼女の頭の中では「王子は国境で死んだ」と言うストーリーが、

出来上がっていると言う事なのではなかろうか?

私は小首をかしげて疑問に思うのだが、

そうすると首に手を当てて頭を支えている婚約者様が、

その腕をクイクイと動かして私の頭を刺激してくる。

それは私の疑問に対する回答なのである。

傾いた頭は宛がわれている大きな手でての甲を使って押し戻される。

それは「王子は死ぬことはもう決まっているのか?」に対する回答。

―まだ死ぬと決まった訳じゃない―

否定し疑問に思うなと言う意味で当然頭を元の位置に戻された、

私は、それはそうだなと思うしかなかったのだ。

自身によっているのか思い込みが激しいのか、

同時に婚約者様からの締め付けは緩み、

その事に反論してやれと言うサインでもあった。


南の公爵令嬢からの訴えと言う名の愚痴を聞きつつ。

彼女が遠回しにねちっこく言って来ている事は至極簡単。

「私の将来のお相手である王子様が前線に行くのだ。

そこで死んでしまったらどうするつもりなの?」

結局落ち度と言うか失言で前線に行く事になったとしても、

婚約は解消されていないと言う事なのか。

失言王子と一蓮托生なのであれば仕方がないのかもしれないが。

けれど王子が何処まで生きられるかなんて私達の関与する所じゃない。

今までどれだけ「国境」の武力衝突に無関心を貫いてきたのかと言いたい位だ。

それを今更「どうしよう?」「どうなるの?」と、問われた所で当然であるが、

私達の知ったこっちゃない。

当然南の公爵令嬢の将来がどうなろうと気にする事なんて出来ないのだ。

それだけの状態に追い込んで置いて、支援をしろだなんてちゃんちゃらおかしい。

大切な王子様が生きられるかどうかを決定するのは、

王家の「手厚い」支援であるが当然であるが私達じゃない。


「そうですね。

国境の町は遠いですが…

殿下は王子として素晴らしい実力を持っているのです。

きっと王国の為に立派に生きてくれるでしょう」


どれだけ私達にどうにかしろと騒いだところで今更決定した、

王子の支援の内容が覆る事はないし究極南の公爵令嬢の言っている事は、

今まで支援してこなかった王家とそれに追従した、

南の公爵家の問題に過ぎないのだ。

それを未だに「北」の責任にしたがっているとしか私には思えず、

国と南の公爵家が北を支援すると言う事が、

形となるのはまだまだ先になりそうだった。



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